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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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窮地

『――――GAAAAAAAAAAAAAAAA!!』


 グジュリと黒い液体……いや、瘴気となった身体を地面へと撒き散らしながら、虎のようなモンスターが迎撃用のゴーレムの1体へと駆けて行く。

 近づいてくるモンスターに気づいたらしく、人間だったものを上から下へと殴りつけて粉砕していたゴーレムがモンスターが駆けて来る方向を向くと駆け出し始めた。

 ズシンズシンドシンドシンと両者は駆け、モンスターは前足を上げて爪を立てて腕を振り下ろした!

 けれどモンスターが前足を振り上げると同時に、ゴーレムもがら空きとなっているモンスターの胸元へとパンチを放った!

 ドゴンッ! という音と共にモンスターの胸元にゴーレムの腕が突き刺さり、ゴーレムの身体へと大穴を開けていた。

 胸元に大穴を開けられたモンスターはゴーレムへと腕を振り下ろそうとしていた体勢のまま、ぐらりと揺れ……仰向けとなって倒れた。


「……くそっ! こいつらは比較的強いやつらを用意したんだぞッ!? それをあっさりと叩き潰すって言うのかよ!!」


 虎のようなモンスターが倒れ、さらには動員させた人間の搾りかすとなった物も半数以上潰れて行くのを見ながら、アークは忌々しそうにゴーレムを見ていた。

 ちなみに今現在、虎は倒されたが……それよりも前には虎以外のモンスターも他のゴーレムたちによって排除されていたのだった。

 数的に自分たちに優位であるはず。その状況に笑みを浮かべていたアークだったはずなのに、今現在の状況に苛立ちを上げる。


「くそっ! やっぱり、パワー馬鹿のエレクみたいな奴が居たら良かったか? ……いや、今はオレ様の立場がピンチなんだ。だったら、オレ様の力で何とかして実力を認めさせなければ……!!

 なにか、何か良い方法はねぇのか……!?」


 ぶつぶつと呟きながら、アークは周囲を見渡す。

 ……見渡した周囲では、殆どゴーレムによって自身が連れて来たモンスターや搾りかすが叩き潰されており……心の中に焦りと苛立ちを生み出した。

 だが……周囲を見渡していたとき、不意にある考えがアークの脳裏を過ぎった。


(…………ちょっと待てよ。あまりの猛攻っぷりに戸惑っていたが、オレ様は森の国で何をやっていた?

 ……おいおいおい、何を考えていたんだ。何を焦っていたんだオレ様は。こうすりゃあ簡単だったんじゃねぇかよ!!)


 口が裂けるほどの笑みを浮かべながら、アークはこれから起きることに期待しながら……周りのモンスターたちに指示を出した。


「ケヒャヒャ、お前ら! 身体を瘴気に変えながら、そのクソゴーレムに突っ込めッ!!」


 すると、アークの指示通りに瘴気が混ざり合っていたような身体であったモンスターや人間の搾りかすは歩みながら、徐々に元の形を捨ててドロドロとしたスライムのような物体へと変化し始めていった。

 その様子に、命ある者であれば躊躇したり戸惑ったりしただろう。けれど、モンスターたちと対峙しているのは高性能であり強さも折り紙つきだけれど……命なきゴーレム。

 だから、それらは純粋な瘴気へと変化していったモンスターたちへと恐れもせずに近づき殴りつけるために動き出した。

 普通のモンスターであれば問題は無いだろう……、だが……。

 瘴気の塊へと変わり果てたモンスターを殴りつけたゴーレムであったが、ゴーレムの攻撃は効果は無いらしく何度も殴りつけていた。

 そして、そんなゴーレムの身体へと瘴気の塊はウゾウゾと纏わり付き……、ゴーレムの身体を覆いつくしていった。

 そんな様子を画面越しに見ていた転生者たちは初めはゴーレムを覆いつくして圧迫して壊すつもりかと考えていたらしい。だが……、ゴーレムを覆い尽くした瘴気は段々とゴーレムの巨体へと染み込むように中へと入り込んでいった。

 それを見ていた転生者たちはようやく敵の目的を理解した。だが、理解するのは少し遅かった。


『『『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――――!!!!』』』


 直後――、ゴーレムの身体に変化が訪れた。

 瞳が黄色とか金色だったりしたゴーレムは赤く染まり、口の繋ぎ目のようなものがあったりするゴーレムの口がパカリと開き……瘴気に汚染されたゴーレムたちは雄たけびが上げる。

 そして、敵意ある瞳で……地下へと沈み隠れた家々のほうを見ると……ズシンズシンと歩き始めた。


「さー、行きやがれゴーレムども! この島の人間を片っ端から表に出して、あのクソガキをぶち殺せ!!」


 それを見ながら、アークは水を得た魚のように偉そうに大声で言う。

 ……本当、こいつは都合のいい人種であると思う。

 そしてゴーレムたちはアークの命令に従うように、振り上げた拳を一気に振り下ろして隠蔽をしていた地面を砕くと隠されていた家を曝け出して屋根を壊し始めた。

 しばらくすると、その家々の住人であろう人物たちの悲鳴が木霊した。


 ◆


 そんな光景がテレビ越しに映し出されている中、一番奥のほうにある家に居るアタシは拳を握り締めていた。


「…………酷い」

「こわぁ」


 アタシの隣ではテレビの光景に怯えているのか、狐アリスがギュッてしがみ付いてきた。

 そんな彼女を宥めるように背中を優しく叩きながら、アタシはどうするべきか頭で考え始める。

 正直言うと、今すぐにでもアタシだけでも島の仲間を助けに行きたいと思う。

 けれどアタシ自身にはあの瘴気を纏ったモンスターと対峙する力は無いし、ましてやこの世界のアリスと違ってステータスは普通に少し毛が生えたぐらいなものだ。


「――って、神様ならあんなモンスターも簡単に倒せるんじゃないの?」


 ここに居るのはアタシたちだけでは無いことを思い出し、アタシは人間の神へと振り返った。

 けれど、人間の神は表情を暗くしながら……首を横に振った。


「それは無理です。私は……いえ、私たち神の力は創造は出来たとしても破壊は出来ません。ですから……」

「だったら黙ってこの島の住人が捕まるのを見ていろって言うのっ!? アタシはそんなのは嫌!!」

「ですから……彼女たちが早く特訓を終えて戻ってくるのを信じるしかありません」

「……つまり、彼女たちなら何とか出来るかも知れない……ということで良いの?」


 アタシの問い掛けに、人間の神はこくりと首を縦に振った。

 じゃあ……サリーたちが戻ってくるまでどうしたら――――ッ!?

 どうにも出来ない自分自身に歯噛みをした瞬間、家全体が揺れるのを感じ……アタシは焦った。


「ひぅっ!?」

「ッ!! くっ!? も、もうここにやって来たって言うのっ!?」


 音と衝撃に驚いて尻尾をピンと立てている狐アリスを抱き締めて、アタシたちはテレビを見ると……今まさにアタシたちが居る家の地上でゴーレムたちが地面を殴りつけている最中であることを知った。


「…………神様、この子をお願いできます?」

「えうぅ……!?」

「分かったわ……。でも、無理はしないでちょうだい」


 それを見てアタシは顔を歪ませながら、万が一のことを思いながら狐アリスを人間の神へと預けた。

 そんなアタシを見て、狐アリスは手を伸ばすけれど……それを掴むことは出来ない。

 だからアタシは……その空いた手に剣を構え、もうじき天井を壊して来るであろうゴーレムを待っていた。


 そして――、天井は破られた。

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