フォードの特訓・2
「どぇりゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっっ!!」
雄叫びを上げながら、オレは振り上げた木剣を目の前に鎮座する大岩へと一気に振り下ろした!!
振り下ろされた木剣が大岩へとぶつかり、大岩は割れ…………る訳はなく、大岩を殴り付けた衝撃がオレの手を走り……全身へと行き渡り身体が痺れてしまった。
「ふぉ――ふぉげええええええええぇぇぇぇぇ――――ぶげっ!?」
更に、力いっぱいに振り下ろしたために木剣は衝撃を身体に伝えた直後に、真ん中で折れてしまい……オレの顔面へと折れた破片が命中した。
痺れたところに、顔面に破片がぶち当たるというコンボを受けて、地面に倒れたオレはあまりの痛さにその場で転げ回った。
てか、いてぇ! マジで痛いから!!
「――ったく、だから馬鹿正直に力いっぱいで殴ろうとするなって言ってるだろ?」
「うおおおおおおおおぉぉぉぉ…………っ!!」
「って、聞けよ。人の話を……」
痛みに転げ回るオレへと未来のオレは呆れたように語り掛けるが、それに返事をする余裕なんてない!
だって、だって顔が痛いんだもんっ!
そんな風に顔を押さえながら、ゴロゴロと転げ回っていたオレだったが、未来のオレは話を聞かせたいらしく……最終的に実力行使と言わんばかりに頭を足で踏んできてオレが転げ回るのを止めた。というか止めさせられた。
…………あの、もう転げ回らないので、足……どかしてくれませんか?
「どかして欲しい……って言うだろう。だけどな……断る!」
「な、なんふぁっへーーーーっ!?」
地面に顔を潰されているので、上手く声が出ないけれどオレは叫んだ。
だってさあ、普通どかしてくれるのが当たり前じゃないのかっ!?
「だってさ、過去のオレ……お前は何度も力を込めすぎるなって言ってるのをまったく聞いちゃいないだろ?」
「いや、聞いへる。きいへるから……」
「聞いていないから簡単に木剣が折れるんだっての……、良いか? 力を込めていなくても、やりかたさえわかっていればこんなことだって出来るんだ。見てろよ」
そう言って、未来のオレはオレの頭から足を外すとオレが斬り損なった大岩へと歩み寄った。
そしてその手には、オレが持っていた物と同じ素材で同じ長さの木剣が握られていた。
大岩の前に立った未来のオレは、軽く息を吐いて吸っての深呼吸を行い……木剣を構えた。
その様子は、未来のオレと初めて会ったときのようで……いや、違う。
あのときは、今のオレみたいに力任せに振り下ろしていただけだった。
けれど今、未来のオレから感じられるのは荒々しいどころか逆に静かに感じられた。なのに、荒々しかった雰囲気よりも遥かに気迫を感じるのは、どうしてだ……?
「前と様子が違うって思ってるだろ?」
「あ、ああ…………。まさか、初めて会ったときは実力を隠していたのか……!?」
「……いや、違うな。ぶっちゃけると、過去のオレであるお前に会ったっていうことで柄にも無く緊張してたんだよ」
あ、……そ、そうだったのかよ。
「ってことで、これがオレの――実力だッ! フッ!!」
振り上げた木剣を、軽く息を吐くと同時に未来のオレは振り下ろした。
力は込められていない、けれど今まで見たことがある攻撃よりも速く感じられるそれは――軽々と大岩を真っ二つに切り裂いた!
しかも、その振り下ろしで出来た衝撃波は大岩を切り裂いただけでは終わらずに、少し先の地面を抉り木々を伐採していった。
……え、なんだこれ?
「威力も半端無いけどな、岩の断面も見てみろよ」
目を見開きつつ、オレは未来のオレの言葉に従うように真っ二つに切れた大岩へと近づき……、恐る恐る断面を見てみた。
……断面が綺麗に切られているからか、顔が反射するように映っていた。
「か、鏡みたいに反射してるほどの断面って……どれだけすごいんだよ……?」
「褒めるなって、ただ単に脱力だよ脱力。力を入れすぎると逆に力が出ないって言うことを成長していって知っただけだって。……おやっさんも考えずに本能で動けとか言ってただろ? そういうことだ」
「考えずに動け……、そして脱力……か」
「ああ。ってことで顔の腫れも引いただろ? だったら、また再開してみろよ」
そう言うと、未来のオレは木剣を手渡してきた。それをオレが受け取ると、待ってましたとでも言うように、大岩が何処かから姿を現した。
それを前にして、オレは木剣を構えると……静かに目を閉じて、脱力してみることにした。
すると……、今まで張り切りすぎて固まっていた筋肉がゆっくりと解れてくるのをオレは感じ……、気を入れすぎていたことに漸く気づけた。
「脱力するついでに、緊張をほぐすことでも考えてみたらどうだ? 例えば、サリーのこととか」
「ぶっ!? な、何でそうなるんだよっ!? い、いや……けど、考えてみるだけ考えてみるか……」
未来のオレにツッコミを入れたかったが、未来のオレは嫁のことを考えるのは当たり前だろ的な顔をしていた。……くそっ、向こうは結婚しているから考えても普通だろうけど、こっちは結婚とかしていないんだから考える余裕なんて無いってのっ!!
だけど、オレが強くなってサリーさんを護れるようになって、魅力を感じるようになってくれたら……。
『フォードくん……、すてき……♪』
とか言って、あの素敵なオッパイを押し付けながら、潤んだ瞳をオレに向けてきたり……。
『フォードくん……、はげしいのね……』
って言って、オレと同じベッドでオッパイを押し潰しながら、昨夜のことを反芻するようにして頬を赤らめたりして……。
『フォードくん……、ワタシしあわせよ』
って言って、オレがモンスター狩って手に入れた報酬で買った指輪を付けて涙を浮かべて微笑んだりしてきて……ちなみに尻尾がブンブン振るわれてたりして……。
それからそれから……うへ、うへへへ……うへへへへへへへへへ…………。
「…………おーい、かえってこーい。……駄目だこりゃ」
「うへへへへ…………、おっぱーーーーいっ!!」
そして、ついに頭の中の妄想が頂点に達したとき、オレは掛け声と共に何時の間にか振り上げた木剣を振り下ろした!
――ズギャアアアアアアアアアンンッ!!
激しい音と共に、大岩は消滅し、更に衝撃は天をも砕き、大地を穿ち、空間をも切り裂いた!!
やった! これがオレの新たなる力だ!! サリーさんにきゃーすてきとか言ってもらえる力だーーっ!!
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「うへ、うへへへ……うへへへ…………やったぁー……」
「……うわ、ひでぇ顔だ。過去の自分とは思えないくらいの……しかもきっとなんか楽しい夢でも見てるんだろうな」
そう呟きながら、未来フォードは顔を顰めながら大岩を見る。
フォードの頭の中では大岩は真っ二つに切り裂いたはずだった。けれど、その大岩は砕けることも無ければ無傷のままその場所に鎮座していた。
そして、その下には折れた木剣。
…………つまりは、欲望に満ちた振り下ろした木剣はあっさりと砕け、破片がフォードの頭に直撃して彼は夢の世界へと旅立ったようだ。
そんな馬鹿なことをしたフォードを見ながら、未来フォードは溜息を吐いた。
「あー……本当、脱力とか色々させたいってのに、ここまで馬鹿だったのかよ過去のオレって……」
そう呟き、これからのことに未来フォードは頭を悩ませていた。
Q.…………格好良く、大岩を斬らせて、話を次の段階に持っていくはずだったのにどうしてこうなった!?
A.フォードだからさ。