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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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3人娘の特訓~ヒカリ~

 さわさわと心地良い風が吹く草原をボクは駆け抜けていた。

 そんなボクを追うようにして、カキャカキャと独特の音を立てながら、樹で作られた人形が追いかけるのをボクは首だけを振り返らせながら見ていた。

 そんな人形に追いつかれまいとボクは走る速度を速めるが……人形の動きは奇抜で、ボクを追いかけるようにして走っていると思っていた瞬間、もう一度振り返るとその場から一気に跳ぶようにして襲い掛かってきた。

 突然のことで驚いたけれど、人形の手に握られたナイフが振り下ろされたことに気づくとボクは構えていたナイフを斜め上へと振り上げた。


「くぅっ!!」


 キィン――とボクが握り締めるナイフと人形のナイフがぶつかり合い、キャリキャリと音を立てながら鎬を削るが……そんな中で人形は片脚を持ち上げるとボクの腹を蹴り飛ばし、距離を取った。


「くああああぁぁぁっっ!?」


 ゴロゴロと地面を転がり続けるボクだったけれど、すぐにナイフを持つ手とは逆の手で地面を押して転がるのを止めさせ、立ち上がったが――人形はすぐ目の前へと来ていた。

 これは――――まずいッ!!

 即座に身の危険を察し、ボクは自分の中にあると告げられた神使の力を発現させた。

 何というか、やりかたはすごく簡単だった……。

 まるで、身体の中にあるスイッチをオフからオンに切り替える。ただそれだけだった。

 そして、スイッチをオンにした直後――。


「ぐっ! う…………うあぁ……!!」


 全身が燃え上がるような感覚を感じ、意識が飛びそうになった。

 そして、神使の力を発現させているからか……ボクの髪の先は炎のように紅く燃え上がっているのが見えた。

 しかも現在の状態がどうなっているのかが、この力を発現させていると良く分かった。

 現在……ボクの身体は、人間が持てることが出来ないほどの熱量を身に宿していた。

 まるで……小さな太陽が身体の中を蠢いているようなものだろう。

 そのお陰か、ボクの身体へと突き刺そうとしていた人形のナイフはドロッと熔け始め、ただの熔けた金属へと変わり地面へと落ちた。

 しかも、人形自身にも影響があるのか、ジリジリと燃える熱さによって黒く焦げ始めているようだった。

 それに耐え切れなくなった人形は、ボクから距離を取り始めようとしているのか、バックステップでその場から離れ始めた。


 …………にがさないよ?


 そう思いながら、ボクは人形を追いかけるために一歩前へと進んだ。

 直後――ボロリと脚が崩れた。

 身体の熱に耐え切れずに、身体が崩れたのだ。


「あ…………これ、まず――――


 最後まで言うことが出来ずに、顎が崩れ……喋れなくなった。

 前に伸ばそうとしていた手が灰となり、地面へと落ちていく。

 それがボクが見ていた最後の景色となり……、大量の熱を放出して――ボクの意識は消失した。


 ◆


『…………おい、おい』


 声が聞こえた……。そして、直後に頭を突かれる感覚を感じた……。


「ん、んん……? もう、あ――」

『もう朝とか、もう食べられないとか言うボケは放たないでよ? 放ったら、また燃えることになるから』

「なっ、なんか物騒な答えがっ!? ――って、あれ?」


 慌てながら起き上がると、ボクは周囲を見渡した。

 そこは、ここに来てから見慣れた夜空に月と太陽と星が煌く草原だった。

 えぇっと……、ボクはいったい……。


『どうしたって顔をしているみたいだけど、普通に再生したからそこに居るって気づいている?』

「……? …………あ」


 呆れる声にボクは首を傾げたが……、少し思い出し始めたらボクはすぐに神使の力を使ったのだということを思い出した。

 そうだった。ボクは神使の力を扱い切れずに……身体が灰になってたんだった。

 それを思い出して、手足を見たけれど……傷ひとつ無い綺麗な身体をしていた。

 …………何度も思うけど、この呪いって……地獄だね。


『ちなみに服はサービスで用意した』


 淡々と、と言うか馬鹿を見るような目線でボクに語りかけてくる人形……いや、ボクの中にあった神使の欠片がそう言ってきた。

 ……あ、そういえば服も灰になってたのに元通りに?


「あ……、ありがとうございます」

『……で? 何度も言ってなかった? 前世が神使でも無い人間が神使の力を使えば死が待っていると、一応異世界人だからこの世界では死が無いから死ぬことは無いだろうけど』

「そ、それはそうだけど……」

『一度目は、爆発でサヨナラ。二度目は、火柱で黒焦げ。で、三度目の灰……いくら死が無くても、酷すぎる』


 呆れながら人形はボクにそう言う。

 ……改めて、ボクはこの人形と言うか神使のかけらが特訓を始める前に言っていたことを思い出していた。

 えっと確か……、ルーナ姉とシターの前世は元々……神使の星と月だった。

 だから、2人は慣れていないだろうけれど身体が神使の能力に耐え切れることが出来る。そして、魂にそれぞれ神使としての道具を持っている……と。

 対してボクのほうは、あの世界移動のさいに偶然神使の太陽を欠片だけだけど掴んでいたらしく……一応神使の力を使うことが可能。

 けれど、身体はそれらとは関係ないから、能力を使えばそれ相応の代償が掛かる……命に関わるレベルの。

 ……そういうとき、悲しいけれど不死身で良かったって思えば良いのかも知れない……嫌だけど。


「でもさ、折角手に入れていたって分かった神使の力、使えたほうがこれからの戦いに役立つんじゃないの?」

『役には立つと思う。けど、制御しようにも出来ない……そして、死んだら再生まで時間が掛かる。そんなリスクしかない能力、必要?』

「う……っ!」


 正直、そう言われると耳が痛かった。

 だけど……本当にこれは必要な能力だと思う。


「……何か、良い方法は無いかな?」

『無い、諦めろ。そして、早く本来の持ち主の下へと還せ』

「…………あー、うん……」


 そういえば、この太陽の神使って……ボクが奪い取ったって言うことになるんだよね?

 ……本来持っている持ち主ってどんな子だったんだろう? ……まあ、きっとボクじゃない誰か、多分大人アリスに聞いたらどんな子が持ち主と言うか宿主だったか分かるかもね。

 だって、あっちにはボクが居なかったらしいし。

 ……けど、今はこの力が必要なんだけど……本当、どうやったら、神使の力を扱える?

 ウンザリし続ける人形を見ながら、ボクは当面の課題を考えることにした……。

灰になって崩れていく最中に、星が落ちてきたりしていましたが気づいていません。


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