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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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3人娘の特訓~ルーナ~

 月と太陽、そして数多の星が煌く草原にポツンとわたしは立っており、少し離れた場所を見ていたわ。

 その場所には1体の藁と木で作られた人形が置かれており、それがわたしの練習するための的であった。


『さ――、始めましょう』

「え、ええ…………」


 頭の中に響くようにして聞こえる声に戸惑いながらも、わたしは応えると虚空から杖を取り出した。

 その杖は、何時も使っている物とは違い……細身のわたしの肩ほどまでの長さがある金属で創られているであろう持ち手部分、杖の先に付けられ……見ている者を包み込むような優しい光を放つ丸い小さな月とでもいうかのような球体。

 その杖を構え……、わたしは頭の中へと響いてくる声が唱える呪文を復唱するようにして詠唱し始めた。


『――――。――、――~~~~……――』

「――――。――、――~~~~……――」


 すると、その詠唱に反応するようにしてわたしの立つ地面の周囲が光を放ち始め……、わたし自身にも変化が起き始めているのに気がついた。

 詠唱を唱えていく度に、段々とわたしの長い髪は白く……いえ、白銀に染まり始め、瞳も多分同じように白銀に変わっているのだと思う。

 そう思いながら、詠唱を続けていくと……、わたしの白銀に変わっているであろう瞳にはついさっきまで見えていた景色とは違う物が見え始めていた。


 ……何度、見ても、変な光景よね……。これが、魔力で構築されている世界……。


 そよそよと風が吹き、頬を撫でる。そして、わたしの視界には風の動きが見え……、地面すべてが線で構築されており……、空に輝く月と太陽と星が魔力の光を照らし出しているように見えていた。

 その視界でわたしは自身の放つ魔法の位置を合わせるために行動を開始するために頭の中で念じた。

 すると、円が地面に浮き出て……わたしが念じるとそれは地面を滑るように動いていった。


『その円を目標に合わせて』

「…………《重力》」


 円の中心を人形に合わせ、わたしは魔法を唱えた。すると、唱えた魔法は即座に発動して、人形を押し潰し始めた。

 潰され始めた人形はメキメキと軋む音を立てつつ、周囲の地面と共に潰れて行くのを見ていたわ。

 あと少し、あと少しで完全に潰れる……そう思っていた瞬間、わたしの中にある魔力が枯渇するのを感じて、眩暈を感じ地面に膝を突いた瞬間……強制的に魔法は解除されたわ。

 するとついさっきまで重力で踏み潰されていた人形を中心とした踏み潰されていた円状の範囲の草原は、再びそよそよと風を靡かせるようにして動き出していた。


「はぁ……んっ……は、あ…………んっ……」


 自分で言うのもなんだけれど、少し艶のあるように息を漏らしながら……わたしは線で構築された世界から元に戻っていく視界を見て項垂れた。

 見ていなくても分かるけれど、多分髪も白銀から元の髪色に戻っていることだろう。

 そう思っていると、胸の辺りが再び光り出して、ここに来たときと同じようにわたしから光の珠がゆっくりと出ると……ついさっきと同じように人の形へと変わっていった。

 その瞳がゆっくりと開かれ……、わたしを見ると――。


「駄目すぎ。もっとちゃんと術の制御をしなさい、貴女の制御が穴だらけだから魔力の枯渇が早くなるのよ」

「……そ、そんなことを言われても、こんな6つの属性からかけ離れた魔法をいきなり使えだなんて言うほうが無理な話なのよ?」


 呆れ果てるわたしの姿をしたそれに、わたしは恨みがましい瞳で見つめるけれど……それはわたしだから出来て当然なんて顔をしていた。

 ……と言うか、出来るわけがないでしょ! そもそも、いきなりあのときに言われた言葉もまだ半信半疑なんだから!!

 そんな風に思っていると、それは立ち上がろうとしていたわたしをマジマジと見ていることに気づいた。


「な……何?」

「…………そこ」

「え?」

「危ないわよ?」


 え? 危ない? そう思った瞬間――、わたしの背後から激しい音が聞こえ、地面が揺れた。


「――きゃっ!?」


 その揺れに耐え切れずに身体がふら付き、立ち上がろうとしていたわたしは再び尻餅を突いてまたも地面とお尻が接触してしまった。

 い、いったい何が? ううん、その衝撃はしばらく前にも覚えがあった。あれは……シターちゃんそっくりのそれが放った魔法。

 だったらこれは……シターちゃんが放った?


「っ!? くぅ…………っ!!」


 そう思っていると少し遅れて突風が吹き、わたしの身体は吹き飛ばされそうになった。


「と――飛ぶ、飛ぶぅぅっ!!」

「大変ね」


 必死に草原の草にしがみ付いて、飛ばされないようにするわたしの隣でそれは平然と立ちながら、向こうを見ていたわ。

 ……これって、実体が無いからそうなっているのかしら?

 そしてしばらくすると……突風は収まり、再び草原にはそよ風が吹くようになっていたの……た、助かった。

 ふらふらと立ち上がりながら、衝撃が起きた場所を見るけれど……距離があり過ぎるからかシターちゃんの姿はまるっきり見えない。


「それでも……シターちゃんも頑張っているのね。…………そういえば、ヒカリちゃんは? ……って、あの、また離れているけれどどうしたの?」

「そこ、危ないわよ?」


 2人の心配をしていたわたしだけれど、それは再びわたしへと言ってきた。

 その言葉を聞いて、今度は身構えた。……けれど、今度は衝撃が起きなかったの。

 でも代わりに突風が吹いたわ。でも突風は突風でも……。


「あっ!? 熱っ!? 熱ッ!!」

「熱風ね。……これは、形になりきれていない上に、暴走気味だわ」


 それは平然としながら、口にしているけれど……暴走ッ!? 暴走って言った!?

 ヒカリちゃんは大丈夫なの……!? それも心配だけれど……正直今は――。


「み、水ッ! みずぅぅっ!!」


 慌てながら、わたしは《飲水》を唱えた。すると、チョロチョロとだけれど水が生み出され、わたしはそれを頭から被った。

 ジュワッと蒸し暑い水蒸気が身体を襲ったけれど、ついさっきの熱風よりも遥かに良かった。

 とりあえず、もう少し……というかまだまだ……。

 そう思いつつ、わたしはまだ周囲を満たす熱に水を得たことで流れ始めた汗を拭う。

 けれど、そんなとき……わたしは強烈な眩暈を感じた。


「…………って、あ……あれ?」


 ……あ、そうだ。わたし……魔力、枯渇寸前だったんだ……。

 それを思い出しながら、魔力が空っぽになってしまったのを感じながら……わたしは意識を失った。

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