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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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話し合いの条件

 聖地、それは名前の如く聖なる土地とかその部族が大事にしている土地のことね。または何かを奉っているとか、危険だから入れないって言う理由をつけてそう呼んでるって話もあるわ。

 初めは、ハツカが言ったその言葉がよく分からなくて……というか理解したくなくて、彼女とフォードは首を傾げたわ。

 ちなみにサリーは頭の回転が速いからか、すぐに理解してしまったために酷く驚いていたの。知らないほうが良かったかも知れないわね。ご愁傷様サリー……。

 そして、3人で相談をすることが出来たなら少しは状況が把握出来たりしたかも知れないけど、時間は待ってくれなかったの。何故なら、苛立った声でハツカが彼女たちへと警告を再び発したからよ。


「答えよ! 何故お前たちは我らが聖地に何ゆえ足を踏み入れた!! 返答次第では命は無いものと思えッ!!」

「ど、どうするんだよ……? アリス、サリーさん……」

「命が無いものと思えって言ってるから、逆に命を無くしてあげようか?」

「じょ、冗談でもやめてください師匠……。貴女が言うと本気にしか思えませんからね!」


 正直、本気だったんだけどサリーは冗談として受け取ったみたい。まあ、やったらやったでチュー族から怒りを買う上にサリーとフォードの命も無くなりそうな気がしたわ。

 そう思っていると、制限時間を表すようにチュー族の戦士たちは槍を構えたの。それを見て、彼女は敵対するつもりで立ち上がろうとしたんだけどサリーが止めたわ。

 そのまま彼女を止めたサリーは立ち上がると、2人から一歩前へと進み出たの。そして、よく響く声で――。


「貴方がたチュー族の聖地に勝手に足を踏み入れて、本当に申し訳ありません! ワタシはサリー、人間の国の冒険者ギルドの者です! 貴方がたの怒りはどれほどのものか分かりません!

 ですがチュー族の戦士の皆様、どうかワタシたちに話し合いの機会を頂けないでしょうか!?」


 サリーの言葉にハツカがピクリと動くのが見え、構えた槍を下ろすと仲間たちを集めるのが見えたわ。多分、彼女たちのことを話してるんでしょうね。

 チュー族たちが話しているのを見ながら、彼女たちは周囲を警戒しつつも彼女たちの返答を待つことにしたわ。

 しばらくして話し合いが終わったのか、ハツカがゼブラホースとともに前に出てきたの。


「待たせたな! 話し合った結果、お前たちとの話し合いを許可しよう! ただし、条件がある。我らについて来い!!」


 ホッと一息吐いたサリーだったが、条件と言われビクリと身体を強張らせたわ。やっぱりあっさりと話が進むわけがないわね……。

 そう思いながら、彼女たち3人はハツカたちチュー族の戦士たちのあとに続いて歩き出したの。

 仲間たちが先行して、ハツカは3人に歩行を合わせているのか少し遅めに移動してくれたわ。

 その間に簡単ながらここまでの経緯を話をしたわ。

 とは言っても、人間の国から獣人の国に向かう国境で騒動に巻き込まれて、逃げ出した結果この場所に辿り着いただけなんだけどね。

 それを聞いていたハツカだったけど、突拍子も無さ過ぎるその言葉に胡散臭い物を見るような視線で彼女たちを見たわ。


「あー……それは不可能だろう? 国境の山道からこの場所は離れている上に、山と聖地の間には底が見えないほどの断崖があるんだぞ?」

「ああ、山道からここってそうなってたんだ。一気に跳んだから分からなかったわ」

「……は? 跳んだだと? 何を馬鹿なことを言ってるんだ。それに仮に跳んだとしていったい誰がやったと言うんだ?」

「オレだけど?」


 平然と言って自分を指差す彼女だったが、ハツカは馬鹿を見るような表情をしつつ、内心で警戒度を上げるのが分かったわ。

 まあ、国境の山道からポーンッと跳んでここまで来ました! それも華奢な女の子が2人を担いでです! 何て言われても信じるわけが無いわね。

 もしかしたら魔族が化けているんじゃないのかと思いながら、ハツカは槍を強く握り締めていたみたいだけど、それよりも先に先行していた戦士たちのゼブラホースが戦慄き声を上げるのが聞こえたの。

 その鳴き声に気づいたハツカがハッとした表情で道の先を見たわ。すると、急いで方向転換してきたゼブラホースに乗った戦士たちが戻ってくるのが見えたわ。


「逃げろハツカ! 奴が来る!!」

「そんな! もうそこまで来ていたというのか!?」

「くそっ、幾らなんでも早すぎるだろっ!?」

「く……っ、お前たちも急いでこの場から逃げろ! ここはもう危険だ!」

「え? ど、どういうことですか??」

「えっ!? ちょ、ちょっと、いきなり走れって!?」

「おい。逃げろとか、早いとかいろいろ言ってるけど何があるんだよ?」


 慌てるハツカと戦士たちに対して何が起きたのか分からないサリーとフォードは慌てるだけだったから、彼女は慌てている理由を問い掛けたわ。

 ついて来いと言われたからついて来たのにいきなり逃げろなんて言われたら、イラッと来るわね。彼女は血の気の多い女の子なのね。野菜をたっぷり食べないと。

 周りに分かるように彼女がイライラとしていると、戦士たちが逃げてきた方向からのろのろと近づいてくる何かに気がついたわ。

 虹色のような色彩をした殻を背中につけて、ヌメヌメとした細長い体の先から飛び出た2つの角のような目を持つ生物……。

 そして、その生物は巨大な姿をしていたわ……分かり易い大きさで言うとね、王都で見た王城ほどの大きさよ。

 その動く山のみたいな巨大な生物を見ながら、呆気に取られた彼女は呆然と呟いたわ。


「え……何この馬鹿でかいカタツムリ……」

聖地が聖なる土地であるとは言えない。

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