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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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サリーの特訓・その2裏

※サリーママ視点です。

「「ハアアアアアァァァァァアァァァァァァァァァァッッッ!!」」


 腹の底から雄叫びを上げるとわたしの身体に気が駆け巡っていくのが分かり、その気によってわたしの身体の眠っている野生が目を覚まし、溢れんばかりの2つの力が身体に満たされるのを感じながらサリーちゃんを見たわ。

 サリーちゃんも野生化を現すことには成功してるようだけれど……まだ上手く使えていないのか、身体がギクシャクと動いているように見えた。

 身体を野生化に慣れさせるために、野性化のやりかたを覚えさせてから、持続出来る時間を延ばすところから始めていたけれど、やっぱりまだ慣れているようには見えないわ…………やっぱり、純粋な獣人じゃないからそんな風になっているのかしら……?

 ――とと、今気にしても仕方ないことよね。

 考え直して、わたしはサリーちゃんとの特訓を始めたわ。


「とりあえず、まずは肩慣らしから」


 小さく呟いてから、わたしは地面を蹴ると一気にサリーちゃんに近づき、右拳を突き出した。

 サリーちゃんは一瞬悩んだようだけれど、逃げても追いつくと理解しているのかわたしの拳に向けて拳を打ち込んできた。

 その発想は面白いわよね。そう思いながら、サリーちゃんの拳はわたしの拳に打ち込まれ――ッ!?

 これは、マズいわ……!

 わたしもサリーちゃんも野生化をしている。それなのに、サリーちゃんの野生化は何かが変なのか上手い具合に作用していないようで……つまりは、今のままわたしとサリーちゃんの拳がぶつかり合ったら、サリーちゃんの拳が砕けること間違いなしと言うこと。

 だからわたしは少し威力を調整させて、サリーちゃんの力と拮抗するようにさせて――!

 ッ!! な、何とか大丈夫だった……って考えて良いわよね?

 だけど、ここでわたしは一つ忘れていることがあったの。

 野生化したわたしは、基本的に戦闘特化とも呼べる状態になっていて、隙あらば即座に攻撃と言う風になっていた。

 ……だから、わたしの拳を打ち合って弾かれたサリーちゃんのもう片方の手首を掴むと、一気に引っ張って体勢を崩させ……そこに膝を打ち込んでしまっていたの……。


「おごっ!?」


 ズブリと内臓へとめり込むほどの攻撃をしてしまったことに後悔しつつも、女の子に有るまじき呻き声をあけるサリーちゃんの様子を見たわ。

 サリーちゃんはお腹へのダメージが厳しかったようで、お腹を押さえて蹲っていたわ……。

 そんなサリーちゃんの様子を見ながら、理性で追撃するのを抑えつつサリーちゃんに声を掛けたの。

 サリーちゃんは大丈夫と言ってるけど……、顔に脂汗を滲ませているからかなり厳しいわよね……。

 …………やっぱり、野生化による全身の痛みもだけど、どういう訳かは分からないけど十全に力が発揮されていないみたい。

 心配しつつも、わたしはサリーちゃんに強くなってもらいたいと考え……すぐに特訓を再開したわ。


「お、お願い……しま、す……!」


 そう言うサリーちゃんは凄く辛そうだけれど……、強くなりたいのに甘やかすなんて出来ないわ。

 だから、わたしは再び拳を突き出したの。ただし、今度は顔面を狙って……。

 わたしの行動にサリーちゃんは驚いたみたいだけど、どんな反応をするのかは楽しみだったわ。

 だけどわたしの予想通りなら、サリーちゃんは回避してから追撃を行おうとするわよね。……それだったら、殴って気絶させるつもりよ?


「く――――ゥッ!」

「――――ッッ!?」


 けれど、サリーちゃんはわたしの予想を良い意味で裏切ってくれたの。

 初めは回避しようと下がる気配を見せていた。……でも、意を決してわたしの拳へと自ら向かってきたの。

 その行動にわたしは驚いた。だけど、途中で止める気は無いわ。だって、止めたらサリーちゃんにも失礼だもの!

 そして、わたしの拳はサリーちゃんの顔面に――いえ、当たる瞬間に自ら首を動かして顔面ではなく、額にぶつかるようにしたのね!?

 額だったら、顔面よりも硬いから問題は無い。一瞬でよく考えたわね、サリーちゃん!

 拳が額に当たった瞬間、ドスというかゴスッといった感じの音が鳴り、わたしの拳に独特の感触が伝わったわ。ああ、多分これってサリーちゃんの中で血が出てるわよね?

 そう思いつつも額から拳を離さず力を込めて、そのままサリーちゃんを押し倒そうとしているわたしもわたしよね……。

 ……あ、あれ? サリーちゃんの目の焦点が……、それに……力も段々と強く……?


「は――――ああああああっっ!!」


 サリーちゃんの変化に気づきながらも、わたしは拳に力を込めたわ。

 けれど、わたしが押す力よりもサリーちゃんの押す力が強くなっていき……、遂にはわたしのほうが力負けして押し倒されてしまっていた。

 その変化に、わたしは喜びを感じたけれど……、どう見ても今のサリーちゃんは正気を失っているとしか言いようが無い状態だったわ。

 血で紅くなっているのか分からないけれど、真っ赤な瞳でわたしを見ていたの。……これは、本当にマズい?

 それも、わたしが……ではなく、サリーちゃんがまずいとしか言いようが無かったわ。

 だって今わたしに馬乗りしているサリーちゃんは身体中が悲鳴を上げているのに気づいていないようで、笑みを浮かべながらわたしを見ていたの。


「うへ、うへふふふふふふふふ……いきますよぉ、お母さぁ~ん……♪」

「駄目、駄目よサリーちゃん! すぐに正気に戻って、このままだと身体が持たないわよ!?」


 大声でわたしはサリーちゃんに呼びかけたが、サリーちゃんにはわたしの声が届いていないらしく……返答として、狂った笑みを浮かべながらわたしの顔面目掛けて拳を振り下ろしてきたの。

 見た瞬間、分かったわ。これは、危険過ぎるものだってね……。

 力、速さ、そのどちらも申し分が無い一撃に首を動かし、何とか回避出来た。……正直、理性が無くなっているこの状況に喜べば良いのか、わからないわね。

 そう思いながら、頭の後ろの地面に頭が当たる感覚が無くなっているのを感じながら、わたしはもう一撃放たれるよりも先に脚を動かして、サリーちゃんの後頭部目掛けて蹴りを打ち込んだ。

 そして、運が良いのか、頭を蹴られたサリーちゃんは気を失ったのかパタリと倒れたわ。


「ふ、ふぅ~~…………。危なかったわね……」


 ふぅ、と息を吐きながら、わたしは気絶してわたしの胸へと倒れこんで来たサリーちゃんを優しく抱きとめた。

 何とか運が、良かった。そう思えて仕方が無いわね……。

 そう思いつつ、わたしは気絶したサリーちゃんの後頭部をやさしく撫でながら、先程と違って優しい顔で眠るサリーちゃんを見て安堵したわ。


「…………本当に、大きくなったわよね」

「んっ……、おか……あさ……」


 呟きながら、後頭部を撫で終えたわたしは昔のようにサリーちゃんを抱く腕に力を少しだけ込めたわ。

 すると、そのときのことを覚えていてくれているのか、サリーちゃんはわたしの胸へと顔を埋めて、更に気持ち良さそうに眠り始めたの。

 ……ここは気絶したのに即座に回復していることを驚くべきなのか、それとも気絶しきっていなかったと思えば良いのか分からないわねぇ……。

 そう思いながら、わたしは今のサリーちゃんの力の増加の理由、そして十全に発揮出来ていない理由を考え……ある仮説を立てたわ。


「サリーちゃんは……力を、無意識に抑えているのかも知れないわね……」


 だというのに、使うための代償は通常通り……正直、割に合わないわね。

 …………、何が悪いのか、考えるべき……よね。

 そう思いながら、残りの日々を考えることにしたわ。

人間、誰しもブレーキはあるものさ。

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