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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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サリーの特訓・その2

「「ハアアアアアァァァァァアァァァァァァァァァァッッッ!!」」


 全身に気を行き渡らせ、ワタシとお母さんは腹の底から雄叫びを上げます。

 すると、それに答えるかのように行き渡った気が全身を駆け巡るかのように動き出したように感じました。

 そしてその駆け巡り出した気を使って、普段動かしていないほうの筋肉を動かすように指示します。


「「――――ハアッ!!」」


 掛け声と共に、ミシリ……ッと身体の骨が悲鳴を上げ始めるのをワタシは理解しました。

 多分、お母さんもそうなのでしょう。ですが、平然そうにワタシを見ると笑顔で……。


「さ、それじゃあ今日も始めましょうかサリーちゃん」

「は……はいっ!」

「そんなに身構えなくても良いのよ。この力の制御は自然体が一番なんだから」


 ゆっくりと戦闘態勢へと移るお母さんとは対照的に、ワタシのほうは身体を動かす度にギシギシと全身が軋みを上げます。

 しょ、しょうじき……これは、まだ慣れません……ね。

 そんなワタシを見ながらお母さんは少し困った顔をしています。


「うーん、野生化のやりかたを教えてから、ゆっくりと身体に慣れさせるために一日数時間はその状態を維持させるようにしてから数日は経ってるけど、まだ上手く行かないわねー……。まあ、徐々に実戦で慣れていくと思うから、心配しないことにするわ♪」

「そ、そう……ですか。それじゃあ、今日も……お願い、しますっ!」

「ええ、それじゃあ…………始めましょうか」


 ワタシが挨拶をすると、お母さんも挨拶をし返し……そして、今日の特訓が始まりました。

 一瞬で眼前まで近づいたお母さんは、ワタシへと右拳を打ち込んできます。

 ですが、ワタシも軋みを上げる身体を無理矢理動かして、打ち込もうとしていた右拳へと右拳を打ち込みました。

 瞬間、ドゴン――ッ! という激しい音を周囲に響き渡らせ、ワタシの右拳とお母さんの右拳がぶつかり合って、衝撃で互いの右拳が後ろへと下がってしまいました。

 ですが、決定的な熟練度の差が物を言うのでしょうか、ワタシはジンジンと痛む右拳の痛みと共にやって来た全身の筋肉の激痛に悲鳴を上げそうになっていましたが、その隙を逃さずにお母さんは笑みを浮かべつつワタシの無防備な左手首を掴みました。

 ――マズッ!? 左手首を掴まれた瞬間、ワタシは腹筋に力を込めてこれから来るであろう攻撃に身構えます。

 直後、掴んだ左手首をお母さんが引っ張るとワタシの身体はガクンと傾き、一気にお母さんの前まで近づきまし――げほっ!?


「おごっ!?」


 腹へと鈍い衝撃が走り、ワタシは呻き声を上げて胃液が込み上げてくるのを感じました。そんなワタシをお母さんはワタシの腹に右膝をめり込ませたまま……笑顔を浮かべつつ見ていました。

 そして、ゆっくりと腹にめり込ませた右膝をゆっくりと地面に降ろされていくと……、ワタシはお母さんの足元で蹲ってしまいました。

 う……うぅ……、こ……この一撃、腹筋に力を込めていなかったら……背骨が圧し折れていたかも知れませんね……。

 そう思いながら、呼吸を整えながら痛みを和らげるように努力します。

 そんなワタシへとお母さんは声を掛けてきます。


「大丈夫? サリーちゃん」

「だ、だいじょう……ぶ、です…………」

「……そう。それじゃあ早く起き上がってちょうだい」

「は……はい……」


 心配するように言うお母さんですが……、その言葉の裏には訓練じゃなくて実戦。それもワタシが敵だった場合……蹲った状態であろうと、追撃を加える。そう聞こえました。

 優しかったお母さんの新たな一面を知りつつ、ワタシはズキズキと痛む腹の痛みを堪えながら立ち上がります。

 それを見ながら、お母さんは満足したように頷いてくれました。


「はい、よく出来ました。……それじゃあ、もう一度始めようかしら?」

「お、お願い……しま、す……!」

「わかったわ。――――ハァッ!!」


 そう言うとお母さんは容赦無く、ワタシの顔面を狙った打撃を打ち込んできました。

 多分、これは顔面に当たったら……腫れますね。

 だったらここは、何時ものように回避……――いえ、突っ込みますッ!


「く――――ゥッ!」

「――――ッッ!?」


 決意を込めて、ワタシは迫り来る打撃に引くことを止めて、一気に接近しました。

 その行動に、お母さんは驚いた様子を見せましたが、一度放った拳は止めるつもりは無いらしくワタシの顔面目掛けて拳は放たれました。

 ですが、ワタシは首をグイッと下げるという暴挙に近い行動をし……直後、お母さんの拳は顔面からずらされ……ワタシの額に打ち込まれました。

 ゴスッという音と共に、額に強烈な痛みが走りました。ですが、お母さんの拳も打撃を負ったと感じます。

 けれどお母さんの拳はワタシの額から一切戻そうとはしていません。きっと、次の出方を待っているのでしょうか?

 だったらここは、引かないと…………あれ? 何で、ワタシ……一々考えながら戦っているんでしょうか?

 それに、引く? 引くってどういうつもりですか? 引くよりも、突っ込むのが一番ですよね?


「は――――ああああああっっ!!」

「ッ!? 良いわよ、良いわよサリーちゃん。可愛いお顔が台無しだけど……、お母さん好みの発想になって来たみたいじゃな――――くっ!! サ、サリーちゃん? ……正気を失っているみたいね」


 ほら、やっぱり突っ込むのが正解だったじゃないですか。だって、お母さんが褒めてくれたし……今はワタシがお母さんに馬乗りになっているのですから……!

 額から拳がはがれたからか、それとも血が漸く噴出したのかわかりませんが……お母さんを見るワタシの視界は真っ赤に染まっていくのを感じました。

 それを自覚した瞬間、額がズキズキと痛み始めました。だけど、ああ、だけど……この痛みが心地良いと思います。この痛みは戦いの痛み。だから、ワタシはこの痛みを感じて……相手にも与えるんです……!


「うへ、うへふふふふふふふふ……いきますよぉ、お母さぁ~ん……♪」


 お母さんが何かを言っていますが、ワタシには良く聞こえません。

 と言うか耳障りです。ワタシはもっと戦いたいんです。悲鳴を聞きたいんですよ。だから、お母さんの悲鳴も……聞かせてくださいよ。

 そう思いながら、ワタシは拳を振り上げてお母さんの顔に向けて振り下ろします。ですが、ワタシの動きは単調らしく……お母さんは首を動かして攻撃を回避しました。

 どうして避けるのかなぁ? ちゃんと殴られてくださいよぉ?


「じゃあ、もういっぱ――――がっ!? ……あ…………」


 もう一度ワタシは拳を振り上げ、お母さんの顔に向けて拳を放とうとしました。

 ですが、それをするよりも先に後頭部に鋭い衝撃が走り……何が起きたのか分からないまま、ワタシの意識は闇の中へと落ちて行きました。

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