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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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3人娘の特訓 ~おとぎばなし~

※ルーナ視点です。

 わたし、シターちゃん、ヒカリちゃんの身体から光が出て……それが宙で形を取り始めていったのをわたしたちはただただ見ていたわ。

 そして、光は段々と形を創っていき……最終的に、わたしたちの姿を取って行った。

 わたしたちと同じ顔、同じ身体、同じ気配……? いや、違う……同じ見た目だけど、気配はまるで違っていた……これは、まるで……神様たちに近い何かのように感じてしまう……。

 そんな3人がゆっくりと地面に向けて降りていくのを見ながら……不意にわたしはあるお話を思い出した。


 ……人間の国には、昔から親から子へと語り継がれるおとぎ話があった。

 けれど、ずっとずっと昔のお話だから……色々と脚色されていたり、別物になっていて、本当の話を知っている人は少ないと思う。

 ちなみにわたしは、魔法の先生である祖母がわたしが幼いころに語ってくれたから、知っていた。

 えっとそのお話は確か……。


 ◆


 むかしむかし、ある所に人間の若者がいた。

 その若者は旅人で、いろんな国を見て回って旅をしていた。

 人間の国、獣人の国、魔族の国、森の国、魚人の国……様々な国を旅していた。

 だから、その若者には色んな種族の知り合いがいっぱいいた。

 人間、獣人、魚人、エルフに妖精、そして魔族までもが若者と親しく語り合い酒を飲み交わした。


 そしてそんな若者たちを祝福してくれるように、若者の歩く大地を導いてくれるように夜には幾万の星が楽しそうに煌き、月が優しく照らし……朝には太陽が温かく若者を照らしてくれていた。

 その優しくて温かくて楽しい光が若者は大好きだった。だから若者はその星と月と太陽へと毎日語りかけた。


「星よ。きみたちの楽しい煌きが、僕の心を楽しく弾ませてくれる」

「月よ。きみの優しい輝きは、歩き疲れた僕の身体を優しく包み込んでくれる」

「太陽よ。きみの温かな光は、挫けそうな僕の魂を奮い立たせてもう一度歩けるようにしてくれる」


 星は、その言葉に喜びキラキラと瞬き、青年にお礼を言い。

 月は、その言葉に恥かしいのか顔を半分隠しつつも、青年の身体を優しく照らした。

 太陽は、その言葉にギラギラと輝いたが、少しやりすぎたのか汗をかき過ぎて水を飲む若者を見て赤くなった。


 そんな毎日が続く中で、太陽と月と星は思った。


『ああ、どうしてわたしたちはうごけないのだろう?』

『くちがあったら、あのわかものとおはなしができるのに』

『からだがあったら、わかものといっしょにおさけをのんだり、たびができるのに』


 そんな疑問を抱きながら、それらは若者を見続け……彼の道を照らし続けた。

 けれど、大地を踏み締める若者を見続けていく度に、それらは思い始めていた。

 だから……、それらは神へと願い始めた。


『ああ、おねがいかみさま。わたしたちにうごけるからだをください』

『おねがいします、かみさま。わたしたちはわかものといっしょにたびをしてみたいです』

『おねがいです、かみさま。わたしたちはわかものとたのしくごはんをたべたり、おさけをのんでみたいです』


 そう神へと願い続け、数年の歳月が経ち……若者はより一段と成長していった。

 そんな若者へと、彼の故郷の者たちは言った。

 「キミも結婚してもいい歳だ。良い相手は居ないのか?」と。

 けれど若者は何時ものように笑い、空を指差した。


「大丈夫、僕には太陽や、月や、星がついている。それらが僕のお嫁さんだよ」


 そんな答えに、結婚を勧めた者たちは諦めるしかなかった。

 そして、そんな若者を彼らは再び見送るしかなかった。

 ……一年の月日が流れ、若者が再び故郷へと戻ってきたとき……その傍らには見目麗しい女性が3人寄り添っていた。


 まるで星のようにキラキラと周囲を見渡す幼く見える少女。

 まるで月のように全てを包み込むような優しい微笑みを浮かべる女。

 まるで太陽のように明るい性格で、若者の手を引く少女。


 正直な話、若者には釣り合わなさそうな3人の女性だった。

 けれど、彼女たちはまるでそこが自分の居場所とでも言うように……いや、それを見た者たちもそれが普通だと思えてしまうほどに見えてしまっていた。

 そんな女性たちと若者は結婚すると、彼らへと告げた。


 けれど……それを気に喰わない者がいた。

 その者は、若者の故郷を治める領主の息子であった。

 その息子は3人の美女を連れた若者の前へと現れると、若者にこう告げた。


「このように見目麗しい美女たちが居るのはその男ではない。この私にこそ相応しい。だから、私に寄越せ」


 そう領主の息子は告げたが、誰も文句を言えるはずが無かった。

 けれど、3人の美女は断固たる拒絶を目で送っていた。……だからだろう。若者がその考えに至ったのは。

 馬車を寄越すからそれに乗ってやって来いと言って領主の息子は去って行った。

 ……その日の夜、若者は3人を連れて故郷を離れた。

 だが、若者が逃げ出したということは領主の息子の耳に入り、すぐに捕えるべく兵たちが狩り出された……。

 そして、若者たちは断崖絶壁の崖まで追い詰められ、領主の息子は温情として一度だけそれを口にした。


「その娘たちを寄越せ、そうすれば命だけは助けてやろう」


 当然、領主の息子は約束を守るはずが……無かった。

 美女を差し出したら、若者を矢で射殺せば良い。そう考えていたのだ。

 けれど……。


「この人は、約束を守るつもりは無い。あなたは殺されてしまう!」


 星のような少女は叫んだ。


「わたしは、あなただけを照らすために存在します。あなた以外と共にいるはずがありません」


 月のような女は若者にそっと優しく抱きつき耳元で囁いた。


「わたしは、あなたが何処に行ったとしても、何処に行こうとしても必ず付いて行き、あなたを温かく包み込みます」


 太陽のような少女は覚悟を決めたかのように、若者を見た。

 その視線で、迷っていた若者は決意し……、3人の美女と共に崖下へと飛び降りたのだった。

 領主の息子は驚き、崖下を覗いた。だが、崖下には若者たちの血塗れの死体は転がっては居なかった。

 もしかして、上手く逃げ出したのかと思い辺りを散策したが……若者の影も形も見当たらなかった。

 そして、その日を境に……若者はこの世界から姿を消してしまったのだった。

 ……同時に、この日からある噂が流れた。


 若者は、世界の狭間に隠れ住み……そこで、3人の美女と仲良く暮らしている。という噂だ。

 そして3人の美女の正体は、太陽と月と星であったとも噂されていた。

 その噂を聞きながら、若者と知り合った者たちは願った。若者が幸せな日々を過ごせることが出来るように……と。


 ◆


 ……確か、そんな感じの話だったわよね?

 だいぶ歯抜けになってたり、都合の良い場面とかあったりするけど……。

 でも、もしかしたら世界の狭間ってこういう場所を言うのかしらね?

 そんな風に思っていると、わたしたちの姿を取った光は薄っすらとその瞳を開けたわ。

>おとぎばなしの結末。

 子供向けだったら、「結婚して幸せに暮らしましたとさ、お仕舞い」といった感じに終わります。

 改変パターンは、旅人が女性だったり普通にイケメンだったり、チート能力使って領主の息子を逆にKILLして政治することにとか。

 もっと酷いのだと、若者は領主の息子の一人で戦いの末に、若者は倒れて領主の本妻の息子に3人の美女を託すとか言う終わりになったりとか。


 まあ、ようするに……伝言ゲーム怖いですね。

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