フォードの特訓
う、うおおおおおっ!? 落ちてるっ! オレ今落ちてるぅぅぅぅぅぅっ!!?
真っ暗な闇の中、オレは今まさに下に向けて落ちているようだった。
と言うか、いったい何処まで落ちるんだよこれっ!!
心からそう思っていると、オレの心境を呼んでいましたとでも言うように下のほうに光が見えて、出口が見えた。
漸く何処かに出るのか。そうホッとしていると……出てきた先は、何処かの家の裏庭だった。
ただし、オレの身体はそこから少し高い場所でポイっと出されたが……な。
「――って、落ちる落ちるぅぅぅぅぅぅぅっ!!? うげっ!!」
い、いてぇっ!! 対処出来ないまま、オレの身体は一気に地面へと落下して、家の裏庭に人の形の穴を作り……オレの身体はその中に嵌っていた。
というか、よく生きてるなオレ!!
そう思っていると、埋もれたオレに近づく足音が聞こえた。……誰か、居るのか?
「……おーい、生きてるかー?」
「あ、ああ……何とか…………」
「なら良かった。だったら早く上がって来いよ」
言うだけ言って、そこに居た誰かはスタスタと向こうへと歩いていったようだ。
いったい誰だ? ……いや、と言うよりもあの声、何処かで聞いたような気が……?
とりあえず、オレは起き上がり穴から這い出ると周囲を見渡した。
……此処って…………王都の隅のほうか? いや、違うな……この家がある場所って、形は違うけど……ギルドの修練場にある掘っ立て小屋があった場所だよ……なぁ?
ってことは、此処はギルドの修練場なのか?
っとと、それよりも話しかけてきた相手っていったい誰だったんだ?
そう思いながら、周囲をキョロキョロと見渡すと……その人物は切り株に座ってそこに居た。
30歳ぐらいの年齢の男で、少しばかり白髪が目立つボサボサとした茶色の髪。
歴戦の戦士を髣髴させるような、精悍な顔立ち。
服越しからでもわかる、十分に鍛えているであろう引き締まった筋肉。
そして、隙があるように見えてまったく無い様子。
オレがその人物……目の前の男を見て感じたのはそんな印象だった。
そんな人物をオレはマジマジと見ていると、男はククッと笑いを噛み殺しているようだった。
……なんだろうか、このデジャビュ。その笑みが何処と無く親近感が湧いてしまう……。
何というかモヤモヤとした気持ちになっていると、男はオレを見て十年来の友人に対するように軽く手を上げてきた。
「よっ、元気にしてるか昔のオレ。すげぇところから落ちたけど怪我は無いのか?」
「あ、ああ、まだヒリヒリするけど痛みはな――――ん? 今何て言った?」
「だから、怪我は大丈夫かとな」
「いや、その前その前!」
今言ったよな、昔のオレってさあ!!
その前と言ったところで、男はオレの聞きたい言葉に気づいたらしく、笑みを浮かべた。
「ああ、そっちか。そうだぜ、オレは未来の……と言っても別世界、大人のアリスと同じ時間を生きていたお前だ!」
「な、なんだってーーーーっっ!!?」
突然の告白にオレは衝撃を受けて、あまりのことに仰け反ってしまった。
その様子を未来のオレは楽しそうに笑って見ていた。
と言うか、確か大人のアリスと一緒の世界って言うと……まさか結婚したと言うあのっ!?
オ、オレはいったい誰と結婚したんだっ!? 心から気になっていることを未来のオレに訊ねると……。
「ああ、誰か……って言うのは何となく予想は付いてるだろうけど、自分でしっかりと告白しないと何時まで経っても相手にされないぜ?」
「うっ! ……け、けど、何ていうか手が出しづらいというか……見向きしてくれないっていう――ぐほぉおっ!?」
未来のオレが檄を飛ばしてくれるのだが、やっぱりオレはうじうじとし始めていた。
その瞬間、頬に激しい衝撃が打ち込まれて、オレは吹き飛ばされた。
「な……殴ったね!? 親父にはぶたれ続けてるけど、殴ったね!!」
「ば、ばっきゃろう! そんな風にうじうじするんじゃねぇよオレ! そんなだったら、今の状態だとあの人アリスに夢中でお前を見てくれねぇぞ!!」
今にも血の涙を流しますとでも言わんばかりの未来のオレを見て、ギョッとしたのだが……そのあとに続いた言葉に激しい衝撃を受けた。
「そ……そう、だった……。正直、この3年間もサリーさんはオレと一緒に居てもアリスのことばかり考えてたんだ……!」
「わかっただろう! 行動なんだよ、行動しないと愛は手に入らねぇぞ!!」
「こう、どう……行動、するべき、なんだよな……! すまなかった、未来のオレ! オレは頑張る! 頑張ってあの人に告白する!!」
「その意気だ、過去のオレ! だけど、そのためには強さも必要だ! 告白して、付き合っても彼女より弱かったら洒落にならねぇぞ!!」
そうだ、そうなんだ! 弱かったら洒落にならねえ! だったら強くならないと!!
やる気を見せるオレに未来のオレは納得したように頷くと、木剣を投げてきた。
それを受け取ると、ずしりとした重さ……はまったく無いので鉄芯の入っていない純粋に木だけで作られた物というのがわかった。
「えっと、これを使って、未来のオレと打ち合えと?」
「んなわけ無いだろ。お前も普通に振って降ろすが一番性に合ってるんだから、それを極めれば良いんだよ」
そう言いながら、未来のオレは少し離れたところに置かれたオレたち程の大きさの岩の前へと歩いて行った。
そして、岩の正面に立つと未来のオレは木剣を振り上げた。……え、まさか?
もしかして、そう思いながらもまさかなぁと思いながら見ていると、軽く息を吸い込み……。
「でりゃあああああぁぁぁぁぁっっ!!」
気合の込められた声と共に、木剣は振り下ろされた。
正直、これは木剣が折れるだろう。
そう思っていたオレだったが……、予想とは裏腹に木剣は折れなかった。
いや、それどころか……。
「まじ、かよ……?!」
「あ、ああ……まじ、だ……ふぅ」
驚くオレの言葉に返事をしながら、未来のオレは息を整えながらオレに振り返った。
その後ろでは、大岩が真っ二つに割れたのだった。
それを見ながら、オレは極めればこうなると言うことを改めて思い知ったのだった。