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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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サリーの特訓(前編)

 真っ暗な穴の中を落ちていたワタシですが、下のほうに出口らしき光が見えたと思った直後――ワタシは出口へと落ちました。

 出口と地面は少し高さがあったらしく、下を見ると赤土の地面が見え……ワタシは体勢を立て直しつつ、スタッと地面へと着地しました。

 ワタシが出てきた出口が消えると……太陽の光がワタシの視界を遮り、一瞬光で視界が霞みましたが……すぐに視界が元に戻り、ワタシは周囲を見渡しました。

 そこは、赤土の広大な荒野で……周りには巨大な岩が転がっているのが見えます。

 見覚えがあるような気がする此処は…………。


「獣人の国の荒野……ですか?」


 一瞬の内に、神様がワタシを移動させたのでしょうか?

 そう疑問に思っていると、突然ワタシの背後から声がしました。


「そうとも言えるけど、そうとも言えないかしらね。まあ、ここは一種の決闘場と言ったところよ」

「え……? こ、の……こえ……」


 背後からの声は楽しそうにワタシへとそう言います。

 ですが、ワタシにはその声が耳を通り過ぎて行きました……。

 何故ならその声は、ずっと昔に聞いたのを最後に……もう二度と聞くことは無い……いえ、聞くことが出来ないはずの人物の声なのですから……。

 気のせいかも知れない。だけど、気のせいだとしても聞けたワタシの心は胸がドクンドクンと高鳴るのを感じました。

 そんな感情のまま、ワタシはゆっくりと振り返りました。

 すると、そこには……ひとりの獣人の女性が立っていました。


 背中まで伸ばされたくすんだ灰色の髪。そこから見えるワン族特有の耳。

 常時目を細めて笑みを浮かべているように見えるけれど、本当は切れ長の目。

 ちなみに瞳の色はワタシと同じです。

 そして、長身のスラッとした身体には余計な脂肪は付いておらず……いえ、胸は暴力的なまでに大きいですね。

 そう思いつつ、脚と脚の間から見えるくすんだ灰色の尻尾を見てから……改めて、目の前の女性の獣人を見ます。


「久しぶりね、サリーちゃん。元気にしていた?」

「お、かあ……さん?」

「そうよ。あなたのお母さんのベリアです。本当に久しぶり、それに……元気に育ってくれて何よりだわ」


 そう言って、目の前の獣人……いえ、お母さんはワタシに笑顔を向けました。

 けれど、ワタシは驚きと混乱の余り固まっています。……何故なら、今目の前に居るお母さんはワタシの記憶の中よりもずっと若く……、まるでワタシと同じ年齢のようにも見えたからです。

 そんなワタシの反応に気づいたのか、お母さんは自分の身体を見ました。


「ああ、驚いているみたいね、サリーちゃん。一応これはサリーちゃんが特訓し易いようにとあなたと同い年ぐらいの頃の身体に合わせているのよ」

「は、はあ…………えっ!? ワ、ワタシがお母さんと特訓……ですか?」

「ええそうよ。わたしはサリーちゃんを大事に育てたつもりだったけれど、戦いのたの字も教えていなかったのが少しばかり後悔しているの」


 驚くワタシへと、お母さんは少し寂しそうに言います。

 そういえば……、ハスキー叔父さんが言ってましたよね。

 お母さんはワタシを強くして何時か一緒に冒険してみたいと……。ワタシの前では言いませんでしたけど、叔父さんからは本心が聞けて良かったって思っていましたっけ……。

 そう考えながら、ワタシはお母さんが何かを伝えたいと思っているのだと理解しました。


「……分かりました。お母さん、ワタシが強くなれるように特訓を手伝ってください!」

「ええ、分かったわサリーちゃん! お母さん全力でサリーちゃんを強くしてみせるわ!!」


 そして、ワタシがやる気になるとやはり親子なのか、お母さんもやる気を出して瞳に炎を燃え上がらせていました。

 お母さんの戦いかた……学ばせていただきます!!


 ●


 地面を蹴り上げて、ワタシは距離を取るお母さんへと一気に駆け寄ると――蹴り上げた威力を込めたまま回し蹴りを放ちます。

 ですが、お母さんは軽く一回受け止めるとすぐに衝撃に逆らうこと無くクルッと回転すると体当たりしました。

 そしてワタシは自らの威力と体当たりにより、身体をぐらつかせて地面に顔から倒れます。


「はああぁぁっ!! ――うぐっ!!」

「はっ!! うん、良いよ良いよサリーちゃん。だけど、サリーちゃんの戦いかたは獣人よりも人間に近いものだからもっと全身をバネにするように!!」

「は、はいっ!!」


 顔のヒリヒリと痛む感覚を堪えつつ、ワタシは立ち上がると再びお母さんへと接近しました。

 ただし、今度は全身の筋肉を力ではなく瞬発力目的に込めると一気に飛び掛りました。

 すると今度は先程とは違って、力が余り入っていない軽い一撃となった感じがしますが……速さが格段に増えており、驚きました。


「うん、その調子だよサリーちゃん。一応ハスキーにも教えて貰っていたんだから、それぐらいは簡単だったよね?」

「ですが、これじゃあ力が入っていないので、敵を倒せないのでは?」


 正直な話初めての感覚……いえ、ハスキー叔父さんに触り程度学んだ中でこれはありましたね。

 そう思いつつ、お母さんにこの戦いかたをしたときの欠点となりうることを口にします。

 スピードだけではなくパワー、そういえば……自棄になっていたときはこれに近いことをしていた様な気が……。


「サリーちゃん、3年前のお友達が死んだって思ったときのことを考えているわね?」

「え? あ、はい……って、あの、お母さん……それ以前に死んだはずなのに、何で知ってるんですか?」

「……当たり前よ。わたしは死んでからもずっとサリーちゃんを見守っていたのだから」


 疑問に思ったことを口にすると、お母さんは優しい笑みを浮かべてそう言います。

 その言葉を聞いて、何だか凄く気恥ずかしい気持ちになり、顔が赤くなって何も言えません。

 そんなワタシの仕草を見ながら、お母さんはワタシの頭を優しく撫でてから……突然奇妙な問い掛けをしてきました。。


「サリーちゃん。わたしには良くわからないのだけれど……人間の国の学者の説には身体の筋肉は2種類あるって聞いたんだけど、本当なのかしら?」

「え? は、はい……ワタシも詳しくは知りませんが、力を主体にした物と速度を主体にした物があると言う話です。確か……人間というか、ワタシたち獣人もどちらかの筋肉が主体になって後は補助って言う話だったと思います」


 雑談程度に聞いてた話を思い出しながら、お母さんの質問にワタシは答えます。

 その言葉に納得しつつ、お母さんは新たな問いかけをしてきました。


「それじゃあ、その2つの筋肉が両方とも主になってたらどうなるのかしら?」

「えっと……、ワタシも良くわかりませんし、なった人も居ないと思うのですが……強くなるのでしょうか?」

「いいえ、無理矢理に両方を主に上げたりなんてしたら……身体がバッキバキになって、死にはしなくても後遺症を引きずることになるわ」

「……どうして、そうなると分かっているのですか?」

「決まっているじゃないの。だって――」


 ――わたしが自分で試したんですもの。


 そう、お母さんは儚げな笑みをワタシに向けました。

サリーママ登場。

ちなみに服装は普通に冒険者の服です。

ただしはち切れんばかりです(一部が)

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