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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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魔を統べる王

「くあぁぁぁぁっ!!? がっ――かはっ!!」


 激しい衝撃波と共にアタシの身体は吹き飛ばされ、悲鳴を上げながら部屋の壁へと背中を強く打ち付けました。

 そこへ更に衝撃波が身体を打ち付け、肺から空気が洩れて激しい痛みが背中と正面……即ち全身を襲い、痛みで身体が動きません。

 そんなアタシを見下ろすように、能面のように無表情となった魔王は玉座から立ち上がってアタシを見ます。

 その視線を感じながら、アタシは自らの身体に《回復》を使って身体の痛みを和らげようとします。……ですが。


「……くっ、やっぱり……魔力が散ります…………」

『あは~ぁは。無駄だよ無駄~ぁ、魔を統べる者であるから魔王と呼ばれる人間を相手にたかがゆうしゃ如きが魔力を練れるわけがな~ぁいじゃないですか~ぁ』


 苦々しく呟くアタシへと部屋の中に響くようにドウケの声が聞こえます。

 その声を聞きながら、アタシは顔を歪めました。

 確かに……、これならば魔王と呼ばれていても不思議はありません。だから、魔族でもないただの人間……かは分かりませんが、魔王を名乗れるわけです。

 だから、どうにかしてこの状況を打開しないと……!

 そう思いながら、アタシは身体の痛みを堪えながら立ち上がると……魔王を見据えました。

 そして、アタシが立ち上がるのを見ると魔王は再び攻撃を再開し始めました。

 しかもその攻撃は衝撃波であるために、見えない攻撃となっており……回避しようにもタイミングが上手く掴めません。

 それに……表情があれば目の動きやらで相手を見ればどう攻撃するかは解ると言いますが……今魔王は能面のように無表情です。

 だから、勘に頼るし――


「きゃああぁぁぁっ!! がぐっ!?」


 そう思っていた瞬間、身体は吹き飛ばされ……アタシの身体は再び宙を舞い、再び背中が壁にぶち当たりました。

 壁からドシャッと身体が床に落ちると、連続的に来た痛みに頭では起き上がろうとしているのに……身体が起き上がろうとはしてくれません。

 そんなアタシを見下ろしながら、魔王は……いえ、きっと本人の意思とは関係ないままに誰かに操られていると思しき魔王はアタシへと近づいてきます。

 うごか、ないと……! そう心に言い聞かせているのに、身体は一向に動いてくれません。

 そして、そんな動けないアタシの前まで魔王が近づくと……脇腹へと蹴りを打ち込みました。


「がっ!? げ……ぐふ……っ! ぐぅっ!? ぜひゅ……げぅ!!」


 尖った金属製の靴の爪先が脇腹へと刺さり、激しい痛みとともに呼吸しようとしていた肺から空気が洩れながら、体勢をうつ伏せから仰向けに変えさせられた瞬間――お腹へと足が乗せられました。

 乗せられた足はゆっくりと体重が掛けられて行き、腹を押し潰されて吐き気と共に身体から空気が抜けていくのを感じたアタシは両手でそれ以上押し潰されないようにと魔王の脚を掴みます。

 ですが、アタシの両腕はだいぶ力を込めているはずなのに魔王の足は止まること無くアタシのお腹を押し潰し続けていきました。

 まず……い、どうにか……しな、いと……!!

 そう思いながら、必死にアタシは両腕の力を振り絞って魔王の足を自分の身体からどかそうとします。ですが、やはり止まりません。


 ――お、お主! どうにかせぬと本当に不味いぞ!!

 わ、わかって、ます……けど、足がまったく止まらないんです……!

 ――それは解るが……、しかも魔力が散らされているからかお主が何時も無意識に使っていた肉体強化もまったく機能しておらぬぞ?

 そう、だったのですか……? というか、そんなの……使って……?

 ――うむ、まあ……それは息をするのと同じようなものじゃったからな……。じゃがこうなっては仕方ない……お主、魔力ではなく生命力を使って神気を纏ってみせよ!

 えっ!? だ、大丈夫……なんですか?

 ――いや、無論危険じゃし……今の状態で使えば全身から血が吹き零れるじゃろうな。……じゃが、今は死ぬよりも生きるほうを選ぶべきじゃ。じゃから、その方法をわしは生命力の使いかたを伝える。


『お~ぅ? もうそろそ~ぉろヤバイかな~ぁ? んじゃ~ぁ、魔王にやめるように言って~ぇ……お?』

「は……あ……あ……あ……ああぁぁ…………あぁぁぁぁぁぁあああああッ!! ――はあっ!!」


 死に掛けているだろうと考えたドウケの声が部屋の中に響き渡る中、アタシは呻くような声を喉から出し……段々とその声を上げて行くと同時に、その身体に属性の光を纏わせ始めました。

 そして、最後の雄叫びと共にアタシの身体からは白金の光が放たれ――その直後、魔王の足を持ち上げるとそのまま勢いをつけて、投げ飛ばしました。

 投げ飛ばされた魔王の身体は自身の意識が無いからか、ごろりと転んでおり……その様子を見ながらアタシは立ち上がりました。

 ですが、突然眩暈と吐き気、全身の痛みを感じた瞬間にベチャリと地面に落ちる赤い液体を見ました。


「くっ……これは、本当に……きつ――げほっ!!」


 紅く滲んでくる視界で地面を濡らすアタシから流れた血を見ながら、そう呟きます。

 ……とりあえず、魔王を倒すとか言う考えは捨てましょう。ですが、どうにかこの場から逃げ出すためには魔王を何とかしないといけません……。

 そう考えると、起き上がってきた魔王が能面のような表情でこちらを見ると手を前に出して来ました。

 紅く滲んだ視界にはこちらへと近づいてくる衝撃波が……見えました。


「今なら、この衝撃波……何とか出来る気がします!」


 そう言って、拳を握り締めながらアタシは迫り来る衝撃波へと拳を突き出しました。

 瞬間、拳に激しい摩擦が起こり――拳が何かを吹き飛ばした感覚が手に伝わりました。

 それと同時に拳を振るった瞬間に周囲に血が飛び散るのを感じ……、時間が無いことをアタシ自身に伝えてきました。

 だったら……だったら、早く魔王をどうにかしないと……。いえ、せめて、魔王が四天王に手を出すことが出来ない理由の珠を何とかしましょう……!

 そう考えると後の行動は早かったと言えます。

 何故なら、一直線に突き抜ければ良いだけなのですから……!!


「その苦しみから貴方を救ってみせます。だから、我慢してください……魔王! はあああああぁぁぁぁっ!!」


 叫び一直線にアタシは魔王へと拳を突き出して跳びます。

 対する魔王はやはり能面みたいな無表情で衝撃波を打ち続けますが、見えている今ならば怖くはありません!!

 幾度と無く放たれる衝撃波を拳で貫き、アタシは魔王の眼前へと辿り着きます。


 ――もらいましたっ!!


 そう心で思いながら、アタシは一直線に拳を突き出しました。

 その瞬間、アタシの拳は魔王の胸元へと打ち込まれた――はずでした。


「――――え?」


 ですが、拳が魔王の胸元に接触する瞬間を見計らっていたとでも言うかのように……アタシの胸元からどす黒い色をした腕が生えていました。

 唖然とするアタシは、理解が追いつかないままゆっくりと後ろを見ました。

 …………黒い衣を身に纏って、どす黒い人のような顔をした何かがアタシの背後で笑っているように見えました。

 その直後、アタシの中へと大量の闇が……送り込まれたのです。

回想はそろそろ終わりです。

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