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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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魔王の知らない出来事

 気だるげな男の声はあまり高くなくむしろ低い声のはずなのに部屋中に響いており、気が付けばアタシは男を前に跪いていました。

 何故自分が跪いているのかと驚いてしまいましたが、男の声にはそれをさせるほどの威圧感が感じられました。……いえ、本人はそんな気はサラサラ無いのかも知れません。

 ですが、アタシの本能が動いては駄目だと頭の中へと信号を送ってきたのです。だから、動こうと思っても身体が言うことを聞いてくれません。

 そんなアタシを見て、玉座に座る男は溜息を吐きながら……もう一度同じ言葉を口にしようとしていました。


「もう一度だ。もう一度聞く……お前は――」

「ア、アタシは……アリス。ゆうしゃです」

「……なに? ゆうしゃ、だと?」


 アタシがそう言うと、男は信じられないといった感情を込めながら言葉を発し……マジマジとアタシを見てるのが分かりました。

 その視線に身体が萎縮してしまい……、目の前の男は今まで戦ったどの相手よりも強いように感じられました。そう思っていると、男の口から空気が洩れる音が聞こえ……。


「……ふ、ふふ、ふは、はは……はははははははっ!!」


 それが段々と大きくなっていき、笑い声へと変わって行きました。

 いったいどうしたのかと男のほうを見ると……本当に楽しそうに笑っていました。

 そのお陰なのかは分かりませんが、男から発せられていた威圧感が少し和らぎ……改めて男の容姿を見ることが出来ました。


 輝きが失われてくすんだ金色の髪は肩下辺りまで伸びており、顔は元々は凛々しいのだろうが栄養が余り取れていないからか頬は痩せこけており、瞳は髑髏みたいに落ち窪んでしまっていた。

 そして、見た目は若いはずなのに何というかその見た目と反して、老人のようにも見えてしまうのは何故でしょうか?

 そう思っているのが分かっているのかは分からないけれど、一頻り笑うとアタシへと視線を向けました。

 ただし、敵意を込めた視線などではなく……まるでヤンチャな孫を見つめるような瞳で、です。


「いや、すまない。お前を貶す目的で笑ったわけではない。ゆうしゃがこの場所にやって来るのが本当に久しぶりだったから、つい……な」

「は、はあ…………」

「それで、ゆうしゃアリスよ。お前はいったい何の目的でこの私……魔王の前へと現れた?」

「や……やはり魔王でしたか……」


 何となくそうではないかと思っていましたが、本当に魔王でしたか……。

 でも、マジマジと見て気づきましたけれど……魔王の顔はこの世界系の人間の顔かと聞かれるとむしろ彼の世界の外国人顔ですよね……。

 そんな風に思いながら、目的を話すことにしました。


「アタシは一度アナタにあってどんな人物なのかを見てみたいと思っていたんです」

「……それは、何故だ?」

「初めはアナタを倒せばすべてが終わる。そう思っていましたが、本当にアナタが獣人の国への侵略行為を前四天王であるティーガとクロウに命じたのか疑問に思っています。……そして、現四天王の3人が好き勝手やっているのに、アナタが何故立ち上がろうとしないのか、それを聞きたく思います」

「……待て、なんだそれは?(・・・・・・・) いったい何の話をしているのだ?」


 アタシの言葉を聞いていた魔王でしたが、信じられないとばかりに表情を歪めていました。

 …………もしかして、この人は、何も知らない……?

 そう思っていると、魔王はアタシを見てきました。


「……答えてくれるか? ティーガとクロウ、2人は獣人の国を攻め込んだのだな……?」

「はい……。最終的に、瘴気に汚染されて……意識は無くなっていましたが……」

「……そう、か…………」


 アタシの言葉に2人の死を噛み締めているのか、魔王は静かに目を閉じ……涙を一筋流していました。

 それを見て、アタシはやはりこの人は優しい人物かも知れない。そう思いましたが……演技かも知れないとも心のどこかで思っていました。

 そんな中、目を閉じながら魔王はアタシに訊ねてきました。


「もう一つ、答えてくれ……現四天王が好き勝手やっているのか……?」

「はい、アークは森の国で馬鹿な実験を行って、その成果をビーフ将軍の管理する砦で行おうとしていました。マーリアは像を神像と偽って街へと送り……その像の持つ効果でモンスターの大群を街にけしかけて消耗させていました。エレクにいたっては、好き勝手暴れて色んな街を壊していっていました。事実友人であるクラスター族のかたは集落を消されたと言っています」

「…………なんたる、ことだ……」


 アタシの告げた言葉に魔王は頭を抱え、己の無力さを嘆いているように見えました。

 そう思いながら、アタシは疑問に思いました。

 目の前の魔王は、アタシよりも遥かに強いはず……それなのに、何故この人は戦わないのだろうか?


「何故戦わないのか、そう思っているのだろう?」

「……はい」

「本当ならば、私もそこまで腐り切った馬鹿どもを自らの力で排除してやりたい。だが無理なのだよ……。これを見てくれ」


 そう言って、魔王は着ている服の上着を下ろした。

 すると胸元にはある意味見覚えのある珠が見えました……。

 これは……、ティアと同じ物……?


「これはある人物が私に埋め込んだ物だ。取ろうとしたら全身に痛みが走る上に、許可が無ければ感情も表に出されることはないらしい……。所謂拘束具……と言ったところだろう、本当……油断した」

「そう……ですか。あの、アタシが見ても良いですか?」

「別に構わないが……。所で、お前はいったいどうやって此処に来たのだ?」

「はい、ポーク将軍たち三将軍との話し合いをしていたのですが、突然ドウケという人物が現れてアタシを誘拐しまし――「なんだとっ!?」――た。え?」


 此処に来れた理由を語りましたが、最後まで語る前に突如魔王が叫びました。

 その悲鳴染みた声に驚いていると……真剣な顔で魔王がアタシを見てきました。


「早く、早くこの場から離れろ!! 奴らは私とお前を戦わせようとし――――」


 叫び声を上げて、アタシに逃げるように言っていた途中、突如糸が切れたかのように焦る顔は能面のように固まり……、その場で呆然と立っていました。

 いったいどうしたのかと驚き顔をそちらへと向けますが、何の動作も無く突然魔王はアタシの心臓を貫こうと手を突き出してきました!?


「――――ッ!!? い、いったいなんですかッ!?」


 何とかバックステップで攻撃をかわしましたが、あと少し気づくのが遅かったら串刺しになっていたことでしょう……。

 そう思いながら、魔王を見ていると……突如何処からかドウケの声が聞こえました。


『さ~ぁ、敵は用意したから、ゆうしゃらしく戦ってみてよ~ぉね』


 そう言って、ドウケの声はケタケタ笑っていました。

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