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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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道化

 ドウケと名乗った男は自分のことを紹介してから、ケタケタと楽しそうに笑いました。

 ですが、アタシは気が気ではありません。

 何故なら、少しの動きでなら追うことが出来るだろうと思っていたのに、まるでドウケはその場から一瞬でそこに移動……いえ、転移したとでも言うようにその場からシストさんの背後に回り、再びそこに立っているのですから……。

 ……何かする可能性があるので、ちゃんと動きを見ていましょう。そう思いながら、目に力を集中させながらアタシはドウケを見ます。

 ですが、集中して見ていたはずなのに……ドウケはアタシの視界から一瞬で消えました。


「おやおや~ぁ? そんなに警戒しなくても、おれっちは何にもしなぁ~いよ~ぉ? ん~ぅ、い~ぃ香りだね~ぇ」

「――ッッ!!? い、何時の間にッ!?」


 そして背後から声が聞こえたと思ったら、何時の間にかドウケはアタシの背後に回っており……気色が悪いことにアタシの尻尾を撫で回した上に匂いを嗅いでいました。

 そんなことをされていることに気づいた瞬間、ゾワッと尻尾の毛が膨れるのを感じながらも一気に距離を取りました。ですが、跳んだ背後に既にドウケは立っていたらしく……アタシの身体に腕を回してきました。

 またもそんな身の毛のよだつことをされたので、全力の裏拳を放とうとしましたが……そこにドウケの姿は無く、つい先程と同じ場所に立っていました。


「~~~~ッッ!! い、いったい何なんですか貴方はっ!!」

「ん~ぅ? だぁ~から、言ってるでしょ~ぉ? おれっちは四天王の腰巾着で案内人だってよ~ぉ」

「それはもう聞いています! だから、その腰巾着で案内人がこんなところに何のようですかっ!?」

「あ~ぁ、それはだね~ぇ。こ~ぉっそりと連れて行こうと思ってたら、面白い話をしてたものだから~ぁ。冥土の土産がてら教えてやろうと思って現れたわ~ぁけよ」


 そう言って、ドウケはその名前の如く道化らしい仕草なのか両手を広げて大げさな風に言います。

 ですが、アタシたちはそれよりも気になる言葉を言ったことに反応しました。


「連れて行く……だと? 貴公、いったい誰を連れて行くつもりでいる?!」

「いや、そもそもどうやって連れて行こうというのだ? 此処には兵たちが居るから、簡単には逃げ出せないぞ?」

「と言うよリモ、そもそもどうやってここに入ってキタ?」


 呆けていた三将軍ですが、その言葉に反応したらしく敵意を込めた視線をドウケへと向けます。

 ですが、ドウケはその視線を何処吹く風とでもいうかのごとく無視して、手を広げたままクルリとその場で一回転しました。

 何ていうか、イラッとしますね……その動作動作が…………。

 そう思っていると、アタシを一瞬見た気がしました。


「決まっているじゃ~ぁないですか。ここに居る全員、でぇ~すよ。そして~ぇ、方法は~ぁ……おれっちがやって来たときと同じ方法ってわ~ぁけ」

「同じ方法……? つまり、《転移》……と言うわけですか?」

「お~ぅ? さ~ぁすがゆうしゃさま、簡単にそこに行き着くか~ぁ?」

「当たり前です、さっきからポンポンとあんなことをされ続けていて気づかないほうがおかしいじゃないですか」


 アタシがそう言うと、大げさに驚いた表情をしながらドウケは愉快にパシパシと手を叩き始めました。

 と言うか、転移で連れて行くつもりなら……直前に何かが分かるはずですよね?

 その兆候を見極めて、ドウケが皆さんを転移させる直前にワンダーランドを取り出して、【チェシャキャット】を使って転移に使う魔法を狂わせましょう。

 そう、愉快に笑いながら手を叩くドウケをアタシは見ていましたが、不意にアタシを見ると……ニヤァと気味の悪い笑みを浮かべました。


「うん、うん、何度も使っていれば分か~ぁるよね? うんうん、わかる~よ。でも~ぉ、これは分からなかったみたいだ~ぁね」

「――――え?」


 いったい何を言っているのか? その言葉の意味を考えようとした瞬間、アタシが立っていた空間がその場から切り離されたみたいに真っ暗になりました。

 い、いったいどういうことですか!?

 冷静になろうとするけれど、頭の中は混乱しており……焦りが芽生えそうになるアタシでしたが、耳元でドウケの声が聞こえました。


「さ~ぁっすが、ゆうしゃさま。他人のことを一番に考える偉い人だ~ぁね。だ・け・ど~ぉ、そのために自分の守りが手薄になるって言うのはどうかと思うんだ~ぁよね」

「…………まさか、いえ……間違いないと思いますが、聞かせてもらいますよ?」

「い~ぃよ。な~ぁんでも聞いてみな~ぁ」

「では聞かせてもらいますが、貴方は全員を連れ去るとか色々言っていましたが、本当はアタシを油断させて……アタシだけを連れて行く考えで居たのですか?」

「そ~ぉれは自意識過剰じゃ~ぁないかな~ぁ? ま、おれっちは主様にゆうしゃ連れて来いって言われたから連れて来ただけだ~ぁよ」


 ケタケタと言う笑い声が聞こえる中、アタシはワンダーランドを呼び出そうとしますが……《転移》の最中は別空間となっているのか分かりませんが、呼び出そうとしても来る気配が見られません。

 だったら、自分の力で何とか……そう思って身体を動かそうとしましたが、漸く身体も動かないことに気づきました……。

 これは……かなりピンチじゃないですか?

 そう思いながら、冷や汗をかくアタシですが……何処に連れて行かれるかぐらいは聞くべきだろうと考えました。


「……主様と言っていましたが、貴方はアタシをその主様の下へと連れて行くのですか?」

「当たらずとも遠からず、と言ったところだ~ぁね。だって、連れて行く場所は魔王の元なんだから~ぁね」

「……意味が分かりません」


 この口ぶりからして、魔王とドウケの主は別人に聞こえます。なのに、何故魔王のところにアタシを連れて行くのでしょうか……?

 と言うよりも、アタシをそこに連れて行って何を企んでいる?

 まったく分からない状況の中、突如目の前の真っ暗な空間が弾けました。

 多分、《転移》が終わったのだろうそう思いながら周囲を見渡すと……先程までの食堂ではなく、薄暗い広間のような場所でした。

 本当に、転移したんですね……。そう思いながら、自分を連れてきたドウケが何処に消えたのかを探しますが……見当たりません。

 ですがその代わりに、声が聞こえました……。


「誰だ……?」

「え?」

「誰だ、と聞いている……」


 暗さに目が慣れてきたところで、アタシは部屋の中の全体図が分かりました。

 殺風景な石造りの室内。壁には等間隔で置かれた蝋燭。そして、部屋の奥には段差があり……その上には玉座がありました。

 そして、玉座の上には不機嫌そうな顔をした男がひとり座っていました。


「もう一度聞く……お前は誰だ?」

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