新たな宗教団体的なアレ
「ジャシン、だと? なんダ、それは?」
「ビーフ、貴公は聞いた覚えはあるか?」
「いや、こちらは聞いた覚えは無い。それに、チキンもだがポークも聞いた覚えは無いみたいだな……」
三将軍は口々にそう言って、確認し合いますが……やはり聞いた覚えは無いようでした。
シストさんの背後に居る情報に長けたメイドさんを見ると……、何かを思い出そうとしているように見えますがそちらは少し待ちましょう。
そう思っていると、3人の視線がアタシに向いているのに気づきました。どうやら、その言葉が出た理由を知りたいと言ったところでしょう……。
とりあえず、アタシも何処でその言葉が出たのかを言うことにしました。
「じゃしん……多分ですが、邪なる神という意味の邪神だと思うのですが、それを暴虐のエレクが口にしていました」
「「「…………なに?」」」
「確か、戦闘中に急激に強くなったのですが……その力は邪神から貰ったと口にしていました」
「……エレクはあの強サから、更に強くなったト言うのカ?」
アタシが向かう直前まで戦っていたであろうポーク将軍は信じられないとばかりにそう口にします。ですが、アタシが本当のことであると口にしようとする前に、声が掛かりました。
「……ソバさんの言葉は本当です、ポーク将軍。わたくしとシトリンは暴虐のエレクから邪悪でどす黒い何かを身体から出して、それを纏った瞬間に強くなったのを見ておりました」
「……そうナノか?」
「はい、それに……あの力は普通に使うとしたら、あまりにも強力過ぎて身体が持たないです。よく似た力を使ってみたアタシが言うので間違いありません」
「そ、そういえば、ソバさんはどす黒い何かを纏ったエレクに一方的にやられていましたが、突然光り輝き出しましたよね? しかも、その後は逆に一方的に攻撃していましたし」
そのときの様子を思い出しているのか、シストさんは何処と無く落ち着いているように見えますが……興奮していませんか?
そう思っていると、三将軍が改めてアタシを見ます。そして、口を開こうとした瞬間――。
「思い出しました。邪神に関して、じぶんが得た情報の中に幾つかあります」
「本当カ?」
「確かな情報、なのだろうな?」
「まずは聞いてみるべきだろう。シトリン殿、よろしく頼む」
メイドさんの言葉に反応して、彼らがメイドさんを見ると綺麗に頭を下げました。
「畏まりました。それでは、じぶんの情報の中にある邪神、というものですが……一番有名なのは邪神崇拝というものです」
「邪神崇拝……というと、名前の如く邪神を信仰すると言うことでしょうか?」
「はい、じぶん情報収集は得意なのですが、エレクが何故クラスター族の里を滅ぼしたのかを調べもしたんです。そのときに、エレクを含めた四天王を中心にデモン一族が魔神様ではなく、邪神を崇拝していると言う情報も掴んでいました。……まあ、じゃしんの意味は今漸く理解出来ましたけど……」
気恥ずかしそうにメイドさんは言います。
……ああ、『魔』族の『神』だから、魔神ですか。じゃあ、獣人の神は……獣神? 魚人の神は魚神? まあ、森の神と自分で名乗っていた神も居るのですから別に気にしなくても良いですね。
そんな半ば如何でも良いことを考えているとカラアゲさんがその話に頷いていました。
「ふむ、デモン一族が主体に行う新たなる神の崇拝か……。もしかすると、貴公が壊した像はその邪神を基にして作ったのかも知れぬな……」
「いえ、アレは四天王のマーリアが自分をモデルに作ったといった感じですよ? まあ、もしかしたら似せていたかも知れませんが……」
「そうなのか……。ならば、燃え上がったときにスカッとしたのは間違いなかったというわけだ」
何気に怖いことをカラアゲさんは口にしますが、聞かなかったことにします。
その話を聞きながら、アタシは疑問に思ったことを口にしました。
「あれ? ですが、邪神崇拝とか言っていても四天王になった者たちが居る一族だけしか崇拝してなかったら浸透していないのでは?」
「はい、デモン一族だけならば気にしなくても良いと思います」
「……あの、何だか今から嫌なことを言われる予感がするのですが……」
「……はい。最悪なことに何が良いのか悪いのかは分かりませんが、少しずつ邪神を崇拝する者はこの国で段々と増えつつあるようです。しかも、崇拝し始めている者は狂っているとしか言いようが無い者たちばかりのようです」
な、なんとも頭が痛い話ですね……。
そう思っていると、ポーク将軍とスキヤキさんはあまり気にしていないようですが、カラアゲさんは覚えがあったようです。
「我輩の街でも、四天王のマーリアが像を置いて……奴の策略通りにモンスターが襲い掛かり疲弊していた頃、数名の住民だが……狂ったように像へと祈りを捧げる者たちが居た。
……しかも、貴公が作った神像を前に「こんなのは私の神ではない!」と叫んで唾を吐こうともしていたのだ。まあ、天罰として軽く燃えたために暫くは監視付きの診療所暮らしだがな」
「私の神ではない……ですか。一応あの像はある筋から魔族の神の姿を教えてもらって彫り上げたものなのですが……」
「でハ、ヤはリ魔神様とその邪神は違うモノと考えるのが一番という訳カ?」
「だろうな。そして、この国に混沌を招こうとしているのもその邪神、と言うことだろうか?」
「そう考えるのが妥当、ですよね……」
「で、では……、わたくしに啓示をくださっていた魔神様は今は……?」
アタシたちの話を傍観しつつ聞いていたシストさんが恐る恐る尋ねてきますが……、どうなっているか分からないので答えることは出来ません。
というか、死んでないと良いのですが……。というよりそもそも神様って死ぬのでしょうか?
そんなことを考えていると、パンパンパンと空気を含ませたような乾いた拍手が部屋の中に木霊しました。
『『――――ッッ!!?』』
アタシは手を叩いた覚えはありません。それは他の皆さんも同じようであり、驚いた様子を一同は見せ……室内を見渡しました。
すると、上座となる場所にある椅子に座って、両足をテーブルに載せた男がそこには居ました。
「いやいや、面白いことを口にしていますね~ぇ?」
「キサマ、何者ダッ!!」
「いや、それ以前に何処から?」
「我輩たちが気づかなかった……だと?」
三将軍の反応は多種多様ですが、いずれも顔を強張らせています。
そして、メイドさんも只ならぬ気配を感じ取ったのか、シストさんを自らの後ろへと隠しました。
「お嬢様、お下がりください……!」
「シ、シトリンッ!?」
「いや~ぁ、麗しい主従愛で~すね~ぇ?」
「え? ――――ひぃッ?!」
今もテーブルに脚を引っ掛けて居る。そう思っていたはずなのに、男はシストさんの背後へと回るとその頬を軽く撫でました。
一瞬、シストさんは気づいていなかったようですが……すぐに気づいて、全身に寒気が走ったらしくシストさんにしがみ付きました。
そんな様子をケタケタと笑いながら男は見ていましたが、すぐにその場からパッと消えると再び上座の……今度はテーブルに乗った状態で、軽く頭を下げてきました。
「おぉ~っと、自己紹介はまぁ~だでしたね~ぇ。おれっちは四天王の腰巾着で案内人の、ドウケとお呼び下さぁ~い」
そう言って、男……ドウケはケタケタ笑いながら、アタシたちを見ました。