更に上へ
エレクの必殺の拳がアタシの胸へと放たれた瞬間――、エレクは自身の勝利を揺るがない物と信じているのか凶悪な笑みを浮かべながらアタシを見ていました。
事実、ほんの一瞬でエレクの拳はアタシの胸へと放たれ、アタシの胸は風穴が開いて絶命してしまうでしょうね……。
――今のままなら。
そう思いながら、アタシは横へと跳びました。
直後、アタシが立っていた場所へとエレクの拳が突き抜けました。
避けれるはずが無いと考えていたからか、エレクは一瞬驚いた顔をしましたが……すぐに納得したようにこちらを見ます。
「ほう? 我の拳をまたも避けるとは……獣人の勘とは侮れないものだな」
「ええ、そうですね」
「それに知らず知らずと我は手心を加えていたのだろうな。だが、今度は逃さぬ……! 死ぬが良い!!」
そう言うと、エレクは先程よりも素早い速度でアタシに向かって突進して来ました。
その速度から放たれる拳は、杭打ち機とでもいうような物でしょうね。……当たれば命は無いでしょう。そして、今度は回避しようにもより素早い速度ですから、勘で避けれる物ではない。
エレクはそう確信しています。
だからアタシは――。
「――ッ!? 血迷ったかッ!!」
「いいえ、血迷ってはいませんよ?」
「そうか……だが、手心を加えることは無いと知れ!! はあああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
自らの元へと駆け寄ってくるアタシを見て、驚きの声を漏らしつつも突進をしながら拳を突き出してくるエレクを見ます。
本当ならば音速の域に達しているであろう拳。それをアタシは、のろのろとした動きで見ていました。
だからそれをアタシは身体を横に曲げて回避すると共に、そのまま手を地面につけて脚を浮かせるとゆっくりと突進してくるエレクの足首を蹴り飛ばした。
その瞬間、周囲の速度は通常戻り――クルリと片腕を軸に一回転して地面から立ち上がるアタシと、音速のスピードから地面を転がるエレクが居ました。
「ぐ――――ああああああああぁぁあぁぁぁぁぁあッ!!?」
「うわぁ……、痛そうですね。あ、生きてますね」
「きさ、ま……、いったいなにを……したッっ!?」
石が多い荒地のような地面を激しく転がったからか、フラフラと立ち上がり困惑と怒りを宿した瞳をアタシに向けてきたエレクの身体はボロボロでした。
それを見ながら、アタシは先程エレクが言ったことを繰り返すように言います。
「何って……、ただの勘。ですよ?」
「嘘を言うな! 貴様は確かに我の動きに反応していたッ! いや、我を見て笑っていただろうッ!?」
「あれ、笑っていましたっけ?」
おかしいですね。笑っていた覚えは無いと思うんですが……まあ、もしかしたら笑っていたのかも知れませんね。
そう考えながら、激昂するエレクを見ました。
「答えろ! 貴様はいったい何をしたというのだっ!?」
「何だと思いますか?」
「我はそれを聞いていると言うのだっ!! さあ、答えろっ!!」
「そんなことを言われて……答えるとでも思っているのですか? まあ、アナタのそれを真似させていただきました」
アタシがそう言うと、エレクは信じられないとばかりに目を見開き口をワナワナとさせ始めました。
そして、怒りに満ちた声をアタシへと向けました。
「馬鹿を言うなッ!! 我のこの力は邪神様からいただいた物だ! それをゆうしゃ如きが使えたとでも言うのかッ!?」
「……魔王、では無く邪神……ですか」
「そうだ! それがどうしたというのだッ!?」
自分が何を言っているのか気づいていないようですので、アタシは何も言いません。
だからアタシは行動で示すことにしました。
「そうですか、だったら……見せてあげます。これがアナタが言ったゆうしゃ如きの力であると!!」
叫び、アタシは体内を循環する魔力に属性を与えると同時に身体の表面に纏わせるようにしました。
赤、青、緑、黄、紫、白、黒の色がアタシの身体表面に纏わり、それを見たエレクは驚愕の表情を作り出します。
多分、これがエレクが瘴気を纏わせたものと同じ状態、だと思います。
ですが、驚くのはまだ早いですよ?
「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!! ――――っ、はぁッ!!」
「な――っ!? 何だ、何なのだ――その輝きはっ!?」
属性を与えた魔力を一度圧縮し、一気にアタシの身体の中に浸透させると溢れ出る魔力が身体から放出され、あとにはすべての属性を統合させた魔力を纏わせたアタシが立っていました。
横から見えていた金色の髪が白金に染まっていることを感じ、尻尾を見ると同じように白金に輝いていることに漸くアタシは気づきました。
同時に、急激に身体から魔力が消耗されていく感覚を感じ……。
「なるほど、これは切り札ですね。ですから……一気に仕留めさせてもらいます。……着いて来てくださいね?」
「ッ!!?」
静かな感情を抱きながら、アタシは一歩前に進みます。
すると、一歩進んだだけの筈なのに……エレクとの距離は一気に詰めてしまい――内心驚きつつも、横っ腹に拳を打ち込みました。
直後、ドゴッという激しい音を立て、エレクの身体は弓なりに折れて地面を跳ねていきました。
おっといけない、強かったみたいですね。
反省しながら、アタシは跳ねていくエレクへと近づきます。
「アナタには感謝していますよ? 少し有頂天になっていたアタシに考える機会をくれたのですから、感謝しても仕切れませんッ!!」
そう言って、アタシはお礼に跳ねるエレクを止めるために、踵落としを背中に落としました。
ゴキャっという音が周囲に響き、直後にエレクを起点にしてクレーターが出来上がりました。
「ですがアナタが自分の都合で街を破壊し、クラスター族を滅亡させたという話にアタシは怒りが募っています。ですから、彼らの痛みを味わってくださいッ!!」
「が――グゲッ!? ゲフッ! ぐがっ!!」
殴りつけて、しばらくして遅れるようにしてエレクの悲鳴が聞こえるのを聞きながら、アタシはワンダーランドに来るように頭の中で指示をします。
すると、それに答えるようにしてワンダーランドが現れ、朱金に光り輝く2本の短刀に変わりアタシの手へと収まりました。
短刀を手にすると、アタシの攻撃はますますヒートアップし始め、暴風のような勢いでエレクの身体を切り刻み始めます。
短刀で切られた肌は細かい傷がつくられ、そこから血が噴出して血煙を作り始めていきました。
妙な高揚感を感じながら、アタシはトドメと云わんばかりに2本の短刀を逆手に持つと、下から上へとクロスさせるようにして短刀を振り上げ――空中で持ち返ると追撃といわんばかりに、同じ箇所へと再びバツの字に振り下ろしました。
「ぐはっ!? そ、――ば、かな…………われが、まけ――――ウッ!!」
信じられないと言った顔をしながら、エレクは呟き……口から血を吐き出して倒れました。
それをアタシは荒々しく息を吐きつつ、見ていましたが……身体に纏う魔力の光が弱まって行くに連れて……、全身を強烈な痛みが襲いました。
「くっ……!! これ、は……きびしい…………です、ね………………。けど、まだ倒れるわけには――わけ、に……は……」
チカチカと視界が点滅し始め、脚がガクガクと震え始め……、手の握力が弱まりワンダーランドがカランと音を立てて地面に落ちる音が遠くに聞こえます…………。
ダメ、です。まだ、おきていない……と。
そう思いつつ、アタシの意識は糸が切れたかのように一気に途切れてしまいました。
大きい力には反動があると言うものですが……。
おかしいなー……、どこぞのドラ●ンボー●とか読んだ覚えないんですけど……。