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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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窮地

 迫り来る巨大な拳を前に、アタシはその拳を受けるのに大扇型ではいけないと即座に判断してワンダーランドへと叫びます。


「ワンダーランドッ!!」

「何をするかは知らないが、そんな子供騙しが我に通じると思っているのかッ!?」


 すると、ワンダーランドは光を放ち大扇から新たな形へと姿を変えました。

 暴虐のエレクが笑う中、変化したワンダーランドは重厚な見た目に反し、アタシの腕で軽々と震える……鬼が持っていそうな棘が生えた金棒へと変化しました。

 何で金棒ですかっ!?

 心からそう思いながらも、アタシは野球のピッチャーがバットを振るかのごとく力強く拳に金棒を打ち付けました!

 直後、ぶつかり合った金属が激しい音と火花を立て――アタシとエレクは弾かれました。


「ぐっ!? 子供騙しと思ったが、面白いではないか!!」

「ワンダーランドッ! これは効果が無いので、違う物を!!」


 弾き飛ばされたアタシとエレクは双方共に地面を擦りブレーキを掛けると、再び弾かれたように再接近し始めました。

 同時に、アタシのほうは金棒となったワンダーランドへと再び変化するように指示します。

 アタシの要求に答えるべく、ワンダーランドは光を放ち再び形状を変化させ始めました。

 変化を始めるワンダーランドを振り被り、アタシは再びエレクと対峙します。


「ウオォォォォォーーーーッッ!!」

「はあアアあぁァァァーーッッ!!」


 互いの雄叫びが周囲に響き渡り、再びエレクの拳とアタシのワンダーランドがぶつかり合いました。

 けれど今度は結果は違いました。


「ぬぅ…………っ!?」

「これはまた、いかつい物に変わりましたね……。と言うか、ネットで見ただけですよそれ……」


 苦笑するアタシの手には中世の処刑人が使っていたという種類の剣が握り締められており、対するエレクの巨大な拳からは振り被ったアタシの一撃を受けたために血がダクダクと零れていました。

 と言うか、血は赤いんですね……。

 そう思いながらエレクを見ていると……、自分の手から流れている血を見て……獰猛に笑いました。


「くくっ、面白い……我に傷を付けた者は貴様が3人目だ……!」

「そうですか。別に興味が無いので覚える気はありません。そして、付け狙おうだなんて考えないでくださいね?」

「付け狙う? 違うな、貴様はここで死ぬのだからな!! うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」

「これは…………まさか瘴気ッ!?」


 気合を入れるような仕草をエレクがして、雄叫びを上げると……彼の中から邪悪な気配が高まるのをアタシは感じました。

 そしてその邪悪な気配は、視認出来るほどにどす黒いオーラとなってエレクの身体を包んで行きました。

 その邪悪な気配の正体が瘴気だということに気づいた瞬間、距離を取っていたエレクの身体が掻き消え――


「が――はっ!? おぐ――っ!?」


 腹が殴りつけられたと同時に、内臓を掻き回されるかのような衝撃が身体を駆け巡りました。

 そして攻撃はそれだけでは収まらず、くの字に身体を折れ曲がらせたアタシの後頭部へと振り被った拳が頭上から放たれ、顔から地面に落ちて行きました。

 その瞬間、頭の中が揺らされ意識が刈り取られそうになりましたが何とか意識を保ちつつ、首を曲げて頭上を見ると今まさにエレクがアタシにトドメを刺そうと組んだ拳を頭上に掲げていました。

 このままだと危ない。そう直感したアタシは横に転がり距離を取りました。

 直後、組まれた拳は地面に振り下ろされて、クレーターをひとつ造りました。


「ッッ!! くっ――――は、はぁ……っ! はぁ……!」

「ほう? 普通ならば、腹を穿たれ首が吹き飛ぶ攻撃であるはずだが……さすが、ゆうしゃ……とだけ言っておこうか」

「そ、れは……どうも……!」


 転がったお陰か少し頭の眩暈が取れ、立ち上がることが出来たので立ち上がりつつアタシは考えます。

 エレクの身体を瘴気が被った瞬間、奴は一気に能力を増した……。つまりは、瘴気で能力を上昇させている? それとも、瘴気を身体に被って強化された?

 疑問を抱きつつも、改めてエレクを見ようとした瞬間――奴は再び姿を消しました。


「また消えた? いえ、素早く移動し――ッッ!!」

「ほう、これを避けたか……獣人の勘、といった所だろうか?」

「さあ……どうでしょうね! ワンダーランドッ!!」


 あ、危なかったです……。咄嗟に避けることが出来ましたが、今顔面に放たれた一撃は当たればただじゃ済まなかったですよね?

 というよりも、アタシも明らかに敵を舐めていたかも知れません。

 だって、四天王のひとりがアレだったのですから、全員そんな感じだと思うじゃないですか!

 心からそう思いつつ、アタシは呼び戻したワンダーランドを掴むとギラついた笑みを浮かべるエレクの胴体へとワンダーランドを振りました。


 ――ギィンッ!


 けれど、ワンダーランドの刀身はエレクの胴体に辿り着く前に瘴気の壁に阻まれたのか、切り裂くことが出来ませんでした。

 心で舌打ちをするアタシに反撃とでもいうのか、エレクの拳がアタシへと突き出され――咄嗟にワンダーランドを構えて防御しました。


「くうぅぅぅっ!! ぐあ――っ!!」


 脚に力を込めて、吹き飛ばされないように堪えます。ですが、相手のほうが力が強いらしく……アタシの身体は吹き飛ばされてしまいました。

 一回二回地面を跳ねて、身体に痛みが走るのを感じつつも何とか起き上がります。


「ほう? まだ起き上がるか……。面白い」

「お生憎様ですが、アタシはアナタを楽しませるために起き上がるわけではないのですからね……!」


 起き上がるアタシを見て笑うエレクですが、アタシは心の底からそう言ってやりました。

 …………くそっ! どう戦えって言うんですかッ!?

 戦う手段が思い浮かばない状況に悪態を付きながらアタシは目の前の敵を凝視します。

 と言うか、アタシにもああいう強化法が使えることが出来れば……ん?

 あの、強化法って……さっきも思いましたけど、瘴気を纏わせているんですよね?

 もしくは体内にも瘴気を循環させている。という可能性もありますよね?


「一か八か、試してみますか…………」

「さあ、無様に泣き叫びながら死ぬが良いッ!! はあああああああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」


 ポツリと小さく呟くアタシを見ながら、エレクは気合を込めるように再び瘴気を身体に纏わせて行きました。

 来る……! アタシの中の直感がそう叫び、対峙するために構えます。

 けれどそれは無謀な行動としか言いようが無いでしょう。

 心からそう思いつつ、アタシはあることを始めます。


「「――――――ッッ!!」」


 息を吐き出した瞬間、アタシとエレクは動き出し――アタシの胸へとエレクの必殺の拳は放たれました。

久しぶりに苦戦する相手です。

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