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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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お嬢様はお眠り

「お願いしますっ、おれを……おれを強くしてください!!」

「え、えぇー…………」


 目の前でDOGEZAをするウボアさんにアタシは嫌な顔をしました。

 しかも、「え、いやですよ」なんてはっきり言いそうになったのはアタシの心の中だけに閉まっておきましょう。

 というか、どうしてこうなった?


 えぇと、確か…………そうそう。お腹がいっぱいになったアタシたちでしたけれど、シストさんが糸が切れたみたいにガクッと倒れたんでしたよね。

 アタシも驚きましたけど、それ以上にウボアさんは大げさな感じに驚いて……走り寄りそうにもなっていましたよね。

 ですけど、メイドさんが確認すると眠っていると言うことでした。


「お嬢様はちゃんと休んでいると思っていましたが……」

「大方、見張りを続けているアナタがたを想って、眠れなかったのではないでしょうか?」

「そう……ですね。……ありがとうございます」


 悲痛そうな面持ちのメイドさんにそう言うと、メイドさんは目を閉じて何かを考えているようでしたが突然アタシに向けて頭を下げてきました。

 しかも、つい先程まで感じられていた警戒が少し和らいだように感じます。

 そのことに疑問を抱いていると……。


「偶然の出会いでしたが、あなたに出会ったことでお嬢様も張り詰めていた緊張の糸が解けたのだと思います。ですから、こんなにも気持ち良さそうに眠っているのでしょう……」

「んぅ…………」

「そうですか……。なら、よかったです」


 まるで妹に対するような優しい表情を浮かべつつメイドさんはシストさんの頭を撫でており……、撫でられているシストさんは気持ちが良いのか、ゴロゴロと鳴いていました。

 そんな2人……いえ、気持ち良さそうに眠っているシストさんをマジマジ……いえ、ジーッと言うレベルで穴が開くほど見つめるウボアさんが居ました。

 その視線に気づいているのか、何だかシストさんが微妙に魘されていますね……。


「……ウボアさん、少し周囲の見回りをお願いしたいのですが」

「えっ!? せ、拙者、今は見回りをしたくは無いのですが……」


 だからでしょう、凍えるような視線でメイドさんがウボアさんを睨みつけました。

 ですが、ヘタレ……いえ、ウボアさんは拒否をしました。このヘタレ!


「い・い・で・す・ね・?」

「は、はい……」


 しかし力強く一字一字区切るようにメイドさんが言うと、逆らえないのかウボアさんは頷くことしか出来なかったようです。

 うん、ヘタレだ。この人、超絶ヘタレだ……。

 心からそう思って立ち上がるのを見ていましたが、厄介なことが起きました。


「あの、ソバさん……、話したいこともあるので出来れば付いて来てくれないだろうか……?」

「え、えー…………。あの、今此処ででは駄目なのですか?」

「出来れば向こうで話したいので、頼めないだろうか?」


 正直言うと、面倒臭かったりしますので……よし、ここは拒否しましょう。

 そう結論付けて口に出そうとしました。ですが……。


「じぶんからもお願いできませんでしょうか、ソバ様」

「えっ!? メ、シトリン様?」


 いきなりメイドさんがアタシに向けてウボアさんと一緒に行くことをお願いしてきました。

 止めると思っていたので、アタシは驚きましたよ。驚きの感情のまま、メイドさんを見ると……あ、なるほど。

 納得しました。どうやら現状彼が此処に居ると鬱陶しいことこの上ない、そういうわけなんですね。

 そんな感じの彼女の感情がありありと伝わってきたので、アタシはウボアさんに付いて行くために立ち上がりました。

 そんな歩いて行くアタシを見て、メイドさんは頭を下げていたのが印象的でした。


 ●


 ああ、思い出しました思い出しました。

 確かある程度歩いて……シストさんたちに声が届かなくなった辺りまで離れると、いきなりウボアさんは土下座を始めて、そう言ったんでしたよね。

 混乱しつつも、少し頭の整理が付き始めたアタシはとりあえず顔を上げてもらうようにお願いするようにしました。


「え、えぇっと……とりあえず、顔を上げてもらえませんか……?」

「いやです! おれを強くしてもらえるようになるまで、顔を上げません!!」

「いや、ですから……」

「お願いします!!」


 ……あかん、まったく人の話を聞かない人です。

 心の底から頭を押さえたいのを必死に抑えつつ、アタシはどうするべきかを考えることにしました。

 …………まあ、とりあえず初めはどうしてそんなことを言った理由を尋ねることから始めましょうか。

 心の中で溜息を吐きながら、アタシは土下座するウボアさんを見ました。


「あの、どうしてアナタは強くなりたいのですか?」

「そ、それは……、お嬢様を護りたいので…………」

「それだけ、ですか?」


 威圧を込めて、外套越しにウボアさんを睨みつけますが……、観念したのか彼は強くなりたい理由を喋り始めました。


「お嬢様を護りたい、それは事実です。けど、おれは肝心なときに逃げ出さない強さが欲しいんです」

「逃げ出さない強さ……ですか?」

「はい、こう見えておれ……がきの頃は浮浪者で食い物は盗むのが普通だったんですよね。で、偶然にも住んでる町に同じような喰うのに困った女の子が居て、そいつと一緒に盗んだ物を食べて生活をしていたんだ。

 けど、ある日、そんなおれたちにバチが当たって、店に雇われた荒くれ者に追われてたんだ。おれたちは一心不乱に逃げたけど、相棒の女の子が途中で転んで……」

「逃げた。というわけですか」

「はい、今でもおれの耳には『置いていかないで』と叫び続ける声が聞こえるんです……」


 なるほど、その女の子のことが忘れられずに一種のトラウマになってる……と。

 とりあえずはこの人生ヘタレ男は、その後逃げた先で偶然にも変人っぽい旅人に助けられて、2人でフラフラ旅を続けていたらしいです。

 ちなみに拙者とか妙な喋りかたはその旅人の真似をして、自信をつけるということ。

 で、旅人さんはある日、居なくなったらしく……当てもなく旅をしていたらしく、2年前からはシストさんの家で馬の世話と御者の仕事を貰っていたとのこと。

 ……というか、よくもまあ、そんなお嬢様と接点が無いといった感じなのに、お嬢様のハートを撃ち抜きましたよねこのヘタレ。

 そう思いながら、アタシは自分語りを続けるヘタレを見ていました。

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