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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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お嬢様と食事

「な、何だこれはっ!? 凄く……美味い!!」

「……これは…………、お嬢様……」


 驚愕の表情を浮かべながらウボアさんは残りを一気に咀嚼し……、立ち上がって驚きの声を上げました。

 隣ではメイドさんが飲み込んでから、信じられないとばかりにシストさんを見ました。

 その視線に、シストさんは肯定するように頷いていますが……どうしたのでしょうか?

 訳知り合っている2人の様子を見ていましたが、ふとメイドさんにある変化が起きているのに気づきました。


「……あの、メイドさ――シトリンさんの額の石、ついさっきよりも澄んで見えるのですが……気のせいでしょうか?」

「いえ、気のせいではありません。ソバさん、わたくしたちクラスター族は定期的に身体の石に溜まった穢れを除去しなければ身体の機能が著しく衰えてしまうんです。

 現にシトリンはこれまでの諜報活動でだいぶ力を使っていましたので、石は白く濁っていました。ですが、ソバさんが差し出したそのアップの実を食べたところ、穢れが除去されたようなのです」


 ちなみにわたくしも……。そう言ってシストさんも額の石を見せてくれましたが、先程よりも綺麗に輝いているように思えました。

 ……なるほど。定期的に汚れを除去しないといけないのですか……あ、確かパワーストーンも水晶だったかの上で穢れを落とす作業が必要とか言ってたような。

 ふと、彼の母親がパワーストーンに凝っていた頃のことを思い出したので、アタシは納得出来ました。

 その証拠に……。


「本当ならば、クラスター族には穢れを除去するための専用の透石があったのですが、それは故郷と共に失われてしまいました。ですので、本当に助かりました……ありがとうございます」

「いえ、気にしないでください。というよりも、それだけで大丈夫なのですか?」

「…………シトリン?」

「大丈夫です、特に問題はありませんので気にしないでくださいお嬢様」

「……すみません、ソバさん。出来ればもう少しいただければ……」


 ……どうやらメイドさんはやせ我慢が上手いらしいのですが、長い付き合いだと思われるシストさんには見抜かれたらしく、アタシへとお願いしてきました。

 まあ、幾つか持ってきていましたから特に問題は無いですよね。


「構いませんよ。とりあえずは……10個ほどで?」

「いっ、いえっ! そんなには頂けません!!」

「そうですか? では、どれほどでしょう?」

「その……、ろ、ろっこ……お願いします」


 顔を赤らめ恥かしがりながら、そう言うシストさんへとアタシは《異界》から取り出したアップの実を6個差し出しました。

 ちなみにその表情は、男性が見たらきっと鼻血ものかほわわ~んとしてしまうでしょうね……。あ、ウボアさんが鼻血を出しながらほわわ~んってしていました。まあ、好き合ってるみたいですから彼女に対しての表情ってことで良いんでしょうね。

 そう思っていると、視線を感じその方向を向くとメイドさんと目が合いました。すると、メイドさんは口には出さないけれど……誠意を込めたお辞儀をしてきました。ですが、それは一瞬のことで……彼女はすぐに自らの仕事へと戻りました。


「お嬢様、そろそろご飯にいたしますが宜しいでしょうか?」

「ええ、そうね。お願いするわ」

「畏まりました」


 シストさんが頷くと、メイドさんはクアトルサが乗っているフライパンを持つと一度だけ軽く熱を通してから切り分けました。

 ちなみに切り分けられたクアトルサの肉は、馬車の中に食器があったのか何時の間にか用意されていた木の皿の上へと乗せられました。

 そして最後に、保存食としての固いパンが皿の上に乗せられ……それをメイドさんはシストさんへと恭しく差し出しました。

 角切りにされたクアトルサのステーキとパンという質素ながらも贅沢な食事を、シストさんが先に口をつけました。


「これは美味しそうね。シトリン、あなたの分とソバさんとウボアの分もお願い」

「畏まりました」


 シストさんの言葉に頷き、メイドさんはアタシたちの分の肉も切り分けて行きます。

 全員に肉と固パンが乗せられた皿が行き渡り、アタシたちは食事を始めることにし……あ、拝んでいます。何だか神様に祈っています。

 食事に手をつけようとしていたアタシでしたが、シストさんとメイドさんの2人が真剣に神様に祈っているのか手を組み拝み始め、それをウボアさんも見て倣うように祈り始めました。

 あ、これは祈らないといけないパターンですよね……。と、とりあえず、形式上ですけど……祈っておきましょう。

 そう考えてアタシも手を組んで祈り始めました。


「…………さて、それではいただきましょう」

「「はい」」

「い、いただきます」


 何というか居た堪れない気持ちになりつつアタシは頷き、食事を始めました。

 ……そういえば、フォークとかナイフは?

 シストさんは肉を食べるときに使いそうなイメージがあったので不思議に思っていたのですが……、どうやら必要は無かったようでした。

 何故なら、シストさん……と言うかメイドさんたちも固パンをトングのようにして掴んで、ステーキを食べるようです。

 では、アタシもそうすることにしましょう。と言うわけで、固パンを手に取るとアタシもステーキを掴み食べました。


「うっめぇぇぇええぇぇぇぇぇぇっ!!」

「あ……、美味しい」

「凄く美味しいわ、シトリン」

「お褒めに預かり恐縮です……。うん、上出来」


 あまりの美味さに叫ぶウボアさんは無視して、シストさんはメイドさんに微笑むとメイドさんは軽く頭を下げていました。

 でも、小さくガッツポーズを取っているのは見逃していませんよ?

 そんな彼女たちを見ながら、アタシはもう一口ステーキを食べます。

 ……うん、美味い。

 筋に沿って切込みを入れられたステーキの焼き加減はミディアムレアな生独特の紅さが真ん中に残っていますが、筋張った硬さが感じられません。

 しかも、中は生のようですがじっくり熱を通しているからか、温かさを感じます。

 そして味は素材そのものを生かそうとしているからか、それとも調味料が無いからかは分かりませんが塩のみとなっています。

 ですが、それが肉の旨味を引き立てており、肉を噛む度に肉独特の旨味と肉汁が塩と絡んで何とも言えない味わいとなっていき……口の中はドリームランドでした。

 味わいを残さず食べるべく、アタシは口を一生懸命モゴモゴと動かし、ひと噛みひと噛みを味わいました。

 周りも同じなのか、一心不乱に食べているようにも見えます。……ああ、逃亡生活でこういうのはあまり食べれなかったのでしょうか……。

 そんな風に思いながらステーキを食べます。ですがステーキは食べれば無くなる物です……。気がつけば、アタシはすべて食べ終えており、手にはふやけた固パンだけしか残っていませんでした。

 残念だ。そう思いつつしょんぼりとしていましたが、アタシは気づきました。

 今現在自分の手に持っている物は何か? 固パンだ……いや違う、ステーキの脂を染み込ませた固パンだ!!

 それに気づいて、アタシは固パンを齧りました。

 脂を吸って少し軟らかくなった固パンは保存食独特の塩辛さを持っており、噛む度にキツイ塩味が口に溜まりますが……ステーキの脂の濃さがそれを和らげてくれます。

 アタシのその行動に気づいたシストさんたちも、同じように固パンを食べ始めました。


「ごちそうさまでした」

「久しぶりに、肉が食えた……」

「本当に、本当に美味しかったです……」

「お嬢様、お茶です。……あなたも、どうですか?」


 そして、すべてを食べ終えると……満足した笑顔をシストさんは浮かべていました。

 そんなシストさんへと、何時の間にかメイドさんはティーカップを用意しており……、紅茶とは違っているけれど香ばしい香りのするお茶を注いでいました。

 ついでと言う風にメイドさんは、アタシにも勧めて来ました。……とりあえず、飲みますか。

気づけば、もう1年経つのかー……。

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