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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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お嬢様のもたらす情報

「一族を滅ぼされたわたくしたちですが、ただ逃げ続けるだけの生活をしていたわけではありません」


 シストさんは何故ポーク将軍のいる街に向かおうとしているのかを、別に聞く気が無かったアタシへと説明し始めました。

 シトリンさんはもう止めるどころか一蓮托生と考えたのか、というよりも巻き込めるものならば巻き込んでしまえと考えたらしく何も言いません。

 ……あ、なるほど。この人、ああいう態度を取っていましたが自分たちの危険も考えていると同時にこちらも巻き込ませないようにと考えていたんですね。

 彼女なりの優しさを感じつつ、アタシは諦めてシストさんの話を聞くことにしました。


「何とか隠れて逃げ続けていましたが、一族としてのツテは生きていましたし……こう見えてシトリンは情報収集に長けているので、何故こうなったのかを少しずつですが調べてもらいました」


 そう言って、シストさんはメイド(シトリン)さんを見ます。

 釣られてアタシも彼女を見ました。

 光沢が無い黄色の髪を肩までで切り揃えたショートカット。

 そこから見える白く濁ってはいるけれど黄色に色付いた宝石……いえ、水晶でしょうか。

 シストさんと同じように手の甲には彼女の額に付いている物と同質の水晶が鈍く輝いています。

 ちなみに彼女の体型は所謂スレンダー体型といった感じの、胸と尻は出ていないけれどお腹も出ていない平均的過ぎる体型ですね。

 ……あと、《鑑定》で見た年齢は二十代後半です。


「その結果、現在魔王様は部屋に篭っているという情報を掴み、更にはここ最近の実権は魔王様ではなく四天王が握っているということです」

「つまり、シスト様たちクラスター一族を滅ぼしたのは四天王の権限……ということですか?」

「はい、いったいどういう理由で一族を滅ぼしたのかは判りません。ですが、クラスター一族を滅ぼしただけではなく彼らは他にも様々なことを行っているとのことです。

 そして……最悪なことに、彼らの行動は魔王軍の中にも様々な影響をもたらしているようで……、唯一対抗出来るであろう三将軍を彼らの派閥の兵ごと僻地へと飛ばして行きました」

「ビーフ、チキン、ポーク将軍たち、ですね?」

「はい、彼らになら助けを求めることが出来る。そうわたくしは考えて馬車を走らせていたのですが……、その道中で盗賊団に襲われて必死に逃げていたのです」

「そこで、偶然通り掛かったアタシに出会った……というわけですか?」

「結果的には、そうなります……」


 そうシストさんは口にしますが……疑問が浮かびました。


「あの、それは判ったのですが……何故ポーク将軍なのですか? 他にもビーフ将軍、チキン将軍もいますよね?」

「はい……ですが、シトリンの収集した情報だと、チキン将軍様の街はここ最近何故かはわかりませんが度重なるモンスターの襲撃を受けているとのことで、ビーフ将軍様の砦は国境近くということもあって移動に適していないと判断したのです」

「なるほど……」

「それに、シトリンが手に入れた情報だと……ここ最近、国境から危険な人物が入り込んだという話です」

「はい、何でもここ最近森の国のほうで化け物みたいなゆうしゃが居たらしく、知性のアークがその化け物みたいなゆうしゃにボコボコにされて逃げ帰ってきたという話です」


 メイドさんがそう淡々と言いますが、化け物みたいなゆうしゃ……ですか。いったいだれのことでしょうねー……。

 いえわかっています、わかっているのですが……現実逃避したいじゃないですか。

 正体がわかっていないとはいえ、自分のことを化け物とか言われたら泣きたくなるじゃないですか……!

 そんな感じにプルプルと身悶えているアタシでしたが……その様子に違和感を感じたのか不思議そうに反対側に座る2人はアタシを見てきました。


「あ、あの……ソバさん? 大丈夫、ですか?」

「え、あ……うん、だいじょうぶだいじょーぶ……。けどポーク将軍の下に行ったとしても庇護してもらえる可能性は低いんじゃないのですか?」

「それは……そうですが……けど、行かないと判りませんので、行くしかありません」


 シストさんは口にしますが、絶対的な自信は無いらしく……後が無いようにも見えました。

 そう思っていると、馬車のスピードが段々と緩やかになり始めて行く事に気づき……どうしたのかと思っていましたが、連絡窓から顔を出したウボアさんが。


「お嬢様、日も暮れてきましたし、走らせ過ぎていたので馬も一度休ませたいのですが宜しいでしょうか?」

「あ、あらっ!? もうこんな時間ですか? その、シトリン……大丈夫ですか?」

「大丈夫だと思われますお嬢様。盗賊が追いかけてくる……ということもあまり無さそうですし」

「そうですか……でしたら、少し移動して休めるところを見つけれたら今晩はそこで休憩を取りましょう」

「「かしこまりました」」

「あの、ソバさんも……」


 驚きつつも窓を見ると夕日が沈み始めていることに漸くシストさんは気づいたらしく、2人にそう提案してきました。

 そして、アタシへとシストさんが向くと……昔テレビのCMで見たような感じのつぶらな瞳をこちらへと向けてきました。

 赤混じりの紫の瞳にアタシは観念して、頷きました。


「はあ……。一緒に休憩します」

「あっ、ありがとうございますっ」


 アタシの言葉にパアッと輝くような笑顔を向けてきました。


 ●


 あの後、休憩に適した場所を探すと運が良いのかすぐに見つけることが出来たらしく……いえ、運が良いというかメイドさんがウボアさんに言ったとおりに進むと見つかったので、この人かなり探知能力高いんじゃないですか?

 その上、さすがメイドと云わんばかりに馬がウボアさんの手によって馬車から放されて、近くのに生えている樹に括りつけて、食事である枯れ草を食べさせている間にテキパキと彼女は休むための準備を整え始めて行きました。

 そして、30分もしない内に煌々と燃える焚き火の前には丸太が置かれており、その上にスカーフと思しき布が敷かれてシストさんが座るための準備がバッチリといった感じになっていました。


「ありがとうございます、シトリン」

「いえ、恐縮ですお嬢様」


 シストさんに礼を言われて、頭を下げるメイドさんを見つつアタシたちもついでに持ってきました感が強いぞんざいに捨てられた丸太の上に座ります。……腐った丸太とかじゃないだけマシと思いましょうか。

 などと少しばかり酷いことを思いつつ、メイドさんが食事を作るためにフライパンを取り出すのを見ているとふと思い出しました。


「あ、ちょっと良いですか?」

「はい? 何でしょうか……?」

「えっと、食事を作るのでしたら、これを使っても良いのでアタシの分もお願い出来ませんか?」

「あなたはいったい何を言っ…………え?」


 アタシの言葉に呆れているメイドさんでしたが、《異界》から取り出したクアトルサのブロック肉を見て目が点になっていました。

 その様子に気がついたシストさんたちは首を傾げていましたが、《異界》を使っている時点で尋常な存在ではないと理解しているようです。

 そして、しばらくしてメイドさんは頭の中で整理が付いたらしく……クアトルサのブロック肉を受け取ると、料理を開始し始めました。

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