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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
359/496

お嬢様の事情

 ガラガラと車輪の音が聞こえる中、アタシは今馬車の中でお嬢様と呼ばれていた少女と対峙していました。

 あのときは目の前のお嬢様を観察する暇はあまり無かったので改めて見始めることにしますが……。

 艶のある髪は紫色をしており、その先はクルクルとカールになっていますね。

 体型は……所謂ロリ体型というようなちっちゃくてつるぺたボディ、そんな感じですね。

 けれど年齢は《鑑定》が作用して見えたのですが、十代後半でした。……見た目は8歳児くらいに見えるのに……。

 そして最大の特徴は……額や手の甲に見える石……いえ、宝石ですね。

 初めは横顔しか見えていませんでしたが、間近で対面していたら額に輝く紫水晶のような宝石があるのに気が付きます。

 しかも……お嬢様と呼ばれるのも頷けるほどの上質な布で作られているであろう薄紫色のドレスに身を包んでいますので高貴な身分であるということが一目で判りますね。

 そんな風に思っていると、見られていることに気づいたのか……それとも、お嬢様のほうもアタシを観察していたのかはわかりませんが……一瞬ビクッとしたと思うと、居住まいを正してアタシへと頭を下げてきました。


「……この度は、ウボアにわたくしたちを助けていただき誠にありがとうございます」

「あ、いえ、成り行き上そうなっただけなので気にしないでください」


 そう言いながら、アタシはここ最近何だかこういう感じに遭遇するなぁと考えていました。

 国境では砦での一件、そこから少し移動したら森でクアトルサに襲われた集落の人、でもって集落周辺の解決、カラアゲさんの街の一件。

 ……なんだか偶然にしては出来すぎていると思いますが……偶然なんでしょうね。

 そんなことを考えていると、アタシの言葉をどう捉えたのかはわかりませんが……目を瞬かせるお嬢様。


「そうだとしても、お礼を言わせてください。それに……成り行き上だと言っても、ウボアを助けてくれたのは事実です」

「はあ……」


 生返事でアタシは返すけれど、アレは助けないといけないと思うじゃないですか……。

 そう思いながら、アタシは連絡窓越しに見える馬車を動かすウボアさんを見つめるお嬢様を見ます。

 あー、これやっぱり恋する瞳ですよねー……。というか、さっきも倒れたウボアさんを真剣に心配していましたし……まあそれを見たからアタシも回復させたのですが……。


「申し送れました。わたくしはシストと申します。こちらは従者のシトリン」

「……よろしくお願いします」

「えっと、アタシは……ソバと言います。冒険者、です」


 お嬢様、シストさんはそう言って彼女の隣に座るメイドさんも紹介しました。

 紹介されたメイドさんはアタシを警戒しつつも、シストの言葉に逆らうこと無く頭を下げてきました。

 というか、このメイドさんついさっきから地味に睨み付けているんですよねー……まあ、身元不明の人間だというのに主であるお嬢様と一緒というのが許せないんでしょうね。

 けれど乗せてと頼んだのはお嬢様なので反対するわけにも行かないというところなので、睨みつけるしか出来ないというわけですか……。


「そういえば、シスト様たちはどうしてこんな道も無い場所を馬車で走っていたのですか?」

「え、その……」


 ふと思い出したことをシストさんに訊ねてみると凄く言い辛そうにし始めました……。

 あ、あれー? 何だか嫌な予感がするのは気のせいでしょうか……?

 そう思っていると、決心をしたシストさんが口を開こうとするのをメイド(シトリン)さんが止めました。


「お嬢様、これ以上は駄目です。この方だって味方ではありません。いえ、むしろ冒険者なのですから此処で話を知ってしまったらお嬢様を売るかも知れません」

「シトリン……そんなことを言ってはいけません。……それに、何故だかこの方は信用しても良いと思える気がするのです」

「お嬢様…………。どうなっても、知りませんよ?」


 止めるメイドさんの言葉に反発するようにしてシストさんが言うと、諦めたように溜息を吐いていました。

 そして、ルースさんは改めてこちらを見ると事情を説明し始めました。

 ……正直、聞きたくなかったと心からそう思いたくなる話が、彼女の口から発せられるのですが今のアタシはまだ気づいていませんでした。

 そうして、シストさんの話が始まりました。


 ●


「改めて紹介させていただきますが、わたくしはクラスター族のシストと申します。

 わたくしの家……と言うよりも一族であるクラスター族は、代々魔王様の下で神様の啓示を届ける役割をになっております。

 ですが、3年ほど前からわたくしの元に届く啓示の数は徐々に少なくなっていき……そしてつい半月ほど前にある啓示をわたくしに与えてから反応がなくなりました」

「……その、啓示とは?」

「『逃げよ』――そう切羽詰った様子で神様はわたくしに告げました。わたくしは戸惑いつつも、家の者にその言葉を伝えると、家の者たちは急いで魔王様へと伝令を飛ばしました……ですが」


 そう言って、シストさんは顔を俯かせました。

 思い出したくない記憶があるのでしょうか? そう思っていると意を決したのかシストさんは泣きたいのを堪えるようにしながらアタシを見てきました。


「伝令を飛ばした、3日後のことです。わたくしの伝えた啓示で……クラスター族が反乱分子として、四天王の一人である暴虐のエレクの元に断罪されることとなったのです……」

「暴虐のエレク……」

「はい……、今でもわたくしは忘れることが出来ません……逃げ惑う一族の者たちがあの者の手によって握り潰される様子が……」


 そのときの様子を思い出してしまったのか、シストさんは身体をガクガクと震えさせます。

 ……というか、四天王の3人目はかなりの肉弾派ってことでしょうかね?

 メイドさんがシストさんの頭を優しく撫でるのを見ながら、アタシはもし戦うことになったらどう戦うべきかを考えます。

 あれ? でも……。


「あの……、でも何故アナタがたは無事だったのですか?」

「それは……シトリンとウボア、そして家の者たちが命をかけてわたくしを逃がしてくれたからです……」

「そうですか……。では、アナタがたは何処に向かおうとしていたのですか?」


 一族の命をかけて逃げることに成功したお嬢様たちを見ながら、アタシはそう問い掛けます。

 するとシストさんは口を開こうとしましたが、一度止めたにも関わらずメイドさんは再び口を開きました。


「お嬢様! これ以上はいけません!」

「シトリン、貴女はつい先程止めないと口にしましたよね? では、止めないでください!!」

「ッ!! ですが、お嬢様っ! あなたがこの者に教えたせいで逃げた先の場所が襲われたら、あなたはどう責任を取るというのですかっ!?」

「ッッ!! ……で、ですが……ですが……」


 言おう、そう思っていたであろうシストさんがその言葉に揺らぎを覚えてしまったらしく、言葉を詰まらせてしまいました。

 そんな彼女たちを見つつも、アタシは先を急ぐので……可哀想だとは思いますが、仕方がありません。そう考えて口を開きます。


「……申し訳ありません。今シスト様たちの行く先を聞いたとしても、付いて行くことは出来ないのでした……ですので、無理に言わなくても構いません」

「そう……ですか。あの、ところで……ソバ、さんはどちらに向かう途中だったのですか?」

「何処に、ですか? えっと、少し用があってポーク将軍がいるという街に向かっている途中でした。……えっと、どうしましたか?」


 アタシがそう言うと、驚いた表情をしつつ……2人は顔を見合わせていました。

 どうしたのでしょうか? 不思議そうに首を傾げていると……安心しつつも言葉を選んでいると思うシストさんがこちらに顔を向けてきました。


「あ、あの……実は、わたくしたちも向かおうとしていた場所が、その街だったりしたのです……」

「…………え?」


 その言葉に、今度はアタシが呆けた顔をしていました……。

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