マーリアの受難
絶叫が中央広場に木霊したわ。……って言ってたけど、熱い痛い寒い苦しい!!
何なのこれ何なのよこれぇーーっ!!?
混乱しながらも、マーリアちゃんに色んな衝撃が襲い掛かってきたから、地べたに倒れると転げまわってしまったわ。
早く身体に燃え上がる炎が消えるように必死に転げ回るけれど……全然消えないじゃないの!! しかも、このお洋服お気に入りだったのよっ!? なのに、こんな馬鹿みたいな奴らの前で転げ回って汚れるっていったいなんなのよっ!!
というか、このチキン! 馬鹿みたいな顔をして呆けて見てるだけじゃなくて、ちゃんとマーリアちゃん助けろ馬鹿!
「お、おお……!? マ、マーリア様大丈夫ですかっ!? 皆の者、早くマーリア様を助けるぞ!!」
「「は、はいっ!!」」
漸くマーリアちゃんの視線で状況を把握した馬鹿鳥は、兵士たちに命じてマーリアちゃんを助けるために動き出したわ。
遅いのよ、早くしなさいよ!! 心の中で必死に思いつつも、それを顔に出さないように心掛けてマーリアちゃんは早く助けてくれるように待つ可憐な乙女を演じていたわ。
……おい、今既に転げ回って可憐な乙女は無理だとか言った奴は何処の誰だよ? 〆るぞ?
まあ、気のせいよね? 兎に角、マーリアちゃんは助けられるまで待つことにしたわ。……早く助けろよ?
でも兵士どもが役に立っていないのか、マーリアちゃんを助けるのに四苦八苦していたわ。くそ、使えね――おっと、マーリアちゃんは神様みたいに優しくて超絶可愛い美少女悪魔☆ 美少女悪魔☆ ……よし、ああ、危なかった危なかった。
クールクール。こんな所で本性なんて見せたら折角の人気もガタ落ちよね。
何とか思いとどまったマーリアちゃんは、辛そうだけれど耐えてますって表情を浮かべて心配そうに見ている人々にいいイメージを与えることにするわ☆
そうして、しばらくして兵士たちが何とかしてくれたのか……それとも、自然に消えるように仕組まれていたのかは判らないけれど……マーリアちゃんを襲っていた魔法と思われる物は消えたの。
「だ、大丈夫でしたか、マーリア様?」
「え、ええ……だい、じょうぶよぉ~……」
大丈夫なわけねーだろこの馬鹿鳥が! それを何大丈夫でしたか? だ。ふざけてるのか?
心配そうな顔をこちらに向けてくる馬鹿鳥だけど、マーリアちゃんは頑張って耐えました風に装って儚げに笑うの。
これで民衆の心は掴んだも同然よね!?
そして、馬鹿鳥もそんなマーリアちゃんの儚げな笑みを見て安心したらしくホッと息を吐いたんだけど……これを元にこの怪しい像を撤去させるべきよねっ!!
そうと決まれば即実行よっ!!
「それならば良かったです……」
「所で、ばかど――チキン将軍ぅ~? この像がマーリアちゃんを攻撃してきたように見えるんだけどぉ~……こんな危険な物を置いてると危なくないかしらぁ~?」
「それはそうですな……。ですが、実はしばらく前にこれを創ったと名乗る者から手紙が送られてきたのですよ」
手紙、ですって?
いったい何が書いてあったのかしら? 微妙に嫌な予感がするけど……特に問題は無いと思うから大丈夫よね。
「その文には、この神像には祈った分だけ土地が豊かになるとか、祝福が送られるとか言う眉唾ながら実感出来ている効果が書かれていて、後は最大の特徴が……『この街に危害を加えようと思っている』者に対して攻撃を行うというものでした」
「へ、へぇ~……?」
「ですが、おかしいですね。マーリア様はこの街に多大な貢献をしてくださっているのに……。聡明で、お優しい、マーリア様がこの街に危害を加えるわけがないですな?」
「あ、当たり前じゃないの!! マ、マーリアちゃんは優しいから危害を加えるはずがないわ!!」
もしかして気づかれてる? ……いいえ、そんなはずが無いわ。マーリアちゃんの罠は今の今までばれたことはなかったのだから……!
内心ドギマギしているけれど、必死に隠しつつマーリアちゃんは馬鹿鳥を見ていたわ。
けど、そんなマーリアちゃんの心の中に気づいていないのか、馬鹿鳥は思い出したように手を合わせると……胸元から手紙を1通取り出してきたの。
「おお、それと忘れていましたが……これは送られてきた手紙と一緒に入っていた物ですが、これはマーリア様が読むようにと書かれておりました」
「ッ!? ちょ、ちょ~っと、見せてもらうわねぇ~☆」
奪い取りたいのを堪えながら、馬鹿鳥から手紙を受け取るとマーリアちゃんは急いで手紙を開き、中を読み始めたわ。
……とりあえず、初めの一文で破り捨てたくなったけれど必死に押さえたわ。
――初めに、どうだった? 楽して、街を潰そうとしたことに対する恨みの味は?
――それがどういう意味か分からない……って訳じゃないよね? こちらはすべて知っている。知っているからこそ、この手紙をカラアゲ将軍から超絶可愛いマーリアちゃん(笑)に送ることにしたんだよ。
――おっと、怒りに任せて千切らないようにね? ヒステリックはキャラじゃないからやらないだろうけどね。
――それで話だけどね、キミはこのまま何もせずに此処から立ち去って、ここへは一生近づかないで欲しいんだよね。ああ、勿論部下に襲わせようとか思っても無駄だよ? アタシが作った代物はこの街によからぬことを企てた時点で標的になるから。
――間違っても、アタシが造った像を壊すとかは止めておいたほうが良いよ。何せ、今のキミよりも遥かに信仰心があるはずだから、壊したらキミは総スカンを喰らうだろうね。それはキミの求めていることじゃないんだろう?
――だから、もう一度言うよ? この街からすぐに立ち去れ。像は壊すな。二度と姑息な手を使うな。そうでないと、アタシはキミの行いすべてを周囲に届けるようにする。
……何よこれ? 要するに、逃げ場は無い。だから諦めろと言ってるようなものよね?
冗談みたいに聞こえるけど……この手紙を書いた人物……コイツはきっと本気だ。
誰かはわからない存在に、マーリアちゃんは珍しく恐怖を抱きつつ……どうするべきかと考えることにしたわ。
……いや、正直な話……選択肢は決まっていると言ったほうが良いかも知れない。
心の中で苦虫を噛み潰したような気分を味わいつつ……マーリアちゃんは笑みを浮かべながら、馬鹿鳥を見たわ。
……というか今思い返したけれど、この馬鹿鳥……絶対にマーリアちゃんがしようとしてたことを知ってる。というか、聞いてるはずだわ……。
漸く理解した現状に実際に歯を噛み砕かんばかりに強く噛み締めつつ、精一杯の笑みを浮かべて口を開いたわ。
「あ……、い――いっけな~い。マーリアちゃん用事があるんだったぁ~♪ チキン将軍、急で悪いけどマーリアちゃんは失礼させてもらうわね~☆」
「おお、そうですかっ。それはそれは残念ですな……。所で、神像はどうしておきましょうか?」
「そ、そのままで良いんじゃないかしら~♪ それじゃあ、バイバ~イ☆」
何だか凄く逃げ台詞ッポイけど、それを口にしながらマーリアちゃんは空に舞い上がると……一気に遠くへと飛んで行ったわ。
しばらく飛び続け……街が米粒みたいに遠ざかり近くの岩山の上に立つと、マーリアちゃんは一気に怒りを爆発させたわ。
「っくっそがぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっっ!! 何処の誰だ、邪魔をしやがったのはぁぁぁぁぁあぁっ!!」
吹き上がる怒りを抑えること無く、足で岩山を踏むと――一気に崩れてしまった。
ガラガラと崩れていく岩山を見て少し気が落ち着いたのか、マーリアちゃんの頭が冷静さを取り戻してくる。
……ふう、落ち着け落ち着け~……。マーリアちゃんは冷静、冷静。
「…………とりあえず、戻って不貞寝でもしようかしらねぇ~……」
自分を落ち着かせるためにマーリアちゃんはそう呟くと、再び空を飛び始め……昼寝をするために戻るために翼を羽ばたかせたわ。
そして、その場には壊れた岩山だけしかなく……マーリアちゃんは住処へと戻るために移動を開始したの。