街を離れて・裏
……なんとも騒がしい数日間であったな。
屋敷から立ち去っていくアリスを見ながら我輩はそんなことを考える。
正直、これ以降は静かで穏やかな日々が送られて欲しいと思うのだが……そう上手く行くだろうか?
何となく嫌な予感を感じながら、アリスが言ってた万が一に備えるための準備をするようにメリマニへと指示を出す。
「畏まりました。……その、将軍。ワタシをこれからも将軍の側に居させてくださいね」
「? 当たり前のことだろう? いったいどうしたのだ?」
「い、いえっ、そ……そう、ですよね。ふふっ♪」
我輩の言葉が嬉しかったのか、メリマニは軽く微笑んでから我輩の指示を実行するために部屋から出て行った。
……何というか、ここ数年は彼女も張り詰めていた感じだったが……今は穏やかだな。いや、彼女本来の雰囲気が出ている……ということか?
思えば、彼女を救ったのは我輩の気まぐれだったかも知れないが……本当に良かったと思う。
「……そんな風に心にゆとりが持てるようになったのも、アリスのお陰……というわけか?」
小さく呟いてから、我輩は軽く背を伸ばしてから彼女の言っていた神像に施したという効果を思い出していた。
そして、嫌な予感は当たったようであった。
何故なら……その2日後、我輩の元へとマーリア様が現れたのだ。
「ようこそおいでくださいました。マーリア様……、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「え!? あ、ああ……えぇーっと。チキン将軍の街が度々モンスターに襲われているって聞いて心配になってきたんだぁ~☆ でもでも、元気そうだねぇ~♪」
我輩が挨拶しに応接間に入ると、マーリア様は一瞬驚いた顔をしていたが……すぐに明るい表情をこちらへと向けてきた。
何というか、この方と話をするときに薄っぺらいものを感じてはいたが……アリスの説明で理解した。
この方は周りのことはまったく考えて居ないのだ。心配そうな顔や声色を出す。けれど内心は自分のことだけを考えてる……そういう人物だったのだ。
本性を理解したが、こういう腹芸は我輩のほうが上だと思うので対処が出来るだろう。
さあ、我輩の戦いを始めるとしよう……。心の中で開戦の鐘を鳴らし、我輩は笑みを浮かべる。
「はい、今回のモンスターの大群には我輩たちももう駄目だと思っていました。ですが、偶然にもこの街に来てくれた冒険者の方々の協力もあって何とか倒すことが出来ました」
「ふ、ふ~ん? それはすごいねぇ~☆ でもでもぉ~、冒険者さんたちは全員旅立って行ったんでしょ~お? だったら次モンスターが来たら不味いんじゃないかなぁ~?」
「そうですな……。そのときは我輩たちの軍はおろかこの街も無事とは言えないことでしょう……」
「そうよねそうよねぇ? もし危険だって思ったら、マーリアちゃんの軍門に下ればマーリアちゃんが手を貸してあげるからねぇ~♪」
我輩が困った風に言うと、マーリア様は嬉しそうにそう言う。……なるほど、苦労せずに自らの軍門に下らせたい。
そんな思いが見え隠れするな。
…………少し揺さぶるか。
「そうですな……。ところで、話は変わるのですが……、何処の誰かはわかりませんがマーリア様から寄贈していただいた神像が何処かに持って行かれてしまいました。そして、その跡地には別の神像が置かれていたんですよね」
「――えっ!? マ、マーリアちゃんの像が何処かに行ったのっ!? それに、別の像……?」
「はい、なんでしたら……見に行きますか?」
●
チキン将軍と共に馬車に乗ったマーリアちゃんだけど……正直、内心気が気じゃなかったわ。
マーリアちゃんの創った像が何処かに行った? そして、別の像が置かれている?
ナニソレ、信じらんない!! マーリアちゃんの素敵で華麗な像を盗んだ馬鹿は何処のどいつよ!?
てか、これが無かったらこの街が破滅することはないじゃないのっ!?
まさかそれを知ってて……? いや、そんなはずは無いわ。だって、マーリアちゃんが仕組んだ物は《鑑定》を持っていたとしても読めるはずがないんだから……。
「着いたみたいですが、マーリア様? ……マーリア様?」
「え、あ……っ!? そ、そうっ!? じゃあ、降りて見てみるわねぇ~☆」
危なかった~っ。考え過ぎてて気づかなかったわ。
っと、とりあえず入れ替わったという像はいったいどんな感じなのかしら?
粗末な出来だったりしたらいちゃもんをつけて、またマーリアちゃんが新しい像を造って送るわ! それも、強力な物を取り付けて……ね。
内心ほくそ笑みながら、マーリアちゃんがチキン将軍と中央広場に行くと……中央広場のいたる所で跪いて真ん中に設置された像を拝んでいる人たちが居た。
うっわぁ、何この光景? うけるんですけどぉ? ……え? マーリアちゃんの時もそうだったはずだろうに、笑うのは何故かって? マーリアちゃんが拝まれるのは別に良いのよ~!
「あの像が入れ替わった像です」
「へー、アレがねー……」
半分棒読みになりながら、マーリアちゃんはチキン将軍の言葉に返しつつ、像を見ていたけれど……誰この人?
白い石材を削り出して創られた像は、よく分からない若作りのおっさんが掘られていたけど……全然感動するような物じゃないわね。
けれど周りの人たちは涙を流してたり、一生懸命拝んでたりするのもいて……張り切っているようだった。
本当、誰よこのおっさんは……?
苛立ちながらそれを見ているけれど……、両目と胸元に創られたであろう宝石にマーリアちゃんは目が行っていたわ。
一応判ってるだろうけど言っておくわね。マーリアちゃんは邪神様から《鑑定》も貰っているわ。だってそうじゃないと、用意した石に効果を込めることが出来ないんですもの。
だから、見えた鑑定結果にマーリアちゃんは豆が鳩鉄砲くらったみたいになっちゃったわ。
っと、いけないいけない。折角の可愛いマーリアちゃんの顔が台無しじゃない。
そんなことを考えながら頭を振るって、マーリアちゃんは出来る限りの笑みを浮かべることにしたの。
「へ~、すっごく綺麗に出来てるわね~♪ 瞳にはめられた宝石のお陰でまるで生きているようだったわ~☆」
「そうですよね。本当、いったい何処の誰が創ったのでしょうか?」
「ええ、そうよね~。特に胸元の宝石がひときわ目立ってるのが凄いですね~♪」
本当、煌びやかな感じにはなってるけど……ヤロウじゃねぇ。
もっとさあ、マーリアちゃんの像に戻したほうがいいんじゃない? まあ、戻すときはこの前よりもドきついのをって考えてるわ。
それも、街が滅びるやつを……ね。
そう心の中で思っていると、突然像の胸元に付いている宝石が色とりどりに光り輝いたわ。
「こ、これは……」
「うわぁ……」
その光景を待ちの住人たちは見ており、彼らは皆簡単の息を漏らした。
直後、強烈な光がマーリアちゃんに向けて放たれて来たわ。
って、マーリアちゃんっ!?
「な、なにがおこ――ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああッッ!!?」
それは炎であり水であり、風であり、土であり……そんな様々な属性の魔法がマーリアちゃんの身体に放たれていき……絶叫が中央広場に木霊したわ。