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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
354/496

街を離れて・表

「この度は貴公らの働きに感謝をする。これは今回の働きによる報奨金だ。受け取ってくれたまえ」


 神像を入れ替えてから数日が経ち、アタシを含めた冒険者5名はカラアゲさんの書斎に呼ばれました。

 ……ちなみに何故数日掛かったかというと、準備が終わりかけていたところに神像が入れ替わったという騒ぎが起こり、その処理にも追われていたかららしいです。

 まあ、そこで今の言葉が告げられ、補佐さんの手に持たれた盆の上に金銭が入っている袋が乗せられており……それがアタシたちの元へと近づけられました。

 その袋の大きさを見て、ダブルさんはヒュウと口笛を吹き……。パスタさんは大きな目をキラキラと輝かせていました。

 そんな2人の様子を見ながら、ひとりひとりに袋は差し出されて行きました。……って、凄く嬉しそうですねパスタさん。


「どうぞ」


 ボルさんとライさんに袋が与えられ、最後にアタシに袋が差し出されましたが……手を近づけると補佐さんが小さくアタシだけに聞こえるように喋りました。


「すべて終わったら、もう一度此処に来て貰うようにとの将軍からのお達しです」

「……わかりました」


 補佐さんの言葉に頷き、離れると話は終わりということになったらしく解散の空気を出し始め……ボルさんとライさんの2人が部屋から出て行くのを皮切りに、ダブルさんとパスタさんも部屋から出て行きました。

 とりあえず、アタシも一度出直したほうが良いと考えて部屋から出ました。そして全員が黙々と玄関まで移動すると……、突然パスタさんがズビシッという風にアタシに向けて指を指してきました。

 人を指差しちゃいけませんと言おうかと思っていましたが、それよりも先にパスタさんは口を開きました。


「今回はアナタが凄いところを見せたみたいですが、次に会ったときはそうは行きませんわ!」

「は、はあ……」

「それでは、また会う日まで……ごきげんよう!」

「ご、ごきげんよう……」


 釣られてそう言ってしまいましたが、言うだけ言ってスッキリしたのかパスタさんはスタスタと去って行き……そんなアタシたちを見ていたであろうダブルさんが近づいて来ました。

 それも凄く楽しそうに……。


「よお、面白いのに宣戦布告されたじゃないか」

「宣戦布告……なのでしょうか?」

「多分そうだろうよ。さあってと、こっちはこっちで別んところに向かうとしますかねッ!」

「お疲れ様でした。また何処かで会うことがあればよろしくお願いしますね」

「ああ、ま……そのときはお互い無事だと良いけどな。それじゃあな!」


 そんな感じにダブルさんとある程度会話をしてから、彼は2本の手を挙げて手を振ると荷物を詰め込んだ大袋を担いで屋敷を後にしました。

 それを見送りつつ、隣に立つボルさんとライさんの2人を見ました。

 とりあえず、この2人とは数日間の間に話をしましたが……ここで語るべき内容ではないと理解しているので何も言いません。


「我々も行かせてもらう。さらばだ……」

「はい、()はさよならです。ですが、アタシは諦めませんよ」

「…………期待して待たせてもらおう。さ、行くぞライ」


 そう言うと、2人は静かに立ち去っていきました。

 ……そんな2人の後姿を見ながら、アタシは拳を握り締めます。……絶対に、治してみせますから。

 しばらく街へと消えていく2人を見守ってから……、小さく溜息を吐いてクルリと回れ右をして書斎へと戻るために歩き出しました。


「……入りたまえ」

「失礼します」


 書斎の扉を叩き、入室の許可を貰うとアタシは中へと入りました。

 中では先程と同じようにカラアゲさんと補佐さんの2人が居り、補佐さんはカラアゲさんの後ろに待機していました。

 そしてカラアゲさんに勧められるままにアタシは、少し慣れ始めたソファーに座ると改めてカラアゲさんを見ました。

 するとカラアゲさんはアタシに向けて頭を下げてきました。


「こうしてまともに話す機会が出来たので、改めて感謝する。ありがとう」

「いえ、気にしないでください。アタシもあのやり方には苛立ちしか出てきませんでしたから……」

「そう言って貰えると助かる……と言えば良いのだろうか? それと、貴公も見ているであろうが……あの神像に変えた途端、何処と無く街の中が晴れやかになったように感じている」

「それに、何をしたのかはわかりませんが……ここ最近周囲で育てている作物などの品質が向上しているそうです」


 カラアゲさんの言葉に補足するように補佐さんがそう言いましたが……、当たり前じゃないですか。だってそういう風に創ったのですから。

 ……いえ、出来れば教えておいたほうが良いと思いますよね。

 というよりも、教えておいたほうが後々良いでしょうし……。


「アタシがあの神像に施した効果を説明したいのですが、大丈夫ですか?」


 そう言った瞬間、カラアゲさんと補佐さんが一瞬呆けた顔をしましたが……すぐに顔を歪めて来ました。


「……貴公、いったい何を言ってるのか理解出来ているのか?」

「そ、そうです! あなたが言おうとしているのは、自らの手札を曝け出そうとしている行為ではないですか!」

「それはまあ、そうなんですけど……。ですが、アタシはずっと此処に居るわけではないのですよ? だったら、ずっと居るであろうお二方に教えておいたほうが良いじゃないですか」


 アタシがそう言うと、ようやく目の前の人物はずっと居るわけではないと言うことを補佐さんのほうは思い出したらしくハッとしており……。

 カラアゲさんは目を閉じていました。多分、考えているのでしょう……。

 そして、しばらくしてカラアゲさんは決心したらしく、けれど疑問に思っていることがあるのかアタシに問い掛けてきました。


「貴公が教えようとしているのは理解した。だが、それを話す利点は何なのだ?」

「利点……ですか。そうですね、しいて言うならば……近い内に来るであろう四天王のマーリアに対するけん制、でしょうか」

「けん制、だと? ……そうか、つまりは自作自演の行動でこの街の最後を迎えさせようとするマーリアさまに下手な手出しを出来ないように……というわけか?」

「はい、あなたがたがどう言うかは判りません。ですが、ああいう輩は痛い目をあわせても、文句を言えない状況を作り出せばなんとでもなる気がします。まあ、どう言うのかはあなたがたが考えていただければ」


 カラアゲさんにはそう言いますが、頭の中では既に想像が浮かんでいました。

 2人も想像しているのか、微妙そうな表情を浮かべていました。

 とりあえず、話すという方向で良いですよね?

 そう結論付けてから、アタシは2人に神像に施した効果を語り始めました。

 語る内容を2人は真剣に聞き、頷きました。


 …………。


 最後まで話し終えると、アタシは立ち上がります。

 向こうもアタシが立ち上がった理由を察しているのか、アタシを見ていましたが……カラアゲさんが1通の手紙を差し出してきました。


「これは?」

「中には地図と手紙がもう一通入っている。とりあえず、地図に印がしてある街まで向かってみよ。そこに居るポークが認めたならば、貴公は魔王様にお目通りが叶うかも知れぬぞ?」

「ッ!? そう、ですか……。でしたら、これは頂かせてもらいますね」


 手紙を懐の中に入れ、今度こそ書斎から出ることにしました。

 入口で立ち止まり、頭を下げ……心の中で頑張るようにと応援をして、アタシは書斎から出て……そのまま外に向けて歩き出しました。

 しばらく歩き、街の出入り口まで辿り着くと……一度だけ街のほうを振り返り、街を一望しました。

 それを終えると、今度こそアタシはこの街を離れ……地図を頼りに移動を開始し始めました。


「さあ、目指すはポーク将軍が居る場所! ガンガン行くよー!」

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