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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
351/496

ある補佐の追憶(前編)

※視点は、補佐さんことメリマニさんです。


そして、間に合った。間に合ったぞぉぉぉぉっ!!

 将軍に敬意をまったく払おうとしなかった冒険者は空中で光り輝く剣を操り白い未加工の石材が削り出していった。

 そして瞬く間に石材は一つの像へと変わっていくのをワタシは呆気に取られながら見ていた。

 ワタシが見ていく中で、段々と像は創られていき……最終的に一人のローブを纏った男性の像が出来上がった。

 腰まである長い髪を持ち、佇んでいるだけなのにその表情は微笑んでいるようにも見え……気がつくとワタシの瞳からは涙が零れ落ちていた。

 そして、涙を流すどころかワタシは何時の間にか地面に膝を突きながら出来上がった像に手を合わせていたのだ。

 何時の間にか行っていた自らの行動に驚きはした。けれど……驚くよりも先にワタシの脳裏には将軍が自分を拾ってくれたあの日のことを思い出されていた。

 だから……その思い出される記憶に抗うこと無くワタシは記憶に身を委ねていった……。


 ●


 ワタシことメニラニは幼い頃はこの街には住んでは居らず、ここから大分離れた場所にある農村で産まれて父と母の3人家族で暮らしていた。

 父は小さいながらも村の雑貨屋を営み、母はそんな父の代わりに農作業を行うことで日々の糧を得て……小さなワタシはそんな母の手伝いを行うということをしていた。

 ……まあ、その頃のワタシは小さかったからあまり大きな物は持てないので、作物が育てられた畑に生えた雑草を引き抜く作業などだったが……。

 そんな小さいながらも幸せな家庭でワタシは毎日を過ごしていた。

 けれど、ある日転機が訪れた。

 ワタシが6歳になった頃、運が良かったのか父の商才に目を付けた大きな街で商会を運営する商人が父をスカウトしたのだ。

 自分の商才が認められて街に行けると知った父は本当に喜び、母もワタシも父を応援した。だから父は商人と共に大きな街へと旅立っていった。……ワタシと母を置いて。

 初めの頃は父からの手紙と共に仕送りが届き、元気にやっているとか、やりがいがあるとか言う手紙の内容を嬉しそうにする母から聞いていたが……ある時を境に手紙は届かなくなった。

 もしかして何か遭ったのかと不安に思ってはいたが、母は何時も困った表情をしながら……。


「メリ……、お父さんを信じてあげましょう。ね?」


 と言うばかりだった。

 そして、ワタシが8歳になった頃、本当に……本当に久し振りに父から手紙が届いた。

 手紙が届いたことに母はホッとした様子だったが……内容を読むにつれて表情は曇り始めていった。

 そんな母の表情にワタシは不安になってしまったが、母はワタシの頭を優しく撫でるだけだった。

 けれど、その日から母は笑顔を見せず……それどころか徐々に表情が悲しい表情になっていくばかりだった。でも、何時ものように母ややはり優しく儚げに微笑みながら……、


「大丈夫よメリ、お母さんはひとりでも頑張れるし、メニもちゃんと育ててあげるからね」


 どういう意味かは良くは判らなかった。けれど母が言うことに間違いは無いのだ。

 だからワタシは疑うことをせずに母の大丈夫を信じてしまっていた。

 そして、半年後……母は作業中の畑で倒れて、帰らぬ人となってしまった。


「全然、全然大丈夫じゃなかったじゃない、母さん…………」


 畑からベッドに移され、周囲の家の大人によって寝かされた母の姿を見ながらワタシはそう呟いた。

 ガリガリに痩せ細った身体、死んだ顔を見られたくないだろうと考慮して被せられた仮面……その下の目元の取れなくなったクマ、そして何より……自分よりも遙かに軽いと感じられた体重。

 そんな状態で自分に大丈夫と言ってた母に涙を流し、それに気づくことが出来なかったワタシ自身を叱咤した。

 ……けれど、どうして……? どうして、父は帰ってこないの? 村の人が手紙を送ってくれたはずだよね?

 そんな疑問が頭の中を渦巻き、気づきたくなかった事実をジワジワとワタシへと突きつけてくる。

 いや、それよりも先に周囲の大人たちの言葉がワタシに現実という牙を身体に突き立てて来たのだ。


『奥さんも大変だったわよね。旦那さんはどうしたのかしら?』

『そうよね、何時までもメリマニちゃんをひとりにしておくわけにはいかないでしょうし……』

『え? もしかして知らないのか? 旦那さんは…………』

『おいよせよ、何も知らない子が居る場所で……』

『いや、けどよぉ……、街で女を作って結婚したいから別れてくれなんて酷いだろ……?』

『でもその結果が――――』


 ……え? 父は、街で商売に行ったんじゃ…………。

 戸惑うワタシだが、周りの大人たちの話はワタシに気づいていないのか益々続いていく。けれど、今のワタシの耳に届くことはなかった……。

 ああ、そう……だったんだ。父は、母とワタシを……捨てたんだ(・・・・・)


 それから2ヶ月の時が経ち、母の葬儀を終えて……ワタシは村から出ると父が行ったという街へと来ていた。

 そこはワタシが住んでいた街なんかよりも遙かに広く遙かに大きな建物が沢山並んでいた。

 そんな凄い街並みに圧倒されながらも、ワタシは元々の目的を思い出し……すぐに歩き始めた。

 目的……それは、父が何故ワタシたちを捨ててしまったのか。それを聞くため……ううん、何で母を捨てたのか。そのために母は死んだんだと怒鳴りつけるため。

 静かにだけれど、激しく燃え上がっている怒りの炎を胸に燃やしながらワタシは村の大人たちから聞いた商会へと歩いていた。

 時折道に迷い、近くを歩く人に道を尋ね……その度に首を傾げられながら、漸く商会の建物へと辿り着いた。

 だが…………。


「…………え?」


 辿り着いた商会は……誰も居ないのか、人の気配は無かった。

 いや、それどころか、ボロボロになっており……何かがあったのかも知れないというのが一目でわかるものだった。

 困惑しながらも、誰かに話を聞くべきだと考え……向かいに見つけた食料品店に駆け込むと言い辛そうにする店主にお願いして話を聞いたのだが……。


「と、とう……さん?」

「ああ、何でも婿入りとして入った男が大きな賭けに出たんだけどよ。その賭けが大外れも良い所で、借金が大き過ぎたんだとよ……で、大きくなっていた商会は呆気無く倒産」

「あ、あの……婿入りをした男性って……どんな人だったんですか?」


 その話を聞きながら、嫌な予感を感じつつワタシは店主に訊ねると……。


「どんな人かって? 何でも、元は何処かの村からスカウトした男性だったけれど、面白い売り買いをしてるって有名だったな。

 でもその分、先代には扱かれて居たらしく……ああ、そんな男性を励ましていた結果、その商会の一人娘と恋愛に落ちていたらしいぜ。もしかしたら家族も居たんじゃないのか?」

「……その、その婿入りをした人たちは……?」

「あー…………。莫大な借金を返せなくなって、商会は倒産したけれど男性のほうは危険度の高い鉱山に連れて行かれて強制的に働かされてるって話だ。あと嫁さんは娼館勤めって話だぜ

 帰ってくるって男性は商会の前で言ってたけどよ、鉱山で死ぬか嫁さんに捨てられるかしか無いだろうな」

「そう……ですか……」

「けど、いったいどうしてそんな話を――って、行っちまった」


 店主の声が後ろから聞こえるけれど、ワタシはフラフラと外へと歩いて行った。

 そして、商会だった建物を呆然と見ながら……ホロリと涙が零れた。


 母は死に、父は生きてるか死んでるかわからない……、ワタシはどうすればいいんだろう……?


 目的を失って、変える場所も何も無くなってしまったワタシはそう心で思うのだった……。

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