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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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将軍の数日間(後編)

「諸君、今回も良く生きて帰って来てくれた! 怪我をした者も居るが、ここまで無事な戦いは初めてのことだ! なので、我輩から諸君らにささやかながらパーティーを開かせてもらうことにした。思う存分堪能してくれ!!」

『『うおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!』』


 グラスを掲げ心の底から思った言葉を口にすると、兵たちからは割れんばかりの雄叫びが上がった。

 その異常過ぎる反応に少し驚きはしたが、ここまで力いっぱいに叫ぶのは当たり前だと思う。

 何故なら、今回の戦いでは傷は負った者は居たがどれも重傷ではなかった。……それどころか下手をすれば死者が出たかも知れないほどのモンスターの軍団だったにも関わらずモンスターはほぼ殲滅という結末。

 喜ばずして何とするだろうか。

 そう思いながら、我輩は生きた喜びを噛み締めながら仲間たちと食事を楽しむ兵たちを見ながらホールの中を歩いていた。

 歩いている……のだが、我輩は周囲に気取られずゆっくりゆっくりと我輩は隅のほうで周りを見ているアリスに近づいていた。

 ……正直、気づかなければ殺してしまおうか。そう心の中で思っていたのだが、奴は我輩の存在に気づいていたらしく逆に声を掛けられた。

 なので我輩は諦めて話をするために、彼女を書斎まで招いた。

 ……そのときに彼女の外套を脱いだ姿を見たが、獣人としては美しい部類に入るのだろうな。


「……改めて礼を言わせてもらう。街を救ってくれて助かった。感謝する」


 感謝する。その文字は小さく呟いたから聞こえていないかも知れないが、聞こえていなかったらそれでも構わない。

 そう思いながら、我輩はアリスと会話をし始めた。

 ……内容は殆どがタイガ様に関してのことだが…………。それに、森の国でのアークが行っていたという瘴気の実験、そしてティーガ様の変容。

 これは……一度3人で集まって話し合う必要があるかも知れないな……。

 そう思いつつ話をしていたのだが、執拗に魔王様の場所を知りたがって居たが……それは教えることが出来ないので黙っていると、アリスは諦めてくれたようであった。


 ●


 翌日の昼時、事後処理作業に追われていた我輩の元へとアリスは再びやって来た。

 その際、彼女は恐るべき事実を我輩と……その場で作業を補佐してくれていたメリマニの前で口にしてくれたのだった。

 その事実とは、この街にモンスターの大群が定期的に襲ってくる原因が寄贈された神像が原因だということだ。

 初めは我輩とメリマニは信じられないといった表情を取っていたが……、改めて考えると思い当たる点があることに気が付いた。

 初めてモンスターの大群が襲ってきたのは、マーリア様が神像を寄贈して2週間が経過した日だったな。まあ、そのときはゴブリンが30匹だったりしたから危機感を感じてはいなかったのだ。

 そこから徐々に増えていき……ゴブリン100匹、オーク20頭などといった感じに段々と増えていき……仕舞いには昨日のあれだけの数だ。もし次が来たらどれほどのモンスターが来るのだろうかと考えるとゾッとしてしまう。

 そう思っていると、アリスは神像を壊す方向で動いているようであったが……今は止めて欲しかった。

 だから我輩はそう言って理由を口にすると、納得したように彼女は首を縦に振った。

 そして代わりに巨大な白い石材と宝石を幾つか用意してもらえるように頼んで彼女は部屋から出て行った。


「さて、どうしたものか…………」


 アリスが部屋から出て行きしばらくすると、我輩は椅子に身体を深く沈ませながら呟いた。

 その言葉を聞いていたメリマニが顔を青くさせつつも立ち上がると我輩へと近づき……。


「将軍、ワタシは反対です。……あのような者の意見を聞き入れるなどと」

「だが我輩たちではどうすることも出来ない……というのも事実である」

「そ、それはそうですが……」

「けれど失敗した場合、一蓮托生するかと問われれば……する気はないだろうな」


 ……そう、自信満々にアリスは口にしたが……我輩はもしも失敗してしまった場合を考えてしまっていた。

 彼女だけが悪となれば良いだろう。だが素材を提供したのがこちらだということが知られれば、こちらにも被害は及ぶはず。だからすぐには了承は出来なかった。

 本当に彼女を信じても良いのだろうか? ……正直判らない。

 だから我輩は悩んでしまっていた……。いや、それともこれは賭けと考えればいいのだろうか?

 悩みながらも我輩はメリマニへと石材と宝石の発注を頼んだ。……ただし、石材は品質高めであるのに対し、宝石は低めの品質の物を複数用意するようにして……。

 それから数時間後の深夜、アリスの下へと我輩が用意した宝石と石材を手に取り行動を開始したようだった。

 その様子を我輩は書斎の窓から覗くのだった。

 そして翌朝、街ではひとつの事件が起き……騒然となっていた。


 ●


 ――中央広場に置かれていた神像が消えて、別の像が台座の上に乗っていた。


 その話題が街中に広がると、熱心に拝んでいた街の人たちは怒りながらその像を叩き壊すために中央広場へと飛び出して行った。

 けれど、中央広場から戻ってきた者たちは皆妙に晴れやかな表情を浮かべながら、戻って行ったらしい。

 その表情の変わりっぷりに驚いた友人はそんな表情を浮かべた人物に問い掛けると、彼らは皆……『あの像こそ本当の神様の像だ』と口にしていたとのことだった。

 その言葉に不思議そうに首を傾げながらもその友人は中央広場に行くと、皆涙を流して熱心に像へと手を合わせているという奇妙な光景だった。だが、彼も像を見た瞬間に理解した。

 ああ、これこそ我らが神である……と。

 そして彼も涙を流しながら神像へと祈り始めるのだった。


「……という感じになっており、街では入れ替えた神像が受け入れられている模様です」

「そうか……」


 メリマニの報告を聞きながら、我輩は深く息を吐いて椅子に身を委ねた。

 とりあえずは……何とかなった。と考えるべきであろうか……。

 そう思いながら、何処か憑き物が落ちたように清々しい顔をしているメリマニを見ながら、我輩は少し休憩を取ることにした。

 ……あと少ししたらアリスは目が覚めてこちらに来るだろう。

 それまで体力は出来るだけ温存しておくべきだ。

 そんな我輩の様子を見ていたメリマニは微笑みながら、お茶を用意すると言って部屋から出て行った。


「……賭けは勝った。そう思えば良いのであろうか…………」


 我輩の答えが無い質問は静かに室内へと消えていくのだった……。

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