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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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入れ替え作業(後編)

「…………うーん、まったく何処にも行こうとしてくれませんね」


 下を観察し始めてから1時間が経ちましたが、一向に変化が起こりませんね……。

 いえ、変化はしてるんですよ変化は……。

 具体的に言うと、酔っ払って座っていた人はそのまま眠りの世界に落ちていったのか鼾をかきながら眠っていますし……。熱心に拝んでいる人は奇声を発し始めていますし……。

 というか、兵士さん彼らを止めるために来てくださいよ。

 そう思っているのですが来る気配が無いところを見ると、奇声を発してる人は何時ものことなんでしょうね。ナニソレ怖い。

 後は酔っ払って眠っている人がどうなったとしても自己責任、ですしね。


「けど、そろそろ動かないと埒が明きませんよね……ってことで、やりますか」


 呟きながらアタシはピョンと中央広場に向けて跳び出しました。

 瞬間、身体が地面に落下し始めたために下から風が来るのを感じましたが、すぐにアタシは空中を蹴り上げると中央広場に向けて駆け出しました。

 正直、こんな姿を誰かに見られてたりしたら恐ろしいものを見たとか言われるんでしょうねー……ああ、子供だったら妖精さんを見たとか言ってくれそうですよね。

 そんなことを考えながら、空中を駆けてアタシは中央広場内に入りましたが誰もアタシの存在に気づくことはありませんでした。


「……よし、認識阻害は聞いてるみたいですね」


 認識阻害――それはキュウビから譲渡された『化ける・化かす・欺く』を自分好みに改良した結果創り出した能力のひとつで、ここに居る筈のアタシを周りに居る人は認識出来ないという能力でした。

 正直な話、便利な能力だとは思いますが……一度使うと暫く使えなくなるということと時間制限があるという欠点がありました。

 それに、使用する前に周りに視線がある状態では発動が出来ないというのも欠点ですね。

 まあ、それによって現在アタシは中央広場を好き勝手に移動出来るわけです。


「っと、早く入れ替えましょう……けど、あの拝んでる人が厄介ですよね」

『キィィィィィィイィエエエエエエエェェエェェッェェェェェィィィィィィィッッ!! ホンニャラホンニャラホンニャッパ~~!!』

「…………え、ナニコレ。叫んでるってだけしか思っていませんでしたけど、間近で見るとこのお婆さんがかなり怖いんですけど……」


 しかも、唾を周りに撒き散らしながら目が白目を剥いてますよ……。所謂トランス状態って奴でしょうか? ……とりあえず、おやすみしてもらいましょうか。

 そう考えて、アタシは優しくほんっと~にやさし~く首筋の頚動脈辺りを絞めました。

 するとお婆さんはキュヒッと声を漏らした直後に倒れましたが、周りから見たら興奮し過ぎて失神したと思ってくれてることでしょう。……ちなみに良い子は真似しちゃいけませんよ。

 とりあえず静かになった中央広場でアタシは神像を前に立ちます。


「うーん……、改めて見れば見るほど神様かと聞かれたら、誰かを超絶美化しただけの物に見えますね」

 ――大方、この製作者の超絶可愛いマーリアちゃん(笑)が自分を称えるためにって似せすぎないようにしつつ造ったんじゃろう?

「ああ、その可能性が高いですよねー……。とりあえず、跡形も無く消し去れば良いと思いますが……入れ替えてからにしましょう――っと!」


 口に出して言ってから、アタシは目の前の像を蹴り飛ばすと呼び出した《異界》の中に放り込みました。

 《異界》へと呑み込まれていく像はまるで恨みがましくアタシを見るようにしていましたが、とりあえず無視です無視。

 そしてそのままアタシは空になった台座の上へと削り出した神像を置きました。

 ……けど、このまま置いていたら置いていたで、例の超絶可愛いマーリアちゃん(笑)が現れたときに壊せとか良いそうですよねー。


「…………絶対破壊出来ないようにしておきましょうか」


 まあ、出来るかは分かりませんが……やるだけはやっておくべきですよねー。

 そう考えながら、アタシは何とか使える《創製》と《錬金術》を使って何とか出来ないかと行動を始めました。

 ……でも、どうやりましょうか? ちょっとやそっとじゃ削れない石材に変質させるとか? それとも、中身を金属に変えて……?

 悩みますね……。


 ――いや、悩むでない。悩むでない。基本的には自分たちの信じる神の像なのじゃから大丈夫じゃろうが…………まあ、良からぬことを考える者のみに天誅を喰らわすという物を創ってみてはどうじゃ?

 良からぬ者に天誅……ですか?

 ――うむ、神の雷とかそんな感じの物じゃな。判るか?

 ああ、何となく判りましたが……とりあえず貰った宝石のあまりで創れますかねぇ。


 悩んでいた所にキュウビからのアドバイスを受けてアタシは新しい方向性を見つけることができ、行動に移すことにしました。

 とりあえず、残っている宝石の確認……ですね。

 そう思いながら皮袋を見ると、拳大の大きさが1つと所謂クズ石と呼ばれる類の大きさの宝石が数種類残っていました。

 ……これくらいなら、何とか行けます……かねぇ? まあ、一種の賭けでしょうか?

 そう考えながら、アタシは両手に宝石を握り締めると魔力を込めて……《創製》を使い、宝石をドロドロに溶かし始めました。

 ドロドロに溶けた宝石を混ぜ合わせてひとつに纏めて精錬すると、先程作った2つの宝珠よりも小さな宝石が出来上がり……空に浮かぶ月に翳すと白赤青黄と様々な色を反射するようにして輝かせていました。


「これなら、色々と込めることが出来そうですね……」


 心の中でほくそ笑みながら、アタシは出来上がった宝石に付与する能力を込め……力が込められた宝石を神像のローブの結び目の飾りといった感じに取り付けました。

 ちなみに外れないように加工はしています。

 出来上がったそれに満足しながら、アタシはそろそろ認識阻害の時間が終わることに気づき……急いでその場から離れました。

 なお、お婆さんは暫くしたら起こされましたので、大丈夫みたいですね。


 ●


「さてと……とりあえず、始末しておきますか」


 あの後、街から大分距離を取った場所まで移動したアタシは《異界》から神を偽った像を放り出すと大扇型のワンダーランドを構えました。

 一方、放り出された像は忌々しそうにアタシを見ているように見えますが……、きっと想いが込められ過ぎた物には魂が宿る的な感じに魂が宿りかけていたんでしょうね。

 まあ、宿ったとしても醜悪な魂でしょうが。

 そう結論付けるとアタシは、自分とワンダーランドに魔力を循環させて余分な物を飛ばして行き……何度もの循環で純粋な魔力となった物をへと『火』と『風』と『聖』の属性を与えて一気に解き放ちました。


「聖なる炎よ、燃え盛れ! 《聖炎の檻》!!」


 唱えた魔法と共に、像の周囲に聖なる炎と風で造られた檻が上がり……像は燃やされ始めました。

 轟々と燃やされ、灰になっていく像を見ながら……遠くから太陽が昇るのをアタシは見ていました。


 ……とりあえず、帰ったら一度少し眠らせてもらいましょう。

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