素材を手に
結構は夜中……というわけで、その時刻までアタシは一度仮眠をとることにしました。
カラアゲさんの屋敷の中に宛がわれた一室に入ると、脇目も振らずにアタシはベッドに飛び込みます。
すると、身体は疲れてるわけではないのですが……これから行おうとしている行動を察してくれているのか、英気を養うべく一気に夢の中へと落ちて行きました。
――トントン。
そんな風に軽く部屋の扉がノックされた音でアタシの意識は浮上しました。
眠り続けていたからか身体が軋みを上げますが、体力のほうは眠っていたからか有り余っているような気がします。
そんな風に思っていると、再び扉がノックされたのでアタシは起きていることを知らせるために声を掛けようとしましたが、それよりも先に外のほうから声が聞こえました。。
『おい、起きているのか? 将軍が頼まれていた物を用意したのだが?』
「おはようございます。良く眠れましたよ。それと準備ありがとうございます」
『起きたか。とりあえず、中で話そうと思うが……構わないか?』
「ええ、構いま――いえ、少し待ってください」
外から聞こえてくる声……多分、書斎に居たカラアゲさんの補佐でしょうね。
そう思いながら、呆れ混じりの声を聞きつつアタシは入室しても良いと言おうとしましたが、少し待ってもらいすぐに外套を頭からズッポリと被りました。
それを終えてから、入室しても良いことを告げると気難しそうな表情をしながら補佐の女性が部屋へと入ってきました。
うーん、そんな表情をしていたら折角の美人が台無しだと思いますよ?
そんな風に思いつつ、補佐さんを見ていると皮袋を1つ差し出してきました。
なんだろうと首を傾げていると……。
「あなたが将軍に頼んだ宝石です。石材のほうは庭のほうに置いてありますが、宝石のほうは呼びに行くついでに渡すようにとの将軍からのお達しでしたので……」
「えっと、お手数お掛けします……」
申し訳なさそうにアタシは皮袋を受け取ると、確認のために一度袋の口を開いて宝石を取り出しても良いかと訊ねました。
ちなみに断られるか……と思っていましたが、許可があっさりと出て不思議に思いながら宝石を取り出して《鑑定》するとその理由が判明しました。
「……これって…………」
「急に言われたので用意するにも時間がありませんでした。ですので、質は悪いのは我慢してください。その分大きさはありますので」
……そう、今アタシが手に持っている宝石は、拳大ほどの大きさはあるのですが……輝きは濁っていて、決して質が良い物では無いというのが判る代物でした。
それでも用意したということに感謝をするべきでしょうか……、それとも何か裏が…………。
深く考えすぎかと思いつつも、悩んでいると補佐さんは言葉を続けました。
「将軍もこんな品質の宝石ですまないと言っていましたが、不可能を可能にすると信じた瞳をしていました。だからでしょうね、石材のほうは最高級品を用意していましたよ」
「そう……ですか。だったら、気合を入れてやらないといけませんね」
「そうしていただかないと、こちらも困りますのでよろしくお願いします。では、石が置かれた場所まで案内しますので、着いて来てください」
アタシの言葉に補佐さんがそう返事をすると、移動を開始し始めたのでアタシは後を追いかけ始めました。
……ちなみに貰った宝石のほうは少しでも品質を良くするために、手に握り締めると《錬金術》を使って質量と面積は減る代わりに石内の不純物を取り除くための行動を開始し始めました。
ああ、光がピカーッと輝くとかそんなことはないですよ? ああいうのはただの演出なんですから。
「着きました。石はこれですが……大丈夫ですね?」
拳大だった宝石が父指と母指で摘めるほどの10センチ未満のサイズにいくつか練成し終えた頃、補佐さんの案内で石材が置かれた場所へと辿り着きました。
その石材は、高品質なのか暗がりであるにも拘らず白い色が目立つようになっており、まるで薄ぼんやりと光る光の柱のようにも見えました。
「これは……凄いですね」
「はい、先程も言いましたように将軍が宝石は良い物を揃えることが出来なかったからその代わりに……だそうですよ」
「なるほど……。カラアゲ将軍には感謝します。なので、良い仕事をさせてもらいます」
置かれた白い石材へと近づくとアタシは心の中でキュウビに語りかけます。
キュウビ、ちょっと良いですか?
――なんじゃ、一体? 面倒ごとに更に面倒ごとを重ねる気かえ?
まあ、そうですが…………。とりあえず、それは置いておいて……。アナタは魔族の神の外見を知ってたりしますか?
――魔族の神……じゃと? まあ、知っておるといえば、知っておる……と言った感じじゃろうか。
………………。
――し、仕方ないじゃろう! なにせ、魔族の神なぞ最後に見たのは数百年前のことじゃから、わしは小狐のときじゃったんじゃ!!
まあ、仕方ない……ですよね。けど、どうにかしてこれが魔族の神って印象付けるような物にしておいたほうが良いんですよね。
――仕方ない。ここは、上に聞いてみるのが一番じゃろう。
上? 一瞬首を傾げたくなりましたが、すぐに思い当たることがあったので、アタシは何も言わずに立ちます。
その様子を後ろで補佐さんは見ており、一体どうしたのか訝しんでいますが……アタシもただ待つしか出来ません。
ですが、少し経ってから……アタシの脳裏に閃くもの――いえ、お告げというか《天啓》的な感じにある男性の姿が浮かびました。
「ワンダーランドッ!!」
その直後、アタシはその閃いたものを本能に逆らうこと無く、呼び出した浮遊剣の姿をしたワンダーランドを目の前の石材に向けて放ちました。
ガリガリと庭の周囲に一瞬だけ激しい音が広がりましたが、すぐに音は止み……しばらくすると長方形の形をしていた石材に亀裂が走り、ローブを着た男性の像へと早変わりしました。
流れるような髪を腰下まで伸ばし、その先だけを縛ったような髪型。
穏やかな顔つきながら、自愛に満ちている優しそうな表情。
そして、額からは魔族の代表的な特徴である角が一本生えている。そんな男性の像へと変化しました。
そんな出来上がった像を見ながら、アタシは静かに頷きます。
……というか、これが魔族の神……なんですね。
――そうみたいじゃな。わしも覚えておらんかったが、獣人の神様が覚えておったのじゃ。じゃから助かったわい。
そう、ですね……。さてと、後はこれをあの像と入れ替えないといけませんね。
――それはそうなんじゃが……、所で後ろの女子は大丈夫なのか?
え?
キュウビの言葉で振り返ると、補佐さんがボロボロと涙を流して跪いている姿が見えました。
え、えっと……一体これは…………?
困惑しながら、アタシは首を傾げるばかりでした。