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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
345/496

書斎にて

 昨夜、アリスがカラアゲ将軍と共に情報のやり取りを行っていた書斎では、カラアゲ将軍が事後処理として書類を書き込んでいた。

 そんな中、部屋の扉がノックされ……彼の補佐を行う女騎士が姿を現した。

 彼女はカラアゲ将軍に軽く頭を下げてから、部屋の中へと入り……抱えていた書類を彼の執務机へと置いた。


「将軍、被害状況の紙はこちらに置いておきます」

「分かった。……今回は無事に戦いが終わったというのに貴公にも事後処理を手伝わせて、すまないな」

「そう言わないでください。今回ばかりは街も人も目立った被害というものが無いのですから……これぐらいは手伝わせてください」

「そうか……助かる。だが、本当にどうしたものだろうか。今回はあの旅人たちが戦いに参加してくれたから上手くいってくれたが……次も彼らが居るとは限らない」


 そう言うと、カラアゲ将軍は顔色を暗く沈ませ……、同じ様に女騎士も釣られて暗い表情を浮かべた。

 一体何時から始まって何時終わるのか分からない戦い……。いや、終わりはあるだろう、それも街が崩壊して自分たちがモンスターの餌食となるという最悪な結末が……。

 しかし浮かんだ想像を振り切るべく、カラアゲ将軍は頭を軽く振ると眉間を揉み解し始めた。


「……いかんな。少々書類と向き合い続けていたからか最悪な想像をしていたみたいだな」

「いえ、気にしないでください。誰だってそうなると思います……」

「そう言って貰えると助かる……。さて、少し休憩でも――」


 そう言って立ち上がろうとしたカラアゲ将軍だったが、扉が再び叩かれたことでその動きを止めた。

 対して、女騎士のほうは扉の向こうへと警戒を示した。

 何故なら今現在カラアゲ将軍はこの作業するために此処には誰も近づかないようにと家例の者たちには言い含めているからだ。

 唯一の例外として補佐役の者たちの入室は許可されてはいたが……。

 だが、そのことを知らず平然と部屋の扉をノックするという人物にカラアゲ将軍は思い当たる人物が居たので、警戒を解くと椅子に座り直した。

 カラアゲ将軍の反応に女騎士は戸惑いつつもそちらを見た。

 直後、もう一度扉がノックされた。


「将軍……?」

「構わぬ、入ってくれ」

「失礼します……っと、一人じゃなかったんですね」


 カラアゲ将軍の言葉が外にも聞こえたらしく、ノブが回され……扉が開けられると外套を頭からすっぽり被った人物が中へと入ってきた。

 顔も見せずに入ってくる存在に普通だったらいぶかしむだろうが、女騎士も目の前の人物に見覚えがあったらしく何も言えずにいた。

 何故なら、その人物とは……昨日のモンスターの襲来で空を飛ぶモンスターを一網打尽にした存在だったのだから……。


 ●


 部屋の中に入ると、初めに執務机の上に置かれた大量の書類が目に留まり驚きつつ、次にこちらを驚愕と困惑の視線で見つめる女性が立っており、最後に書類の間から顔を出すカラアゲさんに視線を移しました。

 何というか、大変そうですね。そんな風に思っているとハッとした女性が興奮しながらこちらに視線を向けて怒鳴りつけてきました。


「き、貴様! 何故この部屋に入ってきた!? それに、冒険者に対する報酬のほうはまだ決まっていない! だからすぐに退室しろ!!」

「いえ、そういうわけでは無くてですね。えっと……」


 怒鳴る女性を半ば無視しながら、アタシはカラアゲさんに視線を送ると……。


「貴公の話は、我輩がひとりでないといけない話。と考えれば良いだろうか?」

「しょ、将軍ッ!?」

「結論から言えばそうですがー……、けどあなたがこの女性を信頼しているなら構いませんよ? ただし、今から話す言葉は色々と信じられないと思いますけど……ね」

「ふむ……、出来るだけ外に漏らさないようにしたい。そう言うことで良いか?」

「はい。それで……、どうしますか?」


 カラアゲさんの言葉に驚く女性と、アタシの言葉を吟味し始めるカラアゲさんを見ながらアタシは待ちます。

 そして少しして、カラアゲさんの中で結論が出たらしくアタシを見ました。


「彼女も一緒に話を聞かせよう。この者は我輩が信頼を置く人物であり、ちょっとのことでは馬鹿な真似はしないと信じている。貴公もそれで良いだろうか?」

「将軍……。はい、将軍を裏切るような真似はしません!」

「そうですか。では、結論から言わせて貰いますと……四天王のマーリアが寄贈して設置した神像をアタシの手で撤去させてもらえないでしょうか? 正確に言うと叩き壊させてもらっても良いでしょうか?」

「なっ!? き、貴様! 我らの神を砕くというのか!? 貴様は何を言ってるのか分かって言ってるのかッ!?」


 アタシがきっぱりとそう言うと、案の定女性のほうはアタシを睨みつけながら怒鳴ってきました。

 まあ、いきなり信仰している像を壊すなんて言われたらキレますよね。

 そんな風に思いながら女性を見ていると、今にも跳びかかろうとする女性に制止の声が掛かりました。


「待て、簡単に苛立って手を出そうとするでない。……理由を聞かせてもらおうか」

「理由ですか……、実は…………」


 そう言って、アタシは隠す気は無い《鑑定》で得た情報を2人に向けて喋り始めました。

 すると、話を聞いて行くに連れて女性のほうは顔を蒼ざめさせ……、カラアゲさんのほうはまるで合点がいったという風に溜息を吐いていました。

 そしてすべて話し終えると、ガクリと女性のほうは膝を突いていました。


「そ、そんな……、マーリア様はあんな四天王の中で唯一まともなかたであると思っていたのに…………」

「……だが、これで合点がいった。考えてみれば、このモンスターが定期的に襲ってくるのはあのかたがこの街に神像を寄贈してから暫くしてからだったはずだ……」

「もしかすると、同じ様な街か村でもあったりするのではないでしょうか? 例えば……」


 そう言いながら、アタシはこういうことをする人物がやりそうな行動を想像して口にしてみました。


「急にモンスターが襲って壊滅状態になった街に、慰問としてその女が訪れて……傷付いた者たちを労わり、自分たちが護ってみせましょう。とか言って民衆の心を虜にしていく……とか」

「……た、確かに少し離れた街でマーリア様は突如モンスターに襲われた者たちを労わったという話は有名だが……」

「……本当にやってたんですか」


 予想通り過ぎる言葉にアタシは絶句しながらそう呟きます。

 というか、此処まで清々しいとある意味会ってみたいと思いすが、関わりたくは無いですね……。

 でも、これからしようと考えていることをしたら、目を付けられるんですよねーきっと……。


「貴公は先程、神像を破壊すると言っていたが……壊す以外に方法は無いだろうか?」

「というと?」

「正直な話、現在度重なるモンスターの襲撃で兵士のみならず住民たちも恐怖を抱えてる。だから、彼らは神に祈りを捧げるのだ」

「ああ、拠り所的なもの……ですか。ですが、拠り所として祈っている物が逆にモンスターを引き寄せることとなるなんて……因果なものですね」


 アタシがそう言うと、彼らは表情を暗くさせますが……とりあえずどうしましょうか。

 まあ、とりあえずは……ですね。


「今の段階ではどうなるかは分かりません。ですが、考えておきます……あと、でかくて白い石材と宝石ががあったら貰えませんか?」

「用意しておこう……」


 言うだけ言うと、アタシは部屋から出て行きました。

 とりあえず……決行は夜中、ですね。

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