知らぬ間に自分の首を絞める行為
カラアゲさんの館から出ると、アタシは一度街の中央に位置する広場に向けて移動を開始しました。
ちなみに監視は…………無いようですね。まあ、監視してても別に構いませんけど。
そんなことを考えながら、道沿いに露店を開く大通りを歩き中央広場に辿り着くと件の魔族の神の像と言われている物が見えました。
台座を合わせると、全長は5メートルほど……でしょうか? ちなみに台座を取ると3メートルほどですね。
そして、像の出来栄えは……邪神、ではありませんね。まあ、邪神像なんて作ったらノッペリ顔とかになってて色々と怒られるでしょうね。
っと、それは横に放り投げておいて……神様の像ですが、材質は白い石を使っているのでしょうね。プロポーションは綺麗に整えられていて……黄金比っていうものでしょうか? そして流れるような髪が印象的という力を込めて創った感がバッチリと見えますね。
それに、両目になんて色ガラスでも使っているのか綺麗な色を…………え?
このとき、偶然でしたが《鑑定・極》を発動していたためにアタシの目に神像の目に使われている物の詳細が明らかとなりました。
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名称:集祈瘴珠
効果:祈り収集、瘴気変換
説明:街の住人の祈りを糧にして瘴気を生み出す珠。
カウント:1000/100000
製作者:超絶可愛いマーリアちゃん☆
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名称:招魔宝珠
効果:魔物誘導
説明:集祈瘴珠に溜められた瘴気を使って、魔物が好きな波長を放つことで大量の魔物をこれがある場所に呼び寄せる。基本的には敵拠点に置くことで敵対する者たちを疲弊させるために存在する。
現在は、2週間に一度魔物を呼び出す設定となっている。
製作者:超絶可愛いマーリアちゃん☆
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見えた詳細に、アタシは頬を引き攣らせました。
しかも周りではここに来たら一日に一度拝まないとと思っている人が居るらしく、集祈瘴珠のカウントが拝まれる度に増えていくのが見えています。
な、何ですかこれは……?! どう考えても悪意の塊としか思えませんよ!?
だって、この珠が埋め込まれているのは自国の神様ですから、祈るのは当たり前の行為。つまりはこれを置いたマーリアという四天王は自分の手を汚さない上に、街の住人たちに自分たちの街を潰させようとしているということじゃないですか!
しかも街の人たちは知るよしも無い……。
「……これは、少しカラアゲさんと相談して見るべき……ですね」
好意的に置いていった物を壊すことも出来ないでしょうし、撤去したらしたでこの街の統治をしている人が住民から文句を言われるでしょうし……知っててやっているのでしたら、嫌味この上ないと思いますよ。
心からそうウンザリしながら、アタシはすぐさまその場を離れました。
そして、そんなあたしの姿や街の住人たちを神像はただ静かに見守るだけでした。
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一方その頃、アリスが滞在している街から遠く離れた場所では鼻歌を歌いながら、ひとりの少女がカツカツと石畳を軽快に鳴らしながら暗い廊下を歩いていた。
ピンク色のフワフワとした髪、毎日が楽しいといった感情を顔いっぱいに表現する愛らしい子供のような顔立ち、アメジストのように宝石みたいな紫色の瞳を持つクリクリとまん丸な目、150センチ程の身長に大層なものを持った少女だった。
そんな少女が楽しそうに髪を揺らし、更には背中に生えたコウモリのような羽とフワフワとした服のスカートの間から覗く尻尾も楽しそうに揺らしながら歩いていた。
そして、廊下の先では近づいてくる少女に対して、門番をしていた魔族の兵士が目の前の人物を睨みつけるが……少女は何処吹く風とでも言うように、鼻歌交じりに兵士に問い掛けた。
「ふふふふ~ん♪ さぁ~って、まおーさまに会いたいんだけど通してくれるぅ~?」
「……申し訳ありませんが、魔王様は何方ともお会いになることはありません。というよりも、貴方様がたのほうが会えない理由を知っているのでは……?」
「あ、そぉ~だったわねぇ~。まおーさまは、誰とも会えないんだったぁ~☆ そ・れ・とぉ、口の聞き方には気をつけろよ?」
ケラケラと笑っていた少女だったが、一瞬で殺気を漲らせながら兵士を睨みつけた。
けれど兵士は扉を護ったまま動こうとはしなかった。強烈な殺気を浴びせられたにも拘らず、気絶もせずに……だ。
「は~ぁ、詰まんないの~ぉ。それじゃあ、また来るから今度はまおーさまに会えるようにお願いねぇ~☆」
そんな兵士の反応を詰まらなさそうに見てから、少女はクルリとその場で回ると元来た道を戻り始めた。
けれど暫く歩くと……その場で足を止めて柱を見た。
「ね~、そこでこそこそ隠れて何してるのかなぁ~。アーくん?」
「ケケッ、バレバレかよぉ。流石だなぁ……マーリアは」
「もっちろん分かっちゃうよ~。そんなへったくそな隠れかたなんてさぁ~♪ しかし、ぼっろぼろだねぇ~アーくんは!」
柱の影から姿を現した男……アークは腕や脚を包帯で巻かれて痛々しい有様となっており、それを見ながら少女……マーリアは楽しそうにケタケタと笑っていた。
そんな彼女の反応にアークは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、舌打ちをしたくなるのを堪えて……溜息を吐いた。
「しかたねぇだろ。何せ、アイツがここまでしか回復してくれなかったんだからよぉ……」
「じゃあ、しかたないねぇ~♪ でもさぁ、本当に信じられないなぁ~だって姑息な戦いかただったら誰も勝てないと言われるアーくんがここまでボッコボコにされるなんてさぁ」
「くそっ! 好き勝手言いやがるなぁ、テメェは……。ま、結局あのアマは俺が狂わせた世界樹ゴーレムに叩き潰されただろうがなぁ……ククッ」
「……あ~、アーくんって今まで倒れてたから知らないんだよねぇ~?」
グチャグチャに潰されたアリスを考えながら笑みを浮かべるアークだったが、そんな彼をマーリアは残念なものを見るように見つめていた。
どうやら、アークは今の今までベッド生活をしていたようだった。
そして、マーリアのその一言にピクリと身体を止め……彼女に視線を合わせた。
「お、おい、まさか……」
「そのまさかだよぉ~☆ で、今現在、アーくんボッコボコにしたゆうしゃはこの国に入ったってさぁ~♪」
「…………まじ、かよ。……いや、これはチャンスだ。今度こそ俺の手であのアマを叩き潰せるチャンスなんだ……!」
「おーい、アーくーん? アーくーん? ……駄目だ、聞こえていないやぁ。ま、別にいっか~♪ さてと、こっちもそろそろ目障りなチキン将軍の街が壊滅している頃だろうし、一度見に行こうかなぁ~☆」
ぶつぶつと呟くアークを無視して、マーリアは楽しそうにそう言うとその場から離れて行った。
そして、それから暫くして彼女は出かける仕度を整えると……チキン将軍の統治する街に向けて旅立つことにした。
きっと彼女が到着した頃には街が壊滅しているか良くて死に体な兵士ばかりだろう。そう考えながらワクワクして広げた羽を羽ばたかせるのだった。