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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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宴のあと

 翌朝、目が覚めると……アタシは柔らかなベッドから起き上がってから伸びをして、身体を解しました。

 眠っていたベッドは結構上質なものだったらしく、気持ち良く眠れました。

 そういえば、アタシは昨日は途中で抜け出していましたが……ホールのほうはどうなっているのでしょうか?

 首を傾げながらそう思いつつ、アタシは明赤夢を展開してから外套を羽織ると部屋から出て、1階のホールへと向かいました。

 ホールへの扉を開けると、ムワッとしたアルコール臭が鼻を突きました。――って、かなり酒臭いですよこれ!


「と、とりあえず……中の空気を飛ばさないと……《微風》」


 ホールのほうでは一晩中宴会を続けていたらしく、酒の入った容器が散乱しており兵士たちが床に倒れて気持ち良さそうに眠っているのが見えました。

 正直な話、こんな部屋に居ると酒を飲んでいないのに酔っ払ってしまいそうだったので、素早く魔力を循環させてから『風』の属性を与えて解き放つと……爽やかな風が室内の空気を纏め上げて、開け放たれている窓から臭いを飛ばして行きました。

 それに満足しながら、アタシは漸くホールの中に入ると兵士たちに混じってダブルさんとパスタさんが気持ち良さそうに眠って居るのが見えました。

 ちなみにダブルさんはテーブルをベッド代わりにして腕をだらーんと垂れさせながら眠っており、パスタさんは一升瓶のような酒の容器を抱き抱えながら白目で眠っていました。……うん、正直怖いです。

 そんな感じに彼らの様子を見ていると、段々と起き上がる人が増え始めたらしく大きく伸びをする姿が見えました。


「あ~~……よっくねたー……!」

「いやー、飲んだ飲んだ!」

「うっぷ……気持ち悪い…………」

「おいおい、吐くなよ? 吐いたら、こっちも貰っちまいそうだからな!」

「大丈夫、はかな――うおぅぅぅぇ!!」


 ……ある種の地獄絵図になりかけていますね。

 そう思いながら見ていると、厨房に続く扉が開けられました。

 扉からは大鍋をカートに乗せたメイドたちがやってきて、いったい何が起きるのかと首を傾げていると大鍋の蓋が開かれました。

 すると、大鍋から独特の香りが部屋中に漂い……そのにおいを目覚ましとでも言うかのように兵士たちが起き上がってくるのが見えます。


「はーい、皆さん。起きてくださーい、朝ごはんですよー!」

「めし……」

「ごはん…………」

「腹へったー……」


 まだ半覚醒なのか、ぼんやりとしながら兵士たちが口々に呟きながらもフラフラと歩いていくのが見え……そんな彼らへとメイドたちは大鍋の中身を器に注いで差し出して行きます。

 アタシも……並んだほうが良いですよね。そう思いながら列に並ぶと、偶然にもボルさんとライさんの2人も並ぶところでした。

 あれ? でも、昨日の宴に2人は居ましたっけ? まあ、挨拶をしておきましょうか。


「おはようございます。お2人とも昨日は楽しめましたか?」

「……おはよう。ああ、暫くぶりにまともな食事にありつかせてもらった」

「そ、そうですか……っと、あの、アタシのほうは2、3日は滞在しようと思っているので、良かったら一度話をしませんか?」


 色々と訊ねたいこともありますし……ね。

 最後の言葉は心の中で告げると、2人は相談しているのか仮面越しに互いの顔を見合わせ……少ししてからこちらをボルさんが見て、


「考えておこう」


 そう言ってから、2人の中では話が終わったらしく話しかけようとしても反応がありませんでした。

 仕方ないので、黙っていることにしていると向こうのほうで「フガッ!?」という声が聞こえたので見てみると、ダブルさんが目覚めたようです。

 更にはその素っ頓狂な声を聞いたからかパスタさんもビクリと跳ね起きていました。よかった、白目じゃなくなりました。

 心の中で安堵していると、漸くアタシもメイドさんたちの大鍋のほうまで辿り着き、器を受け取り大鍋の中身が注がれるのを見ていました。


「これは……パン粥?」


 呟きつつ、受け取った器とスプーンを手にしてから椅子に座り、アタシは改めて器の中身を見ました。

 野菜を数種類刻んで、あっさりとした印象のスープの中に、灰色のパンがどろりとしている状態で浮いているのが見えます。

 初めて見ますが、何だか凄い色をしていますね……。美味しいのでしょうか?

 首を傾げつつアタシは周りを見ましたが、兵士の皆さんは美味しそうにバクバクと食べているのが見えました。あ、しかも食べ終わった兵士は素早く立ち上がって出て行っていますね。

 つまり、これって酔い覚ましと酒で痛んだ胃に優しい食べ物ってことでしょうか?

 そう思いつつ、意を決してアタシもパン粥を食べてみることにしました。


「…………あ、あっさりですけど、ちゃんと出汁が取れているのか美味しい」


 見た目は何となく食欲を失わせるような見た目ですが、口に含んでみるとあっさりとした塩とじっくりと骨で出汁をとったであろう濃厚な旨味が口いっぱいに広がってきました。

 そして塩味だけではなく、パンに付いている薄っすらとした酸味が口の中に広がり、程好い酸味が食欲を促進します。

 スープを吸って煮込まれたパンの独特なクニャベチャとした食感、それとキャベなどの野菜のシャクシャクザクザクとした食感を楽しみながら食べ進んでいくとすぐに食べ終わりました。

 満足していると、街の何処かから鐘が鳴り響き……それと同時に食事をしている兵士やメイドさんたちが手を合わせて祈る仕草をし始めました。

 一体なんでしょうか? そう思いながら、彼らを見てると何時の間にか同じテーブルにダブルさんとパスタさんも居り、不思議そうに首を傾げていました。


「えっと、何でしょうかこれは?」

「ああ、何時見ても変だよな。何でも、毎朝鐘が鳴ったら街の住人全員で街の真ん中にある神様の像に祈りを捧げるんだとよ」

「神様の像に祈り、ですか? 大分大きな像なんですね」

「ええ、何でも暫く前に新四天王の1人であらせられるマーリア様が置いたらしいわ。……あー、胃が癒されますわ~……」


 ダブルさんとパスタさんの2人から話を聞いてから、アタシは静かに黙りながら考えることにしました。

 ……四天王の一人が置いていったという神様の像。……一度、カラアゲさんに話を聞いてみるべきでしょうか。いえ、その前に像を見るだけ見てきましょう。

 そう考えていると、再び鐘が鳴り響き……兵士やメイドたちは祈りを捧げるのを止めて、通常の業務へと戻っていきました。

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