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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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戦勝の宴

「諸君、今回も良く生きて帰って来てくれた! 怪我をした者も居るが、ここまで無事な戦いは初めてのことだ! なので、我輩から諸君らにささやかながらパーティーを開かせてもらうことにした。思う存分堪能してくれ!!」

『『うおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!』』


 カラアゲさんが酒の入ったグラスを掲げると、それを待ってましたとでも言うように兵士たちは歓声を上げました。

 アタシは普通のジュースが入ったカップを手にして、隅のほうでそれを眺めていました。

 ……あの後、戦いが終わりを告げるように勝ち鬨の声が周囲から聞こえ、全員が街の中へと戻り……暫く休憩をしていましたが、伝令役の兵士が兵士たちの前へとやってくると戦勝祝いの催しを開くとカラアゲさんが告げていたようです。

 その言葉に、疲れているであろう兵士たちでしたがそれ以上に騒ぎたいと思っているのか喜びの声を上げていました。

 それから暫くして、兵士たちとアタシたちは街の一番大きな屋敷……多分、ゲストハウスかカラアゲさんの家でしょう。とりあえず、そこに入って暫くすると全員がホールへと案内されてカラアゲさんの音頭を合図に宴は始まりました。

 というか、凄いくらいに飲めや歌えやと言った感じですが、いい感じにガス抜きがされている証拠ですよね。

 そう思いながら、宴の様子を見ていると……ダブルさんがこちらに近づいてくるのが見えました。


「よお、飲んでいるか?」

「ええ、チビチビとですがしっかりと飲んでいますよ」

「餓鬼じゃねえんだから、チビチビと飲まずガバッと飲めって……って、酒じゃなくて果実水か」


 4本の腕にでかめのジョッキを持ちながら近づいてきたダブルさんにアタシはそう答えながら、カップを見せますが……どうやら彼は酒を飲んでいるものと思っていたみたいですね。

 ちなみにアタシは未だ外套を脱いでいませんので、結構謎な人物といった感じになってたりしているみたいです。

 っと、無理矢理注がれたらアタシの中のキュウビが嫌な意味で目覚めそうなので、飲ませないように一声かけておきましょうか。


「餓鬼ですよ? 何せまだ17歳なので」

「じゅ、じゅうななぁぁっ!? そ、それであの強さはいったい何なんだっ!?」


 アタシが年齢を言うと、声だけで女性だろうと考えていたと思しきダブルさんは驚いた様子でアタシを見ました。

 うーん、いったいなにに驚いているのでしょうね? ……ああ、普通アレだけの強さは十代で持っているだけが無いって行くぐらいですか。

 とりあえず、誤魔化すというか……別のほうに誘導させてもらいましょう。


「え? 普通ですよ? それに、ボルさんとライさんの2人だって凄く強かったじゃないですか。勿論、ダブルさんもですよ?」

「う、あー…………、そこは喜んで良いのかお世辞と考えれば良いのか分からないところだな。まあ、この国は広いってことだな」

「そう言うことにしておいてください」

「分かった。そういう風にしておく。それじゃあまた会おう」


 そう言って、軽く挨拶をしてダブルさんは再び酒の席へと戻っていきましたが、今度はパスタさんがズカズカとこちらに近づいてくるのが見えました。

 しかも何だか大きな一つ目から刺さる視線はかなり挑発的な感じです。

 そう思っていると、パスタさんはアタシに近づくとビシリと指を指してきました。……行儀が悪いですね。


「アナタ! 確かソバとか言いましたわね!? いくら若い上に、戦いで異常なことをしたからといって調子に乗らないでくださいな!!」

「え? い、いえ、調子になんて乗っていませんよ?」

「そうなの? けど、いくら強い武器を持っているからといって、わたくしの魔法には勝てませんよ!!」

「は、はあ……」

「言いたいことはそれだけですわ! では……!!」


 自分が言いたいことをさっさときっぱり言って、パスタさんは再び向こうへと歩いていきました。

 暫く彼女を見ていると、更に大量の食べ物を載せてバクバクと食べ始めているのが見えましたが……お嬢様じゃないのでしょうか?

 はたまた没落貴族とか? フェニだったら何か知っているかも知れませんが……まあ、今度あったときに覚えているかは分かりませんね。

 そう思っていると、今度はカラアゲさんが気配を殺しながら近づいてくるのに気づきました。

 本人は姿を隠している……いえ、周りも気づいていないのですから気配を殺すことは出来ているのでしょうが……狐の獣人だからなのかそういう気配を読む力もかなり強いみたいなんですよね。


「何か……御用でしょうか?」

「……気づいていたか。ならば、少し我輩と話をしてもらえないだろうか?」

「構いませんよ。それに……情報が欲しかったので」

「そうか、では我輩の書斎までついて来てくれ」


 カラアゲさんの言葉にアタシは頷くと、静かにホールを抜けて移動を開始しました。

 というかここは、やっぱりカラアゲさんの屋敷だったようですね。

 納得しながら、2階に上がり……少し歩いた2階に入ると普通に書斎でした。

 書斎を見渡していると、カラアゲさんは執務机の椅子に座りこちらを見ました。


「ここなら誰も来ないだろうから、外套は脱いでも構わないし寛いでくれても構わない」

「……ビーフ将軍から話は?」

「聞いている。貴公の正体もな……ああ、ちなみに伝達方法は我輩が送った伝書鳥の返信に手紙を入れていたのだ」

「そうですか。……なら、脱がせてもらいます」


 そう言うと、アタシは暫くぶりに纏っていた外套を外してソファーに座らせて貰いました。

 ずっと外套を纏っていましたけど、外せるときっていうのがあまり無いから仕方ないですよね。

 そう思いながら、身体をウンと伸ばしてからリラックスをして、改めてカラアゲさんを見ました。


「安心できたようで何よりだ。……改めて礼を言わせてもらう。街を救ってくれて助かった」

「いえ、気にしないでください。ですが、また暫くしたらモンスターの大群は来る可能性が高いのですよね?」

「ああ、そうだろうな。……原因を何とかしないといけないのは分かってはいるのだが、我輩たちの目にはどれが原因なのかは判らないというのが現状だ」

「…………もう2,3日は滞在する予定なので、一応こちらでも原因を探してみます」

「……すまない、助かる。さて、貴公は何を聞きたいのだ? 答えられる範囲のものならば答えてみせよう」

「助かります。では……」


 そう言うと、アタシは知りたいと思った情報を仕入れるべく、カラアゲさんと話をし始めました。

 そのお陰で色々と知りたいことを知ることが出来ましたが、魔王の居場所は語ろうとはしてくれませんでした……残念。

 まあ、そんなこんなでアタシは色々と満足することが出来ました。

 そして、夜が更けて……外が静かになり始めた頃、アタシは宿に帰ろうとしましたが……カラアゲさんの計らいで、屋敷に泊まることとなりました。


 ……とりあえず、明日はモンスターが来る原因が何かを探してみることにしましょう。

 そう思いながら、アタシは用意された部屋のベッドに寝転がると……そのまま夢の中へと沈んで行きました。

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