周囲の観察
「これで最後ですッ!」
そう言って、アタシはワンダーランドに指示を出すと最後の1匹となった龍もどきに向けて、無数の剣が放たれました。
放たれた剣に恐怖し、それでも迎撃しようとしているのか龍もどきはブレスを前方から近づいてくる剣に向けて放ちました。
けれど、剣は龍もどきのブレスを切り裂きながら徐々に近づき始めていき、龍もどきはブレスが切れた瞬間――クルリと方向を変えて逃げ出しました。
しかしその判断は遅く、龍もどきの背後から無数の剣は接近し……、雨霰のように龍もどきの身体を貫いていきました。
一瞬何か叫ぼうとしていましたが、叫ぶよりも先に龍もどきの頭は穿たれ、バラバラになった残骸が地面に落ちるだけとなりました。
「空はこれで大丈夫ですが、地上のほうは……」
ワンダーランドが飛び交う空から地面に視線を向けると、ダブルさんが蟷螂型のモンスターを相手に戦いを繰り広げているのが見えます。
左右の腕に持つ剣で蟷螂の鎌を防ぎながら、残った腕に持つ剣で腹を切り裂いていますが……スクナ族という複数の腕を持つ彼だから出来る芸当ですね。
一方で、何度も飛び掛ってくるオークに苛立ちを感じたのかパスタさんは風の刃で一気にオークの胴体を切り落としていました……あ、アタシを見た? もしかして、アタシに対抗心を燃やした結果だったりするのでしょうか?
……ボルとライの2人は? 辺りを見渡すと……いました。
彼らはいったいどんな戦いかたをするのでしょうか?
そう思いながら、アタシは彼らの戦いを見始めることにしました。
ボルさんは何処に持っていたのか分からないけれど漆黒に赤い線が入った巨大な戦斧を片手に数匹のオーガと対峙しており、ライさんはボルさんと同じような漆黒に赤い線の入ったブレイドを手に……真っ赤な鱗を持ったアリゲード3匹に囲まれていました。
「……やっぱり、アレは…………」
確信を持ちながらアタシは呟きながら、ボルとライの戦いを見始めます。
2人に向かって、オーガとレッドアリゲード(仮称)は襲い掛かっていきましたが、ボルとライの2人はその場から微動だにしません。
……無事だろうと思いますが、すぐにでも動けるようにしておきましょうか…………。
そう考えて、すぐにでも魔法を放てるように準備をしながら見ていると、ボルが動き出しました。
「うおおおぉぉぉぉぉーーーーッッ!!」
『GUOOOOOOO!!? GAA――?!』
自身の周囲の空気を振るわせるほどの雄叫びを上げ、ボルは漆黒の戦斧を構えると力を込めて一気に薙ぎ払った。
その薙ぎ払った一撃から来る風圧がこちらへと届いた直後、ボルの周囲の地面に亀裂が走り……オーガたちの身体が爆発でもしたかのように弾け飛んでいくのが見えました。
……あの一撃、どれだけの威力を秘めているんでしょうか……。
外套が捲くれるのを防ぐために頭を押さえながら思いながら、ボルからライのほうへと視線を向けると飛び掛ろうとしていたレッドアリゲードがボルの風圧で地面を転げてしまっているのが見えました。
「シッ!!」
『GYA――A!?』
見事な隙が出来てしまったレッドアリゲードの1匹へとライが飛び掛り、漆黒のブレイドを振るいました。
すると、レッドアリゲードの頭部はまるでバターでも切るかのようにスパッと斬れ……血も噴出さないのが見えるので、切れ味が半端無いのが分かりました。
しかも首を斬り落とされたレッドアリゲードは首が斬られたことに気づいていないのか身体はジタバタと動いており、大きな口はパクパクと動かしながら自身の身体をみて不思議そうにしているようでした。
そして仲間の首が刎ねられたことに気づいた2匹のレッドアリゲードは身体をクルリと転ばせて、仰向けから体勢を立て直すと大きな口を広げてライへと襲い掛かってきました。
「はァっ!!」
口を開きながら近づいてくるレッドアリゲードの上の口をスパッと斬り飛ばすと、そのまま駆け寄り――頭上からの一撃を振るいました。
真っ二つに斬られたレッドアリゲードは断末魔の声を上げることすら出来ずに、左右に分かれてしまいましたが……その隙を狙うかのように最後のレッドアリゲードが口から炎を吹き出しました。
というか、あのモンスターって炎を吐けるんですね。
「……あの炎、どうやってやり過ごしますか?」
避ける? それとも防御する? それとも……。どう動くかを見ていると、ライはアタシもやると思う対処法に出ました。
それは、炎を斬るという対処法です。
漆黒のブレイドを再び振り下ろすように斬ると、炎は左右に分かれて行きました。そして、最後にレッドアリゲードまでも真っ二つにし……勢いが良すぎたのか先の地面もある程度の距離を切り裂いているのが見えました。
それを見ながらアタシは2人の強さに頷き、他の人たちは驚いた様子で2人を見ていました。
そして、それから暫くして街に襲い掛かろうとしていたモンスターの大群は駆除し終え、何処彼処から兵士たちの勝ち鬨の声が聞こえていました。