トラブルの連続
集落を出て、2週間ほどが経過しましたが……アタシは未だ魔王城と呼ぶべき場所へと辿り着けていませんでした。
それは何故かと問うならば……、何故かアタシが行く先々で色々と面倒ごとに巻き込まれるからです。
例えば……集落から旅立ってから2日経ったある日の夕方のことです。
アタシはボロボロに疲弊した少し大きめの街へと辿り着き、このボロボロっぷりにどうしたのかと首を傾げながら入口の兵士に話を聞いてみると……、あるときからどういうわけか大量のモンスターが1週間ごとに攻め込んでくるという異常な事態に陥ってるようでした。
そして、運が悪いことに……その1週間が翌日とのことでした。
「うわぁ……、何でそんな時期に来たんでしょうか、アタシは……」
「運が悪かったな、旅人さん。所で、旅をしているから強いだろうと思われるアンタに提案があるんだけどよ……」
このタイミングに街に来たアタシ自身を呪いながら、頭を抱えるアタシへと門番をしていた兵士から提案が出されました。
何でもこんな事態に陥った状況の上に、たった1週間では傷を負った兵士たちも完全に回復出来なかったため……少しでも戦力を補充しなければならないということでした。
ちなみに戦いに参加する者には一定の報酬と滞在するための宿の提供。そして倒したモンスターの素材を渡すというものでした。
……そういえば、アタシってこの国のお金を持っていないんでしたよね。というか、他の国のお金も持ってなかったんでした……。
「それで、どうだい旅人さん?」
「…………分かりました。その提案、お受け致します」
「そうか! 断られるか心配だったけど、受けてくれるようで本当に助かった! おーい、旅人さんを宿のほうに連れて行ってくれないか?!」
「分かったー!」
提案を受けることにして、アタシはその日の宿を確保することが出来ました。
ちなみにこの街に駐留する兵団を纏めているのは、国境砦で話が出ていたチキン=カラアゲ将軍だそうです。本当に美味しそうな名前をしていますよね。
まあ、兎にも角にも久しぶりに宿屋に泊まることができるので良しとしましょう。
そう考えながら、案内して貰った宿で身体を休めました。……少し硬いベッドでしたが、久しぶりのベッドは良く眠ることができました。
翌朝、気持ち良く眠りから目覚めてから出された朝食を食べていると、モンスターが現れると言われている時刻が近づいて来ました。
すると、昨日アタシを案内してくれた兵士のかたが姿を現し、戦いに参加するアタシのような旅人を呼びに来ましたが……参加する旅人はアタシを含めて、5名ほどでした。
そんな彼らをアタシはチラリと見てみました。
ひとりは二対の腕を持つ鬼のような姿をした男性。
ひとりは装飾が煌びやかな杖を手にした女性。
その2人は普通に魔族でしたが……。次に見た2人は仮面で顔を隠していました。
それはボロボロのマントを着た2人の男性で、片方は筋肉が隆々としているけれど隻腕となっている中年と妙な気配を漂わせるアタシに近い年齢と思わせる青年でした。
視線に気づいた彼らの反応は様々で、二対の腕を持つ魔族の男性はアタシを睨みつけ、杖を持った女性はフンと鼻を鳴らしつつ目を反らし、2人の男性はマントで顔を隠しました。
そんな彼らに向けた視線を戻し、アタシは兵士のあとを付いていった。
「もうすぐ何時ものようにモンスターは現れる! けれど、我々が護らなければ街は危険に晒されるだろう、だが無理はするな。戦って死ぬなどとは考えるな! 命を大事にいくぞ!!」
『『オオーーーーッ!!』』
街の入口の壁の前で、鳥型の魔族が兵士たちに向けて鼓舞するのが見えましたが、多分あの魔族がカラアゲさんでしょう。
しかも鳥って言うか、鶏型の魔族なので……本当に美味しそうに見えます。ああ、から揚げ食べたい……。
そんな風に不謹慎なことを考えていると、カラアゲさんが近づいてくるのに気がつきました。
「貴公たちが今日手を貸してくれる旅人か。我輩はこの街の防衛の任を与えられているチキン=カラアゲという、今日はよろしく頼む」
「スクナ族のダブルだ。この街のことは噂を耳にし、存分に暴れることが出来ると思いやって来た」
「パスタよ。わたくしの風魔法で迫り来るモンスターを蹴散らしてご覧に入れましょう」
「ボル、こっちは相方のライだ。貰える報酬分はキチンと働くつもりだから、よろしく頼む」
二対の腕魔族はダブル、杖の女性はパスタ、そして仮面で顔を隠した2人はボルとライですか。
ライは声が出ないのか、軽く頭を下げるだけでした。それを見ているとアタシに視線が送られたので、アタシも自己紹介をすることにしました。
「アリ……ソバです。何故か成り行きで参加することになりましたが、よろしくお願いします」
「ッ!? そうか、貴公が……。今日は頼む、報酬はキチンと払うが……無事に帰ってくるのだぞ」
全員の名前を聞いていたカラアゲさんでしたが、アタシが名乗ると驚いた顔をしているのが見えました。
もしかすると、スキヤキさんたちは砦からは出れないけれど……何か通信手段でもあってそれでアタシのことを聞いたとか? ……いえ、考え過ぎでしょう。
そう思っていると、街の周りに築かれた壁の上から警鐘が鳴らされました。
『敵襲、敵襲ーーーーッ!!』
どうやら、来たみたい……ですね。
そう思っていると、カラアゲさんはアタシたちに視線を向けました。
「我輩は向こうにて指揮を取らねばならぬ。だから、貴公らの戦いを見ることは出来ないが、幸運を祈る!」
カラアゲさんがそう言って、向こうへと去っていくのを見てからアタシたちも一斉に動き出し始めました。
まあ、一斉に行動するといっても、纏まって行動するわけではないんですけどね。
そう思いつつ、門を抜けると……視界には大量のモンスターであろう物が遠くに見えました。
これは……多いですね。そう思いながら、どう動くかをアタシは考えるのでした。