ゆうしゃの本能? 彼女の性格?
ほんの少し休憩する。そう思っていたアタシでしたが、気がつくと軽く眠っていたらしく空を見上げると夕焼け空となっていました。
ボーッとする頭を動かしながら周りを見ると、休憩する前に浄化し終えた湖が見えましたが、その湖の水面には大量のアップの実がぷかぷかと浮いていました。
しかも笑えないと言いますか何と言いますか、浮いているアップの実はすべてボンヤリと光を放っているのです。
これは……、微妙に《浄化》が働いている。そう考えたほうが良いのでしょうか?
そんな風に思っていると、心の中でキュウビが語りかけてきました。
――目が覚めたようじゃな。具合はどうじゃ?
特に異常は無いみたいですね。魔力切れでも起きていましたか?
--分かっておるようじゃな。というか、お主も馬鹿みたいに魔力をバカスカと使うんじゃない。
すみません、ですが種族は違えど困っている人は見過ごせません。
――まあ、そうじゃろうな。それがゆうしゃと言うものじゃから。
それで……、アタシが休憩している間に誰か来たりしましたか?
――ふむ、そうじゃな。わしも万能ではないと言うこともあるし、身体の主導権はお主にある。じゃが、気絶しておったお主の代わりに周りを警戒することは出来ておる。
それは分かりましたから、さっさと報告してくれませんか?
――お主なぁ、少しぐらいわしにも格好付けさせたりさせよ! まあ、誰も来んかったぞ。
そうですか、ありがとうございます。……ところで、このまま放置しておいて水は大丈夫だと思いますか?
――ふむ、そうじゃな……湖を見た限りじゃと、きちんと《浄化》が聞いておるし、水源の先……つまりは各々の集落の井戸に向いておる毒混じりの水もこの水によって強制的に浄化させられておると見たほうが良いじゃろうな。
キュウビの判断結果を聞きながらアタシはホッと息を吐いていましたが、キュウビは「更に……」と付け加えてきました。
その言葉を待っていると……。
――強力すぎた《浄化》の力が周囲に行き渡りおったからか、周囲の枯れていた土地も少しながら良い方向に進み始めてるようじゃな。
……つまりは?
――荒れ地となっておった土地に水分が戻って来始めておるようじゃ。何というか、微かに重かった空気が軽くなったように感じるぞ。
空気、ですか?
首を傾げながら、何となく目を閉じて意識を集中させてみると……周囲が心地良く感じられました。
多分、これが綺麗な空気。ということでしょうね。
そう思いながら、アタシは立ち上がりました。
とりあえず、ここはもう大丈夫でしょうし……一応報告だけでもしておきましょうか。
●
集落に着くと驚いたように人々がアタシを見てきました。
そしてその中を掻き分けるようにして、集落長が前へと出てくると嬉しかったのか両手を空にかざしました。
「お、おお、ご無事でしたか……!」
「はい。……あの、無事って言うのは?」
大袈裟過ぎる行動に驚きつつも首を傾げながら問い掛けると、集落長の側に居たリーダーが説明をしてくれました。
何でも、アタシが水源へと旅立ってから数時間ほど経過すると、突然水源のある場所から巨大な火の玉が上がるのが見えたり、地面が揺れたり、再び大きく揺れたり、少ししてすぐに爆発する火柱が見えたり、最後に眩いほどの光が見えたそうです。
…………うん、覚えがあります。というよりも覚えしかありません。
心の底からそう思いながら、どう話すべきかとアタシは悩みつつ……集落長たちを見ました。
「……もし宜しければ、何があったのかを聞かせていただけないでしょうか?」
「そう、ですね……。何があったというよりも、水源となっている湖に何が潜んでいたか……を話すべきですよね」
そう言いながら、集落長だけではなく自分にも言い聞かせつつアタシは何があったのかを説明し始めました。
とは言っても、一番最初の水源にて起きていたことを口にするとリーダーたちは首を傾げていましたが、集落長たちのようなお年寄りは驚いた顔をしていました。
どうやら、あの造水花はある程度昔に猛威を振るっていた種類の植物だったんでしょうね。
そして……。
「一応、アタシの手で水源を色々と弄らせてもらいましたので、これ以降は大丈夫だと思います。ああ、ですけど湖の中心に生えた樹は伐らないでくださいね。実のほうは食べても大丈夫ですが」
「は、はい……」
「それとこのことは、水源を同じにしている集落の方々にも伝えていただければ嬉しいです」
「お任せください」
「それとあとは……」
「あ、あの――っ!」
何かを言おうかと考えるアタシでしたが、おっかなびっくりなリーダーに声を掛けられたので顔を上げました。
そのときに見たリーダーの表情は、困惑しているといった感じに見えました。
「何でしょうか?」
「貴女様は、何故……何故通り掛かっただけで助けてくださった上に、ここまで我々を助けてくださったのですかっ!? それに、お礼を要求する……といった様子も見られませんし」
そういえば、そう……ですね。というよりも、困ったときは助けるといった感じに思うようになっていたのは……多分、ゆうしゃとしての本能? それとも、アタシの人柄??
うんうんと静かに唸っていると、返事を待っているのかリーダーはアタシを真剣に見つめています。
……仕方ありません、思ったことを口にすることにしますか。
「えっと、理由はですね……」
「理由は…………」
「ただの成り行きの偶然、そう思っていてください。だから、お礼とかは必要ありません」
「なっ!? で、ですが……!」
「納得出来ない……というわけですか。でしたら……周りの集落と話し合って、水源を護ってください」
アタシの言葉に納得出来ていないようでしたので、アタシは水源の管理をお願いすることにしました。
その言葉に、リーダーは呆気に取られた表情をしましたが……、それ以外受け付けないといった雰囲気をアタシが出すと、納得していないながらも首を縦に振りました。
「分かりました……。貴女様が望むのならば、我々は言われるがまま行いましょう」
「お願いします。それでは、アタシは行きますね」
「――ッ!? 休んで、いかれないのですか?」
「はい、アタシにはやるべきことがありますので、失礼させていただきます」
そう言って、アタシはクルリと方向を変えます。
そしてアタシの言葉に戸惑いながらも、持て成したいといった様子を見せる彼らでしたが、アタシは止まる気はありません。
ある程度離れてから、一度彼らのほうを見ると……殆どの者たちが頭を下げているのが見えます。
そんな彼らを見ながら、きっとこれからは畑の水分も枯れることは無いし、近い内に肉となる動物や対処できるモンスターも現れるだろう。
そう思いながら、アタシはその場から歩み出した。