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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
330/496

称えられました

遅れました。

 クレイジークラウドを散らし終えてから再び移動を開始し……山道を越えて、ようやくアタシは魔族の国へと入ることが出来ました。

 今立っている場所から見える魔族の国の景色は……一見平和そうに見えました。

 所々に見えるモミの木によく似た木々が多く目立った針葉樹林、空は青く……雪は無いけれど肌寒さを感じる気候。

 そして、目を細めて遠くを見たら藁葺きの民家が幾つもある……多分集落と思しき場所も見えました。


「これが、魔族の国……?」


 何というか、浮かんでいたイメージとはまったく違っているように思えました。

 ちなみにイメージはついさっきも巻き込まれたあのクレイジークラウドの雷雲がゴロゴロと音を立てて、国の面積の3分の1ほどの大きさのおどろおどろしい城があって、常闇で毒沼とかがあって瘴気が充満してるというイメージでした。

 ……まあ、それって人がまったく住めない土地になりますよね。

 というか、大作ゲームの魔物の国とかって本当地獄としか言いようが無いのに、よくも平然と暮らしていられますよ。っと、そんなことを考えている場合じゃないですよね。

 浮かんだイメージを振り払って、アタシは《異界》から事前に用意していた外套を一枚取り出すと頭からスッポリと被りました。

 一応これで獣人だということは分かりませんよね。……まあ、砦では色々とやってしまいましたが、何とかなるでしょう。

 そんな風に考えながら、アタシは下り坂を降りて行きました。


 ●


『ありがとうございます! 貴女様のお陰で我々は助かりましたッ!!』

「あ、はは……き、気にしないでください……」


 苦笑しながら、外套で姿を隠したままのアタシは目の前で跪いて頭を下げる村人たちを見ていました。

 頭を下げる村人たちの服装はほぼ全員がボロボロになっているのですが、傷ひとつありません。

 それもそのはずです、何故なら瀕死の重傷を負った彼らをアタシが治療したのですからッ!

 うん、……どうしてこうなったのでしょうね。


『いえ、ですが貴女様が通らなければ、我々は無残に殺されているところでした!!』

「偶然ですので、本当……」


 えーっと……たしか、下り坂を降りて身近な針葉樹林に突っ込んだんですよね?

 近づいてマジマジと針葉樹を見てみると、やっぱりモミの木っぽい感じだったので、とりあえず1,2本ほど切断して《異界》に入れておこうかなと思って、魔力を体内で循環させて『風』の属性を与えて放とうとしました。

 そんなとき、少し離れた所で悲鳴が聞こえたので……急いで悲鳴がした場所へ向かうと、10名ほどの魔族の男性が居るのが見えました。

 それも、4匹の両腕が4本生えているクマに囲まれた状態で。

 もしかしたらこの森に狩りに入ったら偶然というか運悪くあのモンスターに捕捉された。と考えるのが妥当でしょうか?


「くそっ! 4匹もいるだなんて……!」

「無駄口叩いている場合か!? 早くどうにかしないと危ないぞ!!」

「けどこんな近くにこいつらを残していったら危険だぞ!?」

「なら如何しろってんだ!? はやくしねぇとこいつらが危険だぞ!?」


 愚痴を言い合う男たちでしたが、アタシは彼らの様子を改めて見ました。

 質の悪いボロボロの剣や堅めの木の棒に包丁を巻きつけたような槍を持った前衛を担当してるであろう男たちが3名、ちゃんと手入れをしているであろう弓を手に持ってすぐに矢を放てるように構えた男が2名、そして残りは血を流して倒れている男たちと傷口に手を当ててこれ以上血が流れないようにしている男たちでした。

 要するに絶体絶命で――あ。


「ぐあああぁぁぁぁぁっ!!」

「くそっ! 大丈夫か、しっかりしろ!!」

「な、なんとか……――っぐぅ!!」

「駄目だ、腕が折れてやがる」

「くそっ! いったい俺たちが何をしたって言うんだ!!」

「何もしちゃいねぇ。ただ運が悪かっただけだ……」


 振り下ろされた腕に前衛の1人が地面に叩きつけられ、弓を構えた男に命中して戦闘不能になるのが見え……この状況に怒る男と、生きて帰れないことに涙をする男たちに分かれ始めていた。

 そして、血を流す男たちの顔色は徐々に蒼ざめ始めて、命の危険を告げています。

 それを見ながらアタシは助けるべきか? どうするべきか? と悩み始めました。……いえ、悩む必要なんて無いですよね。

 既に決まっていたことを実行するように、アタシは動き出しました。

 同時に4匹のクマは男たちを一気に仕留めようと周囲から飛び掛ってきていました。それを見た前衛たちは飛び掛るよりも下がることを選んだらしく……というよりも怯えて後ろに下がったようでした。

 ですが、これは好都合です。

 クマの前には誰も立っておらず、そして男たちは固まっている状態。それを見ながら、アタシは解き放とうとして待機させていた魔力に『風』の属性を与えて一気に解き放ちました。

 その瞬間、男たちを囲むように風の壁が吹き荒れると同時に手を出していたクマたちの手がミキサーに巻き込まれたように引き千切れて行きました。


「な、なんだこれっ!?」

『『GUUUUOOOOOOOOOOOOOOO!?』』


 当然、いきなり自分たちの周りに風の壁が現れたことに男たちは驚きの声を漏らしていましたが、それは無視しておきます。

 そして、腕をミンチにされたクマたちからは痛みの絶叫とそれを行った者を許さないといった怒りの雄叫びも聞こえました。

 けれどそれはもう遅いんですよ?

 心の中でそう思いながら、風の壁が次の動作に移るのをアタシは見ています。すると、風の壁は一気に散っていきました。ただし、一気に散った風はすべて《鎌鼬》と同じ風の刃となっていますがね。

 風が散って男たちの姿が露わとなったのを見て、クマたちは今度こそ襲おうと一歩歩みました。その瞬間、ズッと胴体が動き始め、続いてその上が下がという風に……まるで輪切りにされたかのように動き出し、クマたちは自身に何が起きたのか分からないまま、死を迎えました。


「い、いったい何が起きたんだ……?」

「し、知るかよ……」

「そっ、それよりも早くもどらねぇとこいつらが危ねぇぞ!!」


 呆気にとられていた男たちだったが、徐々に蒼ざめていく仲間を見てハッとして急いで村に帰ろうとしているようでした。ですが、このままじゃ間に合いません……よね。


「……仕方ありませんよね」


 ポツリと呟き、アタシは急いで移動を開始しようとしている男たちに分かるように立ち上がりました。

 当然、いきなり木陰から外套を頭からすっぽりと被って顔が分からない人物が現れたら戸惑うのが当たり前ですよね。

 事実、彼らは驚きと緊張で動けずに居ました。

 とりあえず、そんな彼らを無視してアタシは即座に魔力を呼び出していたワンダーランドに通して『聖』の属性を与えて放ちました。

 直後――彼らを温かい光が包み込みました。

 そして、光が消えるとそこには怪我が治った男たちの姿がありました。


 ただし困惑している状態で。

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