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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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 おはよう。よく眠れた? うん、その顔を見たらぐっすりだったみたいね。おやつ出来てるから食べようか。

 どんなおやつかって? 今日はちょっと張り切って、久しぶりにクレープを焼いてみたわ。クレープってなにかって?

 んとね、薄く伸ばして焼いた小麦粉の皮で、フルーツとたっぷりの甘いクリームを包んだ御菓子よ。ふふ、待ちきれないって顔をしてるね。じゃあ、食べようか。

 ……うん、懐かしい味がするわ。ちょっと生クリームっぽさが少ないけど、バーナ独特の甘みが良い味を引き出してるね。本とはチョコとかがあったら……ってああ、口こんなに汚して、ほら綺麗にしたげるから動かないでね。……よし、綺麗になった。

 おかわりはまだあるかって? あるわよ。それじゃあ、牛乳と一緒に食べながら続きを話そうか。ああ、ほら、クレープ持ちながらはしゃがないの。


 初めはベッドに潜って眠っている振りをするだけだった彼女だけど、予想以上に身体が疲れていたらしくて……気がついたら眠っていたわ。

 それから何時間経ったのかは分からないけど……慌てた様子で部屋の扉が力強く叩かれたの。

 五月蝿い音にシーツを頭から被りつつ、彼女は開けたままの窓を見たんだけど、まだ夜が明けたぐらいだったのか夜に朝の色が滲み始めているのが少しだけ見えたわ。

 だから最初は無視してベッドの中に潜っていたんだけど、部屋の前に居る相手は諦めることを覚えないらしくって……彼女のほうが折れたわ。


「ああもう、五月蝿い! 寝てるのが分からないわけ!?」

「し、師匠! すみません……って、それよりもですね! 山道の魔物溜(モンスタープール)が突然無くなったみたいなんですよ! それに、昨日の夜は巨大な炎の柱が山のほうから見えたって言ってる人も居ますしっ!?」

「あ~……そう、良かったわね。それじゃあ、オレは出発するギリギリの時間まで眠るから準備はよろしく……ふぁぁ……」

「え? あ、は……はい。分かりました……?」


 喜ぶサリーに対して彼女は眠気が取れていないらしく、淡々と言って欠伸をしてフラフラとベッドに倒れこんだわ。

 そのまま一気に夢の世界に飛び込もうとする中、きょとんとした表情のサリーが印象的だったと彼女は思っていたわ。

 そして身体が眠りを欲しているから目を瞑って眠っているのに、意識は半分だけ覚醒しているという変な状態を感じている中で部屋の外がごそごそといってるのが聞こえたわ。

 多分、サリーとフォードの2人が出発準備を整えているんだと思うことにしたの。


「しっかし、魔物溜からの迂回路を造ろうとする作業者も今朝来たときは驚いたでしょうね。何せ、問題の魔物溜が無くなっているんですからねー」

「それもそうなんですけど、それ以上に国境代わりになっている山はただの岩山だったはずなのに、聞いた話だと魔物溜があった周辺が緑で覆われていたらしいですよ。っと、携帯食料はこれぐらいで……」

「でも、たった一晩でいったい何があったらあんなふうになるんでしょうね。微妙にもしかしてって思うけど、昨日は玄関からあいつが出て行く様子なんてありませんでしたし、山道の入口を見張ってた自警団も見ていないみたいですし」

「あいつって……師匠ですか? えー、ありえませんよ。いくら師匠でもたった一晩であれだけのこと……」

「いや、でも俺があいつと出会ったときに魔物溜で何かあったらしいんですよね。あと、ハガネの件とか……」

「え、で……でも……」


 そんな他愛もない世間話……というか、今朝から村のほうで持ちきりの話題を話の肴にしつつ2人は準備を続けているのが聞こえたわ。

 そして、静まり返ってしばらくすると……。


「「ま、まさかねー……?」」


 愛想笑い混じりに2人は自分たちが思い至った答えを否定することにしたみたい。

 だって当たり前よね。目撃者は誰も居ないし、当の本人は出て行った様子がない。きっと部屋で熟睡していたに違いない、14歳のまだまだ小さなおんなのこなんだから当たり前だ。そう思うことにしたみたい。

 ……まあ、やったのは彼女なんだけどね。そう思っていると、準備が終わった声が聞こえて最後に少し遅めの朝食を取ろうと言う話が聞こえたところで、彼女は目を開けたわ。


「師匠、そろそろ朝ごはんにしますから起きてくだ――あ、起きてましたね」

「ぁふ……おはよう、あといい加減に師匠呼ばわりするのは止めてくれない?」

「そ、そんなぁ~……あ、じゃあ師匠と呼びません。アリスさんと呼ばせてもらいますから、頭を撫でたり愛でたりして良いですか? もう、こんな妹が欲しかったの的な感じに!!」

「…………え、そ……それは……。は、はぁ……わかったわ。もう師匠って呼べば良いじゃない。だからそっちのほうは」

「良いのですかっ!? あ、ありがとうございます! それじゃあこれからは、師匠と呼びながら妹を愛でるように扱わせてもら――「なんでそうなるわけ?!」――あぅ」


 サリーのしょんぼり顔から笑顔と来て、両手を開いて「ウエルカム!」なポーズを見ながら、最終的に彼女はツッコミとして脳天にチョップをしたの。

 頭を叩かれてぐわんぐわんとしているのサリーはフラフラしながら、部屋を出て行ったわ。そのあとに続いて彼女も部屋から出ると、昨日の晩に夕飯を取った場所に朝食が置かれていたわ。

 薄く切られた黒パン、蒸かしたポティト、新鮮なサラダ、野菜のあまりで作った塩スープ、絞り立てのカウホースのミルクが置かれていたわ。というか、この世界って本当に転生前の世界の動物+馬って感じの物が多いみたいね……。

 そのうち、フロッグホースとかいうのも出るんじゃないかと緑色のテカテカした馬を想像しつつ、彼女は席に着いたわ。


「それじゃあ、いただきます」

「どうぞ召し上がれ、師匠」


 サリーの勧めるままに彼女は朝食を取り始めたわ。

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