再び移動
太陽が昇り始めて、クスクスっぽい食べ物をスープで煮込んだ物を頂いてから兵士たちはそれぞれの任務に就き始める中、アタシは砦の門へと向かっていました。
ちなみにタダノモーブがアタシをストーキングしていましたが、手早く逃げてきたのでこの場には居ません。下手すると追いかけて来ているかもしれませんね。
そして、今……門の前にはスキヤキさんが腕を組んで立っていました。……どうやら出ようとしていることを気づいていたようですね。
「……もう行くのか?」
「はい、行きます。が……皆さんはこの砦からは暫く出ないほうが良いですよ」
「分かった。一応他の兵士たちには伝達しておこう……本当ならば、侵入者であるお前を捕らえるのが役目だが、お前が居なかったら恐ろしいことになっていたというのも事実だ。
だから、お前は砦には来なかったし、こっちは誰もお前を見ていない」
「ええ、アタシは空に妙な装飾が施された砦は素通りしました。なので、中はどうなっているかは分からないままでした」
「それで良い。……何をするつもりかは知らないが、馬鹿げたことだけはするな」
スキヤキさんとそんな会話をしてから、アタシは軽く頭を下げてから妖精の靴に魔力を通して軽くなった身体で地面を蹴り……門を跳び越えて、地面に足を付けると再びアタシは魔族の国へと移動を開始し始めました。
……砦から姐さんカムバックとか聞こえますが、無視しておきましょう。あ、スキヤキさんにはったおされてるみたいですね。
そんな感じに聞こえる声と音で推測しながら、クスリと笑いつつアタシはこの場を去りました。
●
舗装されているのか分からないような岩や砂利が多い山道を歩き続けていると、青かった空に段々と黒い雲が増え始め……最終的には青い空はまったく無くなり、黒い雲一面となっていました。
そして程好く温かかった空気も、徐々に冷え込み始め……今は肌寒く感じられます。
何となく予感がしますが……きっと魔族の国に入ったのでしょう。
そう思いながら、空を見ているとゴロゴロと音がしているのに気づきましたが雨が降る様子はありません。……代わりに雷とかが落ちてきそうですけどね。
ゴロゴロゴロ……――バリバリバリバリバリッ!!
「って、本当に落ちてきましたっ!?」
目の前が光ったと思った瞬間――ほぼ目の前に落ちてきた雷に驚きながら、アタシは素早く後ろへと下がりました。
その直後、さっきまでアタシが立っていた場所に再び雷が落ち……続けて、今立っている場所へと――。
「くっ!? い、いったいなんですかこの雷はッ!?」
焦りながら、アタシは《土壁》を細く長く硬くして目の前に創り出すと、素早く後ろへと下がりました。
すると、アタシが立っていた場所目掛けて落ちようとしていた雷は方向を変えたのかバチッと音を立てながら、《土壁》の先端に当たりました。
金属のようになった……というよりも錬金術を使って、鉄系の金属に変化させた先端に雷は吸い込まれるように落ちると、また再び雲から雷が降って来ましたが、同じようにまたも先端に吸い込まれて行きます。
即興で避雷針みたいな感じに《土壁》を錬金術で変化させてみましたが、上手くいったみたいですね。
そう思いながら、避雷針から離れた場所から空を見ました。
すると《鑑定・極》が働いたのか、アタシの目には雲の詳細が明らかとなりました。
――――――
名称:クレイジークラウド
種類:不定形モンスター
説明:雷を体内に溜め込む性質を持つ雲形のモンスター。
基本的には個体となって空を漂うだけだが、定期的に群体となり地面を歩く存在に向けて雷を落としたくなる時期が来る。
その時期は何処か洞窟などに隠れてクレイジークラウドの雷から身を守る対策を取る者が多い。
――――――
……ああ、モンスターだったのですね。
しかも、雷を落とすという馬鹿げたことをするタイプの……。
そう思っていると、アタシにまったく雷が命中しないのを苛立っているのかゴロゴロと雲の中の雷が唸っているのが見えました。
……きっと今までは偶然来てしまった魔族の人とか、モンスターとか迷い込んだ動物とかが餌食になっていたんでしょうね……。
そして避雷針なんて物がまったく無かったのでしょう。
そう思いながら、黒ずんでいく避雷針の先端を見ながら、どう対処するべきかとアタシは悩みました。
「…………いっそのこと、散らしてみましょうか」
ポツリと呟き、群体となっているのなら個体にばらせば良いのではという結論に達したので試してみることにしました。
なので、ワンダーランドを大扇型で呼び出し……大扇と身体を巡るようにして、魔力を循環させ始めます。
循環させることで魔力は純度を増し、グングンと膨張して行き……『風』の属性を与えて一気に解き放ちました。とりあえず、名前は……。
「吹き荒れろ! 《乱れ嵐》!!」
呪文名と共に呪文は発動し、アタシを中心にして複数の嵐が巻き起こり始めました。
嵐は轟々と音を立てて、高度を上げて行き……ひとつの嵐が黒ずんだ雲を散らしたのを皮切りに、他の嵐たちもパラパラと雲を散らし始めていきました。
そして、嵐がすべて収まった頃には雲は散って行ったのかひとつも無く……青い空が覗いていました。
その空の色に満足してから、アタシは再び歩き出しました。
ちなみにアタシは知りませんが、突然空の雲が散ったために魔族の村々は何が起きたのかは判らず混乱に陥っていたらしいです。
まあ、事情を知らない子供のほうは綺麗な空にはしゃいでいたらしいですが……ね。