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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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スキヤキさん

「姐さ~ん、これも美味いッスよ~!」

「あ、ありがとうございます……」

「これとかも美味いッスよ~!」

「はあ……」

「これとか――」

「タダノモーブさん……でしたっけ? えっと、好きに飲んでて大丈夫ですよ」


 静かに空気になろうとしていたアタシですが、チャラ兵ことタダノモーブ……ただのモブは何故かアタシに色々と進めてきています。

 そしてアタシが特別丁寧に優しくオブラートに包んだ「向こうに行け」発言でしたが……気づいているのか気づいていないのかは分かりませんが、にこやかな笑みをアタシに向けてきました。


「大丈夫ッス! じぶん、今は兎に角姐さんのお世話をしたいッス!!」

「ああ、そうですか……」


 駄目ですねこれ……。というかこういうタイプ苦手だったんですねアタシ……。

 心の中でそう思いながら、アタシは差し出されていた食事に手をつけます。

 ちなみに食事……と言っても、基本的には鼻を近づけていなくてもクラッとしてしまいそうなにおいのするお酒(種類は分かりません)に合う肴といった感じなのか、何の肉かは分からない干し肉やチーズに似ているけれど腐敗臭がキツイ乳製品のような物、そして穀物を挽いて粉にした物を粒状にしたと思しき食べ物が皿に盛られていました。

 人間の国や獣人の国、森の国を見てきたアタシの目には色々と残念な感じの料理に見えますが、周りを見ると美味しそうに食べているので……きっとここで出せる最大級の料理なのでしょうね。

 そう思っていると、アタシの前に影が落ちました。どうしたのかと思いながら顔を上げると……牛が居ました。

 いえ、間違えました。二足歩行で立つ牛が居ました。……ミノタウロスって感じですね。


「アイツから話を聞いたが……、お前がこの事態を終息させたのか?」

「あいつ? ……ああ。はい」


 一瞬あいつと聞かれて誰かと思いましたが、あの上司兵だとすぐに理解して頷きました。

 ちなみに上司兵のほうは仲間たちとガバガバと酒を呑んでいるようですね。

 その様子を見ていると、二足歩行の牛……牛型魔族はアタシに頭を下げてきました。


「何が起きたのかはよくは分からないが、助かった。感謝する」

「いえ、気にしないでください……というよりも、これでチャラで良いですから」

「そうか。それなら別に構わない。っと、忘れていたがビーフ=ナーベだ」


 アタシの言葉に頷くと、牛型魔族の……多分というか隊長ですよね。その人が自己紹介をしてきました。

 ……ビーフ=ナーベって……何とも美味そうな名前ですね。牛鍋……とりあえず、心の中ではスキヤキさんとでも思っておきましょう。

 というか、スキヤキって前の世界ではたまに食べていたけれど……この世界だと色々と危なそうですよね。卵を生で食べますし、牛肉も半生だったりしますし……何より醤油がありませんし。

 ……そう思ってみたら、食べてみたいと思う気分にもなってきましたよ。


「……言っておくが、美味しそうとか言うんじゃないぞ? そこでお前に尻尾を振るタダノモーブも同じような反応だったからな」

「あー……そうですか」

「ちなみに姐さん、ビーフ隊長の同僚にはポーク=シャブシャブ隊長やチキン=カラアゲ隊長も居たりするッスよ!」

「そうですか、それはおいしそ――いえ、何でもないです」


 タダノモーブさんの言葉についついその言葉が出そうになりましたが、必死に抑えました。

 頑張ったアタシ! そう思っていると、スキヤキさんがアタシを見てきました。

 自己紹介をしたのだから、こちらもしろという風な視線……ですよね。

 ですが、アリスの名前は今の状況じゃあ危険というか危ないと思いますし……ここは偽名にしておきましょう。

 とりあえず、名前は……。


「改めてよろしくお願いします、ビーフさん。アタシの名前はソバと申します」

「ソバ……か。とりあえず今はそう思っておこう」


 ウドーンとかを一瞬考えましたが、ソバのほうが名前的にまだ通用すると考えてアタシはそう名乗りました。

 ちなみに由来はアタシの世界にあった、今のアタシの状態と対を成す食品に使われている麺を参考にしています。

 まあ……、ビーフさんの様子を見れば……ばれているって分かりますよ。

 けど向こうも分かっているけれど、この状況に恩義を感じてくれているらしいので……感謝しておきましょう。


「ありがとうございます。それで、色々と聞きたいと思うのですが……大丈夫でしょうか?」

「話せる範囲であれば……だが」

「分かりました。では初めに……ここ最近、この砦に外から誰かやってきましたか?」


 予想している人物が居るのですが、一応聞いておきましょう。

 まあ、向こうが話したくない内容でしたら聞きませんけどね。

 そう思っていると、話したくない内容ではなかったらしく、スキヤキさんは顔を顰めさせながら思い出すように呟きました。


「大物か……来たことは来たぞ」

「四天王のアーク、ですね?」

「そうだ。あの策略家気取りの四天王様は、森の国で色々とやっていたみたいだが狐の獣人にぶち壊されたとズタボロになりながら叫んでいたな」


 そのときの様子を思い出しているのか、スキヤキさんの口元に笑みが零れていますが……本人は気づいていませんね。

 というか、本当人望が無いみたいですね……あの蝿は。

 そして、アタシの視線で漸く自分が笑っているということに気づいたスキヤキさんはすぐに笑みを消し去りました。


「すまないな。あの策略家様は恩人の息子を鉄砲玉の一人にしたから、あの姿を見てスカッとしたらしい。本当、策略家様をあんな酷い有様にした狐の獣人には感謝しかないな。ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして。ときっとその虫を叩きのめした狐の獣人さんは答えるでしょうね。あと、恩人の息子さんは保護して別のところに行ってもらってるとも」


 多分タイガだろうと思いながらスキヤキさんに言うと、驚いて目を見開いていました。

 ですがすぐに目を閉じて、今聞いた言葉を噛み締めているようでした。


「ッ!? そうか、無事なら良いのだ。あの方には策略家様がずっと居たので、冷たく接するしか出来なかったからな……」

「でしたら、また会えたときにでも話しかけてください。と言うでしょうね」

「そうだな、また会えたらあの方に謝り、今度こそ忠誠を誓いたい。きっと、ポークやチキンも同じだろう」


 そう言って、スキヤキさんは嬉しかったのか置かれていた酒を飲み始めました。

 そんなスキヤキさんに釣られて、アタシも酒の入った器を掴み……それを口にしました。


 ……ぶっちゃけ、そのあとの記憶が飛んでいます。いったい何があったんでしょうね……。

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