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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
325/496

チャラ兵

 砦の外壁を駆け上ると中は本当にカオスでした。

 女魔族同士が超絶過激なキャットファイトしてたり、大きめのヘビと狼のような姿をしたモンスター同士が噛み付き合ってたり、男たちが剣を打ち合ってたりと酷い様相です。

 ……これは、このまま降りて突入したら面倒くさいことになりますよね。


「仕方ありません、上から行きますか」


 呟きながら、アタシは混沌と化している砦の敷地上空を一気に跳ぶと、3階ほどの高さとなっている砦屋上へと向かいました。

 するとそこに見張りが居たらしく、今まさにチャラい感じの魔族の兵士に向けて、お堅い上司っぽい兵士が剣を向けているのが見えました。

 放っておけば良いと思いますが……見たからには何とかしないといけませんよね。

 とか思っていると、上司兵のほうがチャラ兵へと振り上げた剣を一気に振り下ろそうとしていました。


「――ッ! 急ぎましょうッ!!」


 呟くと、アタシは妖精の靴に自ら魔力を送りつけ、空中に見えない足場を創りだすと一気にそれを踏み締めて弾丸のように空中を突き抜け、2人の間へと飛び込むと……聖糸を出しました。

 撓みを作った聖糸で振り下ろした剣の衝撃を吸収させ、すぐにピンと張り上司兵の剣を弾きました。

 突然現れたアタシに上司兵は驚いた顔をしましたが、そんな目の前の上司兵へと告げます。


「はあ……、騒動を聞きつけて入ったのはいいけど……まさかこんな場面に出くわすなんて思ってもみませんでしたよ」

「え?」

「何だお前は! 敵か、敵なのか!?」

「状況からしたら敵ですが……、少し黙っていてくださいね」

「いったいな――――むぐおぉっ!?」


 溜息を吐くアタシと反対に背後からはチャラ兵の間抜けな声、前からは上司兵の異常な殺意を込めた声が来ました。

 ですが、それらの声を無視してアタシはとりあえず周りを静かにするべく、上司兵の足を横から蹴り飛ばします。

 どうやら正常な判断が出来ていないようなので、蹴られた身体は宙を舞って頭から地面に落ちて行き……目を回しているようでした。

 これはやりすぎましたかね……っと、今の内にやっておくだけやっておきましょう。

 そう考えてアタシは、目を回して倒れた上司兵の額に聖糸で作った目の魔方陣を貼り付けました。

 さて、こっちはこれで大丈夫ですよね。とりあえず、もう一方のチャラ兵のほうにも……あれ?

 何だか凄く神々しいものを見ているような表情をしてませんかこの人。

 というか、何だか普通そうですし……。


「あ、あのー」

「はいっ、なんッスか!?」

「……うわぁ、何だか下っ端根性丸出しって感じの口調ですね」

「うはっ、酷い言い草ッス! けど、姐さんに言われると嬉しいッス!!」


 えー……あ、姐さん? 姐さんって何ですかー……?

 というか、これはヤバイ方向に進みそうな勢いですよね。

 いえ、と言うよりもこのチャラ兵……狂ってないみたい?

 とりあえず、聞いてみるべき……ですよね。


「えっと、貴方は無事みたいですけど……何処か変なところとかあったりしないのですか?」

「大丈夫ッス! パイセンに殺されそうになりましたが、姐さんのお陰で無事だったッス!!」

「そ、そうですか……。えっと、他の人たちがおかしくなっているのは分かっていると見て良いですか?」

「そう、そうなんッスよ! 何か皆いきなり変な感じにこう……暴力的になり始めてるんッスよ! 何で皆ああなってるのか、姐さんは知ってるッスか!?」


 うわー……、何というか……この人魔族みたいですけど魔族らしくないって感じですよね。

 何というか、警戒心もまったく無いと言うかお馬鹿って言うか……。

 まあ、とりあえず何とかしておきましょう。

 そう結論付けて、アタシはチャラ兵に微笑みました。


「はい、知っています。通りがかりでしたが、とりあえず治して行きますので心配しないでください」

「ほ、本当ッスか!? お願いしますっ、皆を元に戻してくださいッス!!」


 ……い、一応怪しむとかそんな感じの感情を抱きましょうよ…………。

 心の中で苦笑しながら、アタシは上空へと跳び上がりました。ちなみに下からはチャラ兵が歓声を上げています。

 さてと……、とりあえずは事前準備を行いますか。下を見ると手を広げるチャラ兵が見えましたが……それは無視して、アタシはワンダーランドを呼び出しました。


「ワンダーランド!」


 掛け声と共に《異界》から大扇型に変化したワンダーランドが飛び出してくると、それを掴み砦外周に沿うようにして細長く硬いように調整した《土壁》を十個造ります。

 殺しあう魔族や魔物たちだったけれど、その一部に突如砦の周囲に飛び出した物に驚きの声を上げる魔族や魔物たちが居たらしく声が聞こえます。

 まあ、それらは無視です。妖精の靴に魔力を込め、アタシは空中を駆け始め――《土壁》の外周を周るようにして移動して行きます。

 学校のグラウンドほどの面積を持つ砦の外周を、一分もしない内に駆け抜けるとアタシが通った後には光り輝く糸が張られており、円を作るとすぐに端から端へと移動を開始し手早く目の魔方陣を空中に創り上げました。


「ついでに、もういっちょーーーーっっ!!」


 叫びながら、アタシは身体に魔力を込めて地面に向けて『聖』の属性を叩き込みました。

 直後――目の魔方陣が光り輝き、砦の内周に強烈な『聖』の属性が満たされました。

 ……ちなみにロンから聞いた話だけれど、『聖』の属性を叩きつけたとしても魔族は多少疲れるだけで酷い有様になったりはしないらしいので……大丈夫ですよね。

 そう考えながら、アタシは再び砦の屋上へと降りて行きました。

 すると、ジュワッという感じに地面なのか周囲に溜まっていたのかは分かりませんが、瘴気であろう黒い煙が消え去っていくのが見えます。

 それと同時に魔族やモンスターからも同じように瘴気がジュワッと立ち込めているのも見えましたが……きっとそれが原因で狂っていたんですよね。

 そう思いながら、バタバタと力尽きるように倒れる魔族たちをアタシは見ていました。

チャラ男の兵士。略してチャラ兵。

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