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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
324/496

監視砦の地獄

不幸な脇役Aさんの視点です。

 ども、いきなりッスけど、じぶんタダノモーブ言うッス!

 魔族の国と森の国の国境監視用に建てられた砦で働く魔族の兵士のひとりッス!

 ……というか、タダノモーブって何スか!? ただのモブじゃねーッスか!!

 こんな名前じゃあ、ゲームとかに出てくる一般人Aとか兵Aとかじゃないッスか! あ、じぶん兵Aッスね。

 え? 何でそんなゲームとかって単語が出てくるかって?

 そりゃ決まってるッスよ! じぶん、転生者ッスから。

 転生ゆうしゃかと聞かれたら、ただの転生者ッスよ。何でも、魔族の神様はゆうしゃが嫌いらしくって、転生はさせるけどゆうしゃにはしないって話らしいッス。

 だから、じぶんタダノモーブは転生者ッスけど、ゆうしゃじゃないッス! 残念!!


「おーい、タダノモーブよーい」

「あ、何ッスかパイセン?」

「だからなんだよ、そのパイセンってのは……」

「いやー、パイセンはパイセンッスよー」


 何故だかじぶんの紹介を物凄くしたくなったので頭の中で自分の経歴を語っていたんッスけど、いきなり後ろから声をかけられて、振り返るとパイセンであるガチムチ兵士が立っていたッス。

 ちなみにパイセンってのは先輩のことッスよ?

 とか考えていると、じぶんの話し相手に疲れているのかパイセンは頭を抱えていた。

 日頃の疲れッスかね? それとも、監視のし過ぎで疲れたッスか?


「違うっての、お前と話すのが疲れるだけだ」

「おー、さすがパイセンッスね。じぶんの考えていることが丸分かりッスか!?」

「アホか! お前を見てたら普通に分かるわ!!」

「そッスかー? けど、暇ッスねー。というか来る奴なんて居ないと思うッスよー?」

「それもそうだが……けれど、それが仕事だから仕方ないだろう」

「それは分かってるッスよー。あ~……早く終わって冷たい酒を飲みたいッスよ~!」


 でもって、酒の肴には肉、肉ッスよ肉! まあ、この周辺の肉って言ったらドラゴンモドキトカゲ(じぶん命名)の肉ッスけどねー……、ちょっと筋張ってて腹持ちは良いけど食べたって気にならないのが辛いッスね。

 とか口にしていると、じぶんの頭をパイセンが殴りつけてきたッス!


「ちょ! 何するッスかー、パイセンー!!」

「お前はなー……、分かってるだろうけどそんな感じに言ってるのを聞いてるのがおれひとりだったから良いものを他の奴らに聞かれてたら殴られてるぞ?」

「ん? あ~……そーッスね。この間まで居た元四天王の弟子たちに聞かれてたら面倒くさいことになってたッスよねー」


 借金みたいな名前をしたロンは威圧をかけてくるだろうし、タイガーはノリノリで肉の美味さをありありと語るッスよねー。きっと。

 でもって、トールちゃんのほうは……イメージが浮かばないッスけど、フェニさんのほうは烈火の如く怒るのが目に見えてるッスよ。

 あれ、でもそういえば……。


「ここ最近、弟子たち見かけないッスけど。どうしたんッスか?」

「お前は忘れたのか? あの4人は森の国に潜入して何かをしてるって話だぞ?」

「そッスか? 良い役目をもらえたみたいで何よりッスねー……っと、あれ?」

「どうした?」

「いや、何だか……地面が黒いっていうか……、何か黒いのが立ち込めて……?」


 じぶんはそう呟くッスが、何だか良くわからないものが地面から立ち込めてきていたッス。

 良くわからないッスけれど、何だか見てるといやな感じがするそれは地面から20センチ程昇ると消えていったッスけど……嫌な予感がしてきたッス。

 そんなことを思っていると、砦の1階部分から悲鳴が聞こえてきたッス。


『テメェ! いい加減イライラするんだよ!!』

『んだとぉ!? そういうお前こそ、その体型を何とかしろってんだ!!』

『アンタなにこっちの彼氏取ってんのよ!?』

『はぁ? あの人はあんたなんて嫌いだって言ってたわよぉ?!』

『グルァァァァアアアァァァァーーッ!!』

『キシャーーーーーー!!』


 色んな罵声が1階から聞こえて、同時に殴り合う音やら武器をぶつけ合う音、それに混じって悲鳴とかが色々と聞こえてきたッス。


「い、いったいなんなんッスかっ!? パ、パイセン逃げましょうッス! ……パイセン?」

「お前なぁ……パイセンパイセン、いい加減うっとおしいんだよ。いい加減にしろよ――なっ!!」

「うげっ!? な、何をするんッスか、パイセン?!」


 殴られた。じぶん何もしていないはずなのに、本気でパイセンに殴られたッス! どうしたんッスか!? いったい、何があったんッスか!?

 というか、パイセンのじぶんを見る目に何時もの優しさが篭っていないッス! 何というか、養豚場の鶏を見るような目をしてるッス!!

 じぶんでも何言ってるか分からないッスけど、何だかそんな気分ッス!!


「って、何しようとしてるッスか、パイセン……?」

「パイセンって呼ぶのをやめろって言ってたよなぁ? なのにまた言ったんだから、殴るだけじゃダメだよなあ?」

「で、でもそれはやばいッスよ!? 死ぬ、死ぬッス!!」


 じぶんは必死にパイセンに向けて叫ぶッス。何故ならパイセンは腰に下げているけれど基本的に使うつもりはないお飾りの剣をじぶんに向けてたッス。

 だから、じぶん必死に止めるように叫んだッス。

 けどパイセンはそんなじぶんの叫びをウザそうに見ながら、剣を振り下ろしたッス!


「う、うわぁっ!!?」

「ちっ、何避けてやがんだよ? 大人しく、殺されろよ……」

「いっ、いやッスよ! てか、本当にどうしたんッスかパイセン!?」


 舌打ちをしながら、じぶんを見るパイセンに恐怖を抱きながら叫んだけれど、パイセンはじぶんの問い掛けに返事をせずに剣を構え直して、今度こそ殺すために近づいてきたッス。

 そこで漸くじぶんも危険だということを理解して、一目散に逃げ出したッス。

 とは言っても、腰が抜けててよたよたと四つん這いになりながら……っていう情けない姿ッスけどね……。

 そんなじぶんをパイセンは剣を振りながら追って来るッス。死ぬ、止まったら殺されるッス!!

 だからじぶんは必死に四つん這いになりながらも逃げたッス。そして漸くじぶんたちがいる監視用の屋上の出入り口まで辿り着いたッス。


「な、何で開かないッスかっ!? ナンデ!?」

「馬鹿だろ、タダノモーブ。こういう屋上は空からの奇襲を受けやすいんだ。だから、持ち回りで鍵を閉めるのがこの砦の決まりだっただろう? そして、鍵はここにある」

「ひっ、ひぃぃぃっ!!」


 鍵を見せ付けるパイセンを見ながら、じぶんは女みたいな悲鳴を上げながら死を覚悟したッス。

 だって、目の前でパイセンは剣を振り上げてるんッスよ! こうなったら、じぶん真っ二つッスから!!


「死ねぇ!!」

「だ、誰か助けてぇぇぇ!!」


 情けない声を上げながら両腕で頭を抱えるじぶんだったけれど、何時まで経っても斬られる痛みが来なかったッス。

 恐る恐る目を開けると……、自分の目の前に金色に輝く尻尾が見えたッス。

 え、何スかこれ?


「はあ……、騒動を聞きつけて入ったのはいいけど……まさかこんな場面に出くわすなんて思ってもみませんでしたよ」


 そして、じぶんは耳が蕩けるような素晴らしい声を聞いたッス。

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