神が持つ異世界人への印象
「ちょっと待って! 元々はそこで簀巻きになっている神様がちゃんと仕事をしていなかったからヒカリちゃんはこの世界に落ちたのよね? それなのに、一方的にこの世界にいる限り死ぬことは出来ないとか言われたくないはずよ!?」
何も言えないボクの身体を強く抱き締め、神様たちに向けてルーナ姉が怒鳴り声を上げてきた。
突然の行動に驚き、抱き締められて顔を胸に埋められたボクはふがふがと胸元から顔を上げつつルーナ姉を見た。
「ル、ルーナ姉……」
「それなのに死ぬことも出来ないとか、聞いてるとまるで魂だけ来たなら良かったみたいにも聞こえるわよ?! ヒカリちゃんは何も悪いことをしていないじゃないの!!」
「そうですね……。少し過敏になっていたかも知れません。ですが……その称号を持ってしまった時点で、いえ元々の身体でこの世界に来てしまった時点で私たち神々からは祝福することも見守ることも出来ません。はぁ…………あのときは優良物件のおまけと思っていましたが、こんな隠し玉を持っていたなんて……」
怒るルーナ姉を他所に、漸く蓑虫から羽化した人間の神はボクらを見てきた。
……先程までと打って変わっての威圧感を感じたからか、ボクはドキリとしてしまった。いや、驚いたのはボクだけじゃないのか、ルーナ姉がボクを抱き締めるのに力が篭った。
というか優良物件って何さ、というか残念な神に残念な人のような扱いをされたくないんだけど?
「人間の神、怯えてる怯えてるってば。ごめんねー、肉体ごとの異世界人ってぼくらにとっては最悪なものだからさー」
「さ、最悪? さっき言ってた魔族の神と関係があるとか……?」
「あ、覚えてたんだねー♪ ずっと昔にね、魔族の神が不手際で一度だけきみと同じように異世界から人間をそのまま連れて来ちゃったんだよねー……」
「昔なのであまり覚えていませんが……千年以上前、でしたっけ?」
「うん、確かそのはずだよねー。あの頃、ぼくは若かったなー……若木だったし」
千年以上前、そんな長い時間をボクよりも前に来た異世界人は過ごしている……?
それも同じ称号を持っていると思うから今も生きてる?
驚くボクだったけれど、魔族の神と言う言葉に反応していたロンたちのほうが強い反応を見せていた。
「……待て、千年以上前から存在する者だと? まさか……」
「そ、そんなわけねーだろ? というか、オレたちでさえ見たこともねーんだしよ」
「でも千年なんて異常な年月を生きてるだなんて非常識すぎるけど、そう考えたほうが……」
「まおー、……さま?」
……は? まおーさま? 魔王、様?
どうしてその発想に至るんだろうかと悩んでいると、人間の神たちが首を縦に振ってきた。
どうやら正解みたいだった……え?
「ええ、その異世界人は今は魔王となっています。で、何をトチ狂ったのか分かりませんが……数年前から突然、魔族を使って他の国を支配しようなんて企み始めていますし……」
「はあ…………――って、本当に異世界人が魔王なんてやってるのっ!?」
驚きながらそうツッコミを入れると、苦笑しながら神たちはこちらを見た。
えーっと、その視線って……つまり、ボクも魔王になったりとかするんじゃないかとか言う不安を抱えてるから、そんな嫌な顔をしてる?
そう心で思っているとボクを抱き締めるルーナ姉の力が強くなったのを感じた。……不安にさせてしまってたみたいかな。
「ねえ……ルーナ姉も、ボクが魔王とかみたいな感じに人族の敵になるって思ってる?」
「えっ? そんなわけないって……、信じてるわ」
「うん、だったら……ボクはならないと思う。だってボクは一人じゃないし……ルーナ姉やシターだっている。それに、ライトだってそう望んでるはずだから」
ボクはそう言いながら、きっと魔王となっている人はひとりだったんだろうと心で思っていた。
そんなことを考えているとパンパンと手を叩く音がリビングに響いた。
音がした方向を見ると……アリスが発信源だった。
「はいはい、一度魔王とか転移者とかの話は向こうに置いておいて、人間の神を連れて来た当初の目的を思い出してみようか?」
「当初の目的ですか?」
アリスの問いかけに人間の神は首を傾げた。
……えっと、確か当初の目的って言うと……スペアボディがどうとか言ってたよね?
そう思っていると、人間の神の呟きにアリスが頷いていた。
「そうそう」
「……何でしたっけ?」
「人間の神……、貴女は引き篭もり生活で色々と駄目になりすぎたのですか?」
「じょ、冗談! 冗談だってば!! 女神ジョーク、女神ジョークよ!! 地下に眠るアリスさんの新しい身体の作成ですよね?」
頷いたアリスへの返答として、人間の神はまるでテヘペロといった感じに可愛らしいポーズを取っていたけれど……火に油を注ぐようなものだった。
その結果、笑みを浮かべているけれど目が笑っていない獣人の神に土下座する勢いで謝ると虚空からマネキンのような物を取り出してきた。
……というよりも、完璧マネキンだった。それも、人の形をしているだけで顔ものっぺらぼうで、男性なのか女性なのかも分からないデザインの。
「……人間の神、これは何ですか?」
「えーっと……マ、マネキン? って、ああっ! 拳握らないで拳握らないでぇ!!」
青筋を立てながら笑みを浮かべる獣人の神に、人間の神は気まずそうに答えていた。
そしたら予想通りに、拳が持ち上がったために人間の神は頭を庇う仕草をした。
「もう一度聞きます。これは何ですか?」
「これはですね、引き篭もってアリスさんのスペアボディを創っていましたけれど……どうせなら、もう色々と悪ふざけをしようって思った結果で――もぐあっ!?」
「貴女と話すともう色々と疲れるので、少し……黙っていましょうか」
獣人の神も我慢の限界だったらしく、人間の神を殴りつけ昏倒させると人間の神が出したマネキンを手に取ると地下に向けて歩き出した。
とりあえず、その後にボクたちも付いて行くことにしたけれど、ボクは人形をマジマジと見つめていた。
……うん、本当にマネキン。だよね……あ、それっぽい人形って昔漫画で見たことがあるかも。
そんなことを考えていると、ついさっきボクが倒れたアリスとあにきが居る魔方陣のある部屋へと辿り着いた。
……いったいどんなことが起きるのだろう? そんな疑問を抱きながらボクは成り行きを見ていた。
雪が振ってきて、かなりやばいので毎日更新が無理になるかも知れません。
あと、かなり話が頭の中でこんがらがってきてるかも……。