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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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ヒカリとの出会い・中編

 おもいでテレビと呼ばれた翼人の島製のアイテムに映像が映り出し、彼らはそれに目を向けた。

 今日一日の仕事を終えたのか、ライトとルーナの2人が何処かに向けて暗い路地を歩いていた。

 しかし、そんな彼らの前へと外套を羽織った小柄な人物が姿を現し……警戒する様子が窺われた。


「ゆうしゃライト?」

「あ、ああ、そうだけど……きみは?」

「名乗る必要は無い。……死ね」

「ッ!? ライくん!」


 感情が見えない瞳で2人を見ていた人物は淡々とそう告げると、剣を抜き一気に駆け出してきた。

 突然のことで驚いたライトとルーナであったが、何とか即座に対処することが出来たらしく鉄と鉄がぶつかり合う音が周囲に響き渡った。


「くっ! 見た目が小さいのに、なんて重い攻撃なんだ……!」

「受けられた……。だったら、もっと強く」

「ライくん、避けて! 彼の者を吹き飛ばせ、《突風》!」


 淡々とそう呟く襲撃者は、ライトを見るともう一度剣を構えて剣を振り上げて一気に距離を詰めると同時に振り下ろそうとした。

 けれどそれよりも早くルーナの呪文詠唱が終わり、ライトが後ろに下がったと同時に強い風が一直線に吹き抜け、襲撃者を吹き飛ばした。

 襲撃者の身体は地面をバウンドし……そのまま転がり、衝撃によって動けないとしか思えなかった。

 だが、襲撃者は痛みが無いとでも言うかのようにフラリと身体を揺らしながら、ゆっくりと身体を起こした。

 そのとき、襲撃者の身に纏っていた外套がパサリと落ち、襲撃者の正体が月の下で露わとなった。

 この辺りでは見かけないような顔立ち、ボサボサに伸び切った色素の薄い髪、ボロボロの服がほんの少しだけ隠す身体は女性特有のもの……。


「え? ぼくと同じくらいの、女の子?」


 その姿を見て、ライトは戸惑った声を上げたがそれに気づいたルーナから叱咤の声が飛んできた。


「……気をつけてライくん。この子、痛みを全く感じて居ないようにしか思えないわ」

「あ、ああ……わか――くっ!?」


 そして、彼女の言葉が間違っていないことを告げるかのように、少女は不自然な方向に曲がっている腕を振り上げて、ライトへと剣を振り下ろしてきた。

 振り下ろした剣をライトは自らの剣で受けたが、直後襲撃者の少女の曲がった腕からはゴキゴキと骨が折れるのではないか……いや下手をすれば折れているかも知れないような音がした。

 聞こえた音にライトは驚きが隠せなかったが、このまま呆然としていたら自分の命は無いと理解しているのか即座に受けていた攻撃を剣の角度を変えることで少女の腕にも負担をかけないようにしつつ攻撃をいなしていた。


「ルーナさん! どうすれば、この子を殺さずに無力化出来ますか!?」

「ごめんなさい、わたしにも分からないわ。けど、彼女の様子を見る限り盗賊ギルドで特殊な訓練を受けているのか意思が薄いように見えるわ!」


 ライトの問い掛けにルーナが答えるが、どうにも出来ないことが分かるだけだった。

 けれど、剣同士がぶつかることで放たれた金属が打ち合う音が周囲に響いていたからか、人が集まり始める気配が感じられた。

 人が多くなれば暗殺も無理だろう。そう考えているのか、ライトは少女の剣戟を刀身をずらすことで回避していた。

 けれど、少女は振り下ろした剣を捌かれようとも淡々と動き続け……力を込めるだけ込めた一撃を放つばかりだった。

 しかも、筋肉も彼女が引き出せる力以上の力を出しているからか、身体から血が滲み始めているのだが少女は痛いも何も言わなかった。

 ただ与えられた役割を淡々とこなすだけなのだから。


「くっ! もう止めるんだ! キミは襲撃に失敗した。暗殺は不可能だ! それに人もやって来るぞ?!」

「関係無い、ボクはゆうしゃライトを殺すだけ」

「ライくん! 説得は無理よ! それに様子からして彼女の所属する盗賊ギルドは彼女を使い捨てるつもりだわ!」

「やるしか……無いのかっ!? いや、やらないとぼくが危険になってしまう……けど、ぼくに人を斬れるのか?」


 ルーナの声を聞きながら、ライトは自身の危機にも関わらず必死に悩み始める。

 しかし、その一瞬が隙となってしまった。


「死ね」

「しま――っ!!?」

「ライくんっ!? 彼の者を燃やせ、《火柱》!!」


 死神の如き一閃がライトの心臓へと打ち込まれようとした。

 だがそれよりも先に、ルーナが詠唱し切っていない状態で魔法を発動させた。

 けれど、不完全で発動させた魔法は一瞬明るい炎をライトたちの前で燃え上がらせたが、すぐに揺らめいて消えてしまった。

 そしてライトは何とか抵抗しようと試み、ルーナは両手で顔を覆っていた。……だが、何時まで経っても、ライトの胸へと剣は近づいて来なかった。

 どういう訳かと不思議も思っていると、カランと金属が地面に落ちる音が響き渡った。


「……え?」

「あ、ああ……あああ…………」


 ライトは見た。自らの正面で、剣を構えていた襲撃者の少女の手から剣が零れ落ちるのを。

 そして、今まで見られなかった感情を揺さぶられているとしか思えない瞳とそこから流す涙を……。

 いったいどうしたのかと疑問に思いながらも、少女の顔を見ているとルーナから声が届いた。


「どうしたのかは分からないけど……ライくん! 今の内に気絶でも何でもして、動けなくして!!」

「っ! は、はいっ!! ――ごめん!!」

「う――っ!?」


 ルーナの言葉に焦りながらも、素早く少女に接近すると素早く顎を殴り付けた。

 無防備な状態で顎に受けた一撃は脳を揺さぶったらしく、少女の口から呻き声が洩れたがすぐに意識を失ったのか、ライトの胸へと倒れていった。

 それを見て、2人はホッと安心しつつ……人が集まり出したために急いでその場を後にした。


「とりあえず、その子を診療所に連れて行って治療してもらいましょ? それで良いかしら、ライくん?」

「はい、お願いします。ルーナさん」


 そう言うと、ライトは少女を抱え直してルーナの案内で診療所に向けて移動を開始したのだった。

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