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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
時狂いの章
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ヒカリの記憶・後編

「ひかりんさ~、な~んか付き合い悪くね~?」

「……え? そ、そんなことないよ?」

「じゃあ、何でいっしょに食べないかなぁ?」

「えっと、その……ゴメン」


 あにきの葬式を終えてから一ヶ月ほど経ったある日の昼休み、ボクはまだ騒ぎたいとかそんな気分にはなれず1人で購買で買ったパンを昼食として食べていた。

 あにきが死んだのをまだ受け止めきれないのか、お母さんは未だ借りたマンションの一室に篭り……ボクは食事はコンビニや出前といった物ばかりを食べていた。ちなみにお父さんも仕事をして忘れようとしているのか、マンションに帰ってくる様子が見られない。

 そして、ボクもあにきが死んだのを受け入れられなかったのか、心にぽっかりと穴が開いてる気分だった。

 それをわかっているのかわかっていないのか、ボクの前で機嫌を悪そうにしている友人2人に謝る。

 ボクのその反応が予想と違っていたのか、友人たちは驚いた顔をしたが……茶化すように笑いかけた。


「いや、い~ってい~って! けどさ~、何処か気晴らしにパ~ッと遊びにいかね~?」

「それ良いね! けどさ、お金ないじゃん」

「ってことでさ、ひかり~ん。お金たっぷり入ったんだからさ、奢ってよ~♪」

「え? ボ、ボクお金なんて……」

「え~? あるじゃん、ひかりん今金持ちっしょ~? だって――」


 冗談で言ってるのか本気で言ってるのか判らないけれど、2人が軽い感じにそれを口にした瞬間――。

 ――ボクは固まった。


「ひかりんのキモイアニキが死んで、保険金がたっぷり入ったんだしさ~」

「――――ッッ!!」

「あ、そういえばそうだったね。人って死んだら、お金がたんまり入るんだったよねー」


 保険金とかはお父さんとお母さんが色々やっているのだから、実際どうなのかはボクにはわからない。

 だけど、それを言うよりも先にボクは……2人を力いっぱい突き飛ばしていた。

 突然のことだったからか、2人は受身を取ることが出来ずに屋上の床でお尻を打っていた。


「った~~!! 何すんのよひかりん!」

「元気付けようって思ってるのに何よその態度は!」

「だったら……だったら、そんなこと……言わないでよ!!」


 苛立ちながら文句を言ってくる2人にボクは悲鳴のように叫んでいた。


「何で? 何でそんなことを言うのさ!? ボクを元気付けようって思うなら、そんなこと言わないでよ!!

 あにきが死んじゃって悲しいんだよ? なのに、慰めの言葉も無かったら、それで入ったお金で騒ごう?! バカじゃないの!? 何でそっとしてくれないんだよ!!」

「はぁ? なにムキになってんのさ? 何かキショいんですけど?」

「つ~かさ、突き飛ばしたこっちに謝罪は~?」

「知るかバカ!!」


 そこからは口汚い言葉が口から吐き出されながら、髪を引っ張り頬を引っ掻きといった具合の手が出始めていった。

 本当は分かってる。少しバカみたいな口調とかしてる2人だけど根は優しいんだから、早く立ち直って欲しくてこんなことを言ったんだと。

 けど我慢出来なかった。ボクを助けてくれたあにきの死が穢される。そんな気がしたのかも知れない。

 だからボクも意固地になっていた。でも、時間を置いて……仲直り出来たら良いとも思った。

 けれど、その機会は永遠に訪れなくなった。


「いい加減――放しなさいってば!!」

「あ~もう、痛いって言ってるでしょ~!!」


 2人が同時にボクを押し、ボクの身体はフェンスにぶつかった。

 ……普通なら、フェンスに弾かれてボクの身体は屋上の床に倒れて、掌と膝を擦りむくだけ……そのはずだった。

 直後、ガコッという音が耳に聞こえた瞬間――唐突に背中が軽くなり、視界から2人の姿が消えて空一色となった。


「――――――え?」


 いったい何が起きたの?

 え? なに、どういう……こと?

 そう思った直後、身体が一気に地面へと引き摺られていくのを感じながら――地面に落ちて…………。


 ●


 どうしようどうしようどうしよう!

 そんなつもりなかった。そんなつもりなかったのに!!

 何で? 何でフェンスが外れるわけ!?

 混乱する頭を必死に動かし、同じようにガチガチと歯を鳴らす友人とフェンスが設置されていた場所を見る。

 でもそこには……フェンスは無かった。というか、何で外れるわけ!?


「ね、ねえ……ど、どうしよう~?」

「しっ、知らないわよ!! うちらそんなつもり無かったのに!!」

「だ……だよね~? こ、このまま誰にも言わずに逃げる?」

「ムリだよ! だって、うちらケンカしてるところ見られてるでしょ!?」

「そ、そうだよね~……」


 元々語尾が延びた口調だというのはわかるけど、今のこの状況だとイライラする!

 それを必死に押さえながら、どうするか必死に頭を巡らせるけど……何も浮かばない。

 ああくそっ! そもそもひかりんが怒らなかったらこんなことには……!!

 いや、こっちも悪いこと言ってたかもって思うけど……って、何か腕引かれてるし。


「……どうしたの?」

「う、うん……、ひ、ひかりん……大丈夫かな~って……」

「っ! そ、そう……だよね。大丈夫、だったら良いけど…………」

「だ、だから……見ようよ」


 恐る恐る言うのを聞いて、こくりと首を振ると身体を震わせながらフェンスが外れた場所から顔を覗かせた。

 きっと地面には、血塗れのひかりんの姿が……そう思うと怖くてたまらない。

 でも、見ないと……。

 そう思いながら、ギュッと閉じた目をゆっくりと開いた。


「「え?」」


 どっちが声を漏らしたのかは判らない。けど、もしかしたら同時にかも知れない。

 だってそうだよね?

 開けた目には、落ちたフェンスは見えた。音に驚いて近づいてくる人の姿も見えた。

 だけど、真っ赤な色をした血は無かった。それどころか……。


「ね、ねえ? ひかりん、何処に行ったの~?」

「わ、わかんないよ……」


 戸惑いながら問い掛ける言葉に同じように戸惑いながら返事をする。

 だって……、ひかりんの姿が何処にも無かったから。

 3階から落ちたのに、何で……居ないの?

 そして、その日を境にひかりんは姿を消した。


 ……ひかりん、何処に行ったの?

あきらひかり→ひかりん。

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