襲来
「という感じだったんだが……、大丈夫か?」
「え、えっと……少し、頭がこんがらがって居ると思います……」
数度目のお茶をお代わりして、話を終えたティアの言葉にワタシは頭を抱えています。
隣を見ればルーナ、ヒカリ、シター、フォードくんたちも同じように頭を抱えて……あ、シターはかなり混乱しているみたいですね。
まあ、正直言って混乱しないほうがおかしいですよね。
だって、魔族に襲われている街を助けた挙句、神使と友好関係を気づいて魔族によって変貌を遂げた世界樹と神様の写し身を倒した? ティーガやクロウを……元四天王を倒したということだけでも、混乱するというのに神様を倒しただなんて……。
そんな風にワタシが混乱していると、ルーナたちがロンさんたちに躊躇いながら話しかけてきました。
「え、えーっと……、そのアリスさんが何かをして、獣人とか魚人みたいな姿をしているけど……あなたたち4人は魔族、ってことで良いのかしら?」
「そうだ。それと言葉を選ばなくても構わない。シャーグ殿も自分たちが魔族だというのは承知しているし、暴れることも無いから安心してほしい」
「そ、そうなのですか? そ、そういえばロン様がシター……と言うよりもヒカリ様を見て無事だったか、と言ったのは魔族としての姿で会っていた。ということで良いのでしょうか?」
ルーナの問い掛けにあっさりと答え、矢継ぎ早でシターが市場で会った時の発言を思い出して、問い掛けていました。
あ、そういえば……。何だか安心、していましたよね。
そう思っていると、少しばかり困ったような様子をしていたロンさんですが……ズボンの中に入れた荷物からある物を取り出しました。
「人間の国が、自分たちの国に攻め入ったときに、自分は囮となっている部隊に参加していた。その際に貴殿らに出会った。これはアリスに魔族の姿を移されたヘンシンアイテムとかいう物なのだが、こんな姿で会っていた」
「変身アイテムって、ヒーロー――ああーーーーっっ!!」
「あ、あら? この姿って……」
「確か……」
取り出された師匠が作ったというヘンシンアイテムという物は木札のようでしたが、そこにはドラゴン系魔族であろう姿をした絵が描かれており……その絵はまるで生きているかのように繊細に描かれて居ました。
その姿を見た瞬間、ヒカリたちは指を指して大声を出していましたが……思い当たることがあったんでしょうね。
そう思っていると、何とも言えない表情を3人はしていました。
「あのときは済まなかったな。一応、そのときの今の四天王の命令に従わざる終えなかったのでな」
「なるほど……ね。仕方なかったと言えば仕方ないって思っておくことにしたげる。戦争だったからね」
「そうか。感謝する」
ヒカリはまだ何か言いたそうでしたが、ロンさんが頭を下げたのを見て言わないようにしていました。
ちなみに何があったのかと聞くと、ルーナとシターが性的にピンチだった戦いが戦争中にあったと聞いて、あのボロボロの姿で戻ってきたときだとワタシは思い出しました。
ですが、そのときにロンさんと会っていたのですね。
そう思いながら、話を聞いていて少し頭が楽になってきたのを感じて、ワタシは聞くことにしました。
「それで、ティア……。師匠は何処に行ったんですか?」
「すまない……今は、あたしたちにもわからないんだ。最後に会ったのは、あたしたちが魚人の国に、アリスが魔族の国に向かうために別れたのが最後だった。だから、今はわからない……」
騒動を終えたティアたちは魚人の国へと移動し、このギルドで色々と話をして今に至るようでした。
ですが、話だけ聞くと楽に思えますが……ほんの短い期間でここまで上り詰めるのは並大抵の努力じゃないとワタシは理解出来ました。
まあ、実力と武器の強さもあったりするでしょうけど……。
「師匠の行方を知りたいなら、魔族の国に向かうしかない……ってことですか……」
「そうだと思うが、それは止めておいたほうが良いだろうな」
ポツリと呟いたワタシへとロンさんがそう言います。
どうしてかと思っていると……。
「行った場合、現在の魔族は四天王がロクでもない人物ばかりだから、他種族を見ると捕えることを苦にも思わないだろう。下手をすれば奴隷か……または」
「あたしみたい……いや、あたしよりも酷いことになるだろうな……」
「ティアー……、大丈夫ー?」
「ああ、大丈夫だよ。フィーン……心配してくれてありがとう」
……そうでしたね。ティアは師匠に何とかしてもらってはいますが……一度魔族にされかけた結果、エルフでも魔族でもない存在になってしまったのでしたね。
そんな風に思っていると、ティアが悲しい表情をしているということに気づいたフィーンちゃんが心配そうな顔で彼女を見ていました。
けれど、ティアはそんな彼女へと笑いかけて、頭を撫でていました。……なんだか姉妹みたいですよね。まるでワタシと師匠みたいな……ん、今何処かから違うと言う声が聞こえた気がしますが、気のせいにしておきましょう。
そう思っているとルーナとシター、それとフェニさんがピクリと何かに反応しました。
どうしたのかと思っていると……。
「皆、気をつけて。何だか強い魔力が感じられるわ」
「それも、すぐ近くですっ!」
「すぐに戦える準備はしておいて!」
「って、皆ッ! 何か武器が置かれたテーブルが変だッ!!」
フォードくんの声にハッとして武器が置かれたままだったテーブルを見ると、小さな黒い渦が渦巻いていました。
目の前の光景に呆気に取られていると、渦から何かが落ちてきました。
それを見て、ティアたちは驚いているのか目を見開いており、ヒカリも驚いていました。
落ちてきたその、白くてフワフワとした赤い目の動物らしき物に……。
「う、兎っ!? え、な……なんでっ!?」
『『ワ、ワンダーランド!?』』
『え?』
うさぎ? わんだーらんど?
「――って、それって師匠が使っているって言う武器の名前じゃあ?」
ですが、これって……生きてます……よね?
驚くワタシでしたが、驚いているのかティアは返事をしてくれません。
「ワンダーランド! どうしたんだっ? アリスは? アリスは無事なのか!?」
――ブウブウ。
「ごめん、わからない!」
「ティアー、ワンダーランドは付いて来いって言ってるよー?」
「何?」
――ブウブウブウ!
驚くティアは、小さいワンダーランドと会話をしようとしているようでしたが、無理だった様です。
ワタシも何を言ってるかは理解出来ませんでした。ですが、フィーンちゃんはわかっているらしく、ワタシたちに通訳してくれます。
それにしても、……付いて来い?
疑問に思っていると、話を聞いているフィーンちゃんがうんうんと頷いていました。
そして、会話が終わったのか、ワタシたちを見ました。
「えっとねー、時間が無いからもう無理矢理連れて行く。だってー♪」
『『え”っ?』』
――ブウ!!
フィーンちゃんの言葉と共に、ワンダーランドがひと鳴きしました。すると、ワンダーランドが出てきた渦の様な何かが広がり、ワタシたちを捕まえました。
そして、悲鳴を上げる暇も無く……ワタシたちは渦へと押し込まれて行きました。
「な、何だったんだぁ……?」
一人取り残されたシャーグさんは呆気に取られながら、そう呟きましたが……返事を返してくれる人はそこには居ませんでした。