見た目の相違
「まず初めに……、あたしたちとキミたちの知っている『アリス』の印象を話し合ってみることから始めようか」
椅子に座ったワタシたちを見ながら、ティアさんはそう言います。
まあ、そう……ですよね。名前が同じだけど別人だったという悲しい結末なんてイヤですからね。
ですが……。
「あの、3年の年月があるので、当時の印象しか語れませんが……大丈夫でしょうか?」
「ああ……それもあったか……まあ、大丈夫だと思いたい」
「わかりました。では……、ワタシたちが出会ったときの師匠は14歳で、小柄な身長でお人形みたいで、性格は傍若無人な感じかオドオドとした震えた子犬みたいな感じでした。後は……、長い金髪と綺麗な碧眼ですね」
「そうか……、ではあたしたちが出会ったアリスの特徴を言わせて貰うが……その前に聞きたいんだけど。キミたちと共に居たアリスはどの種族だったんだい?」
「種族、ですか? えっと、『人間』……ですが、それがどうかしたのでしょうか?」
どうしたのでしょうか? 不思議に思いながらそう答えると、ティアさんは驚いた表情をして……すぐに気まずそうな顔をし始めました。
えっと……、まさか……?
「名前が同じの人違い……だったりするのでしょうか?」
「えっと……どうなのかはわからないけれど……、気を落とさずに聞いて欲しい。初めに、あたしが出会ったアリスは『狐系の獣人』だった」
「え……」
じゅ、獣……人? ワタシと同じ獣人、ですか……?
更に驚くことに、困惑するワタシにティアさんは続けて言います。身長も小柄ではなく、不貞腐れているフェニさんよりも少し高いようで、胸とかお尻とかも出ているところは出ている……所謂グラマラスボディということでした。
そして、性格も傍若無人ではないけれど、人見知りでもない……当たり障りの無い普通な性格とのことです。
その言葉に、ワタシは混乱するばかりでした。というか、全く想像がつきません! おっぱいが大きくて、妖艶な雰囲気を醸し出す師匠? 何ですかそれは!?
「とりあえず、あたしが知り合った『アリス』はそんな感じだったんだが……大丈夫か?」
「は、はい……えっと、大丈夫……です」
「いや、そうは見えないけど……。まあ、色々と驚くことになったんだから当たり前か……」
心配そうにワタシを見るティアさんですが、ワタシ自身まだ理解が追いついていません。
本当に、その『アリス』は師匠だったのでしょうか?
そう思っていた時、別のほうから『アリス』が同一人物であると言う証言が飛んできました。
「サリー、アリスはアリスだよー? ただちょっと中身が別のところに入ってるだけだからー」
「えっと?」
「詳しくは知らない。けれど、自分たちが知るアリスと貴方たちが知るアリス。それは同一だと判断する。何故なら師しょ――魔族の元四天王を倒したと言っていたのだから」
「え……、じゃあ、師匠?」
飲み物を飲みながらフィーンちゃんがそう言いますが、上手く理解出来ません。
ですが、ロンさんが口にした魔族の元四天王を倒したという証言。それは紛れも無く、ティアさんたちが知る『アリス』が師匠本人である証拠でした。
その言葉を聞いていると、呆れたようにタイガくんが溜息を吐きました。
「つーかさー、創ってもらった武器があるなら出して見せ合えば本人か判んだろ?」
「あ、そ……そう、ですよね」
タイガくんの言葉でハッとして、それに気づけなかったことに少しだけ恥かしがりながら、ワタシは腰に差したナイフを取り出し、フォードくんも剣を取り出しました。
すると、同じようにロンさんたちも武器を出しました。
ロンさんが槍を、トールちゃんが盾を前へと出しました。それに、フェニさんの杖はもう見たのでもう知っています。
そう思っていると、言い出しっぺだからか少し不機嫌そうにタイガくんも赤と金の手甲を前に出しました。
「……少し、荒削りな感じですが……ワタシのナイフやフォードくんの剣と同じ、ですね」
「ほ、本当……ですね。じゃあ、やっぱりアリス本人ってことで良いのか?」
「だと思います」
そう言って、ワタシは頷きながらティアさんを見ます。
「どうやら、同一人物……ってことで良いみたい、だな」
「はい。それで……ティアさん、師匠とはいったい何があったんですか?」
どういった関係かと聞くよりも、何があったかと聞くのは酷いとは思います。ですが、師匠が絡んだ人物だったら碌なことにもなっていないでしょうし……。
そんな風に思いながら訊ねると、やっぱりティアさんも師匠の特性というか……厄介な性質というか……そういうものに巻き込まれたらしく、苦笑しつつも遠い目をしていました。
「あー……うん、やっぱりそういう風に思ってしまうか……。まあ、サリーもアリスと関わっていたのだから当たり前か。それと、さんは付けなくても良いから」
「は、はい。わかりました、ティア。……それで、何があったんですか?」
「少し話が長くなるけれど、別に良いかな?」
そう言いながら、ティアはシャーグさんをチラリと見ました。まるで何かの許可を取るみたいな感じに見えますね。
対するシャーグさんはわかっているらしく、大きく頷いています。
それを見てから、ワタシも返事をすることにしました。
「はい、構いませんよ」
「ありがとう。じゃあ、まずは聞くけど……森の国の事件は知っているかな?」
「森の国の事件、ですか? まあ、一応は……」
エルフの吟遊詩人が酒場で歌っているのを聞いただけですが、確か魔族によって森の国が絶体絶命の危機に陥ったけれど、金色の髪を靡かせた見たことも無い衣装を纏った獣人が全てを薙ぎ払ったという物語。でしたよね……ん? 金色の獣人??
ギギギッとゆっくりと首を動かしつつ、ティアを見ます。その視線に気づいたらしく、頷いてきました。
……ああ、やっぱり。
「とりあえず、それを前提に聞いて欲しい……。あたしたちにあったことを」
そう言って、ティアは森の国で起きた出来事を語り始めました。
気づけば、300話行ってました。
これからも頑張っていきます。