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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
302/496

唐突の来客

「よしっと……、こんなものでしょうか?」


 そう呟きながら、ワタシは拠点内の部屋の西日が差し込む窓に取り付けたカーテンを見ながら満足気に頷きます。

 あの後、ワタシたちは拠点へと戻ったのですが……どうやら既に布屋に頼んだカーテンは届いていたらしく、入口の前に木箱が置かれていました。

 ちなみに無用心ではないかと思いましたが、多分この一帯はシャーグさんの息が掛かっていると考えたほうが良いと思うので……、勝手に中を見たり盗んだりしたら後が怖いと分かっているのでしょう。

 ボルフ小父さんや、ハスキー叔父さんとは違った感じのギルドマスターみたいですね。あの人……。

 そんな風に思っていると、下から香ばしい良い匂いが漂って来ました。


「そういえば、どんな料理を作るのでしょうね」


 というよりも、この国に流れてから何時の間にか料理担当がシターになっていたんですよね。気づいたら……。

 いえ、気づいたらですよ? 誰も料理が出来ないとか、酒の肴しか作れないとか、獣人料理しか基本作れない上に普通の料理を作ったら塩っ辛くなるとかそんな女性たちばかりじゃないんですよ?

 ただ単に、シターも役に立ちたいって言っていたので、料理を任せて……ごめんなさい、嘘です。食べれる料理の中で一番美味しかったのがシターの料理だったんです。

 それに段々と美味しくなっていったんですよ? シターの料理は! だったら、一任するに決まってるじゃないですか!!

 って、いったい誰に話してるんでしょうかワタシは……。

 そんな風に思いながら、ワタシは下へ通りて行きました。


「シター、晩御飯は出来ました……か……?」

「やあ、お邪魔させてもらっているよ?」


 意気揚々と食堂の扉を開けると、いったい何時拠点の中に入り込んでいたのか外套を纏った人物が軽く手を挙げて来ました。

 そして、その人の隣では先程ワタシにおばあちゃんと言ってきた女の子が、持参したらしい果物のジュースを飲んでいました。


「ぷはー、おいしー♪」

「え、えーっと……?」

「サリー様、もうすぐ出来ますから待ってくださ――あ、あれっ!? だ、誰ですかッ!?」


 ワタシが食堂に来たことに気づいたらしく、シターがキッチンから顔を出してきましたがワタシ以外の存在が食堂に座っているのに気づいて、驚いていました。

 ……どうやらシターも気づいていなかったみたいです。ワタシも感知出来ませんでしたし、目の前のこの人たち……いったい何者ですか?

 警戒を滲ませながら、ジッと2人を見ているとその視線に気づいたのか外套を羽織った……確か、女性ですよね? 声からしてそうでしたよね?


「ああ、あたしのことは気にしないで夕飯にしてくれて構わないよ?」

「い、いえ……そう言う訳では……」

「サリー? そんな所に突っ立ってどうし……あれ? さっきのあんたをおばあちゃんって言った子と……保護者?」

「どうしたの、ヒカリちゃん?」

「来客ですか?」


 ワタシの後ろから、同じようにお腹を空かせて降りてきた3人が居り……視線が一斉に外套の女性たちのほうへと向けられた。

 そして、椅子に座っていた女性と女の子でしたが……、女の子のほうが何かに気づいたようにこちらを振り向き、トテテとこちらへと近づいてきました。

 どうしたのかと思っていると……。


「わー♪ ワンダーランドのおばあちゃんだけじゃなくて、ご先祖様もいるー♪」

「え? ご、ご先祖様ぁ!?」

「フォード……、あんた何時の間に世代を幾つも交代したのさ……」

「フォードくん……、彼女も居ないのにどうやって子々孫々に語り継がれるようなことを……」

「フォード様……」


 嬉しそうに喜ぶ女の子を前にフォードくんは素っ頓狂な声をあげ、それを見ていたヒカリたちからは哀れみだったり侮蔑だったりと妙な感情が込められた視線が送られていました。

 まあ、フォードくんはすぐに否定し始めましたけどね。まったく、見苦しい……。


「……あれ? けど、その子……ワタシのことをおばあちゃんと言ったのに、フォードくんをおじいちゃんとかじゃなくてご先祖様って言ってますよね?」


 どういうことかと首を捻っていると、女性が説明を口にしてくれました。


「いや、フィーンはキミたちをおばあちゃんとか、ご先祖様とか言ったわけじゃないんだ」

「え? それはどういう……?」

「あーっと、つまりだな……。詳しく説明をするにも此処では無理だ。何しろ、あたし以外だけでは説明不足になってしまう」


 そう言うと、女性は椅子から立ち上がりました。


「だから、食事を終えたらで良いから、冒険者ギルドのほうに来てくれ。さ、フィーン。行くぞ」

「はーい♪ またねー♪」


 そして、言うだけ言って、2人はワタシたちの前を通って扉を開けて夕方の街へと消えていきました。

 それを見ながら、ワタシは……いえ、ワタシたちはそこはかとない予感を感じていました。


「もしかして、あの人たちが……?」

「……かもね」


 ポツリとワタシは呟き、それに誰かが返事を返すのを聞きながらワタシはキッチンからある臭いがするのに気づきました。


 ……その日の晩御飯は、黒くて苦い部分が多かった……。とだけ言っておきます。

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