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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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歳を気にするお年頃

 迫り来る火球を前に、ワタシは呆然としながらフェニ(?)さんの持つ杖に目を奪われていました。

 形は違うし、見た目もまるっきり違っている。

 けれど、ワタシが腰に差したナイフやフォードくんの剣に通ずる物が感じられていたため、どういうことなのか頭が追いついていません。


「サリーさんっ!!」

「「「サリーッ!!」」」

「――ッ!!」


 ですが、向こうから聞こえたフォードくんたちの声でようやくワタシはハッとして意識を取り戻します。

 けれど少し遅かったらしく、火球はジリジリとワタシの肌を照り付けて熱さを感じる距離まで近づいて来ていました。

 急いで避ける。その選択肢が頭に浮かびましたが……、このまま避けると危険な状況であるのに後ろで賭け事をしながらワタシたちの様子を見ているギャラリーたちに当たると判断し――素早く腰に差したナイフを掴むと素早く構えます。

 フェニ(?)さんは目が良いのか、ワタシが素早くナイフを構えたのに気づいたらしく、ワタシを小馬鹿にするような声が向こうから聞こえました。


「何? 抵抗する気なの? でも、ただのナイフでウチのトールを泣かせた怒りの炎は簡単に消え――はぁ!?」

「はあぁぁっ!」


 ですが、ワタシはその言葉を無視したままナイフを逆手に持つと、間近に迫って来ていた火球へとナイフを振り上げました。

 すると、火球は掻き消える……ではなく、バターを斬るようにスパッと切り裂かれて、宙で霧散しました。

 フェニ(?)さんの頭の中では火達磨になるワタシを想像していたようですが、そのような結果になったことに驚きが隠せないのか、目を見開いて口をポカーンと開けています。

 ですが……すぐに口に手を押さえて、頬を赤く染めつつもワタシを睨みつけて来ました。


「人攫いにしては、中々やるようね! けど、これならどう? 幾多の炎よ、彼の者を燃やし尽くせ! 《爆炎球》!!」


 先程の詠唱と違っていると思っていたワタシですが、答えはすぐに判明しました。

 何故なら、つい先程の《火球》は1つだけだったのに、今目の前で展開された《火球》は軽く見ても30は超えているようでした。しかも、名前が違っていましたし……確か《爆炎球》でしたっけ?

 つまり爆発するんでしょうか? そんな風にワタシは思っていました。

 そして、そこでようやくギャラリーたちも危険と判断したのか、ワタシたちの周囲から退避して……だいぶ距離を取りました。……って、まだ見物はするんですね。


「さあ、今度こそトールを攫おうとしたことを悔いながら死になさいっ!!」

「いけ! フェニー! 人攫いのおばさんなんて燃やし尽くしてしまえーー!!」

「……いえ、ですからもういい加減に違うってことに気づ――いま、何て言いました?」


 溜息を吐きながら、放たれようとする火球を前にワタシは愚痴っぽいことを口にします。

 ですが、フェニ(?)さんには聞こえていないみたいです。

 というか、自分たちが有利に立っているからか、タイガ(?)くんが元気にフェニ(?)さんの隣でそう言いました。


「おばさん、ですか……一度ならず二度までもおばさんと呼びますか……ふふ、ふふふ……」


 気づくとワタシは笑っていました。25ですよ? ワタシ、まだ25歳ですよ? ルーナよりも2歳は若いんですよ? それをおばさん、ですか……ふふふ。

 穏便に済まそうと思っていましたが……、やっぱり痛い目を見せないといけないみたい、ですね……。


「お、おいっ、サリーさんに何てことを言うんだよ! 今すぐ謝れって!!」

「はあ? 何言ってるんだよおっさん。オレなんにも悪いことをしてねーから謝らねーぜ!!」

「ふふふ、フォードくーん。こういう子には言葉で言うよりも、実力で示したほうが大人しくなるって師匠も言ってましたよねー?」

「いや、言ってない! 言ってませんから!! というか、それきっとサリーさんの妄想の中のアリスだから!!」

「え? 今、アリ、スって……。もしかし、て……フェ、フェニおねえちゃん。待って!」


 フォードくんが何かを訴えてきますが、ワタシにはそれが聞こえません。聞こえていますが、聞こえません。誰が何と言おうが聞こえないんです!!

 そして、何だかトール(?)ちゃんが止める声が聞こえましたが、彼女の声が届いていないのか無数の火球が先程よりも速い速度でワタシに向けて一気に放たれたのでした。

 火球が放たれたと同時に、ワタシは身体に雷を纏わせました。その直後、素早い速度で一気に向かってくる火球はまるで静止したかのように動きを止めますが、実際にはゆっくりと動いているようです。

 そのゆっくりと周りが動く世界でワタシは、両手に持ったナイフを振るい火球を切り裂いていきます。

 振り下ろし、振り上げ、縦に、横に、斜めにと様々な動作を行いながら、1つ1つ切り裂いて行きながらフェニ(?)さんへと突き進んでいきます。

 ゆっくりと表情が変わり始めて行くフェニ(?)さんを見ながら、彼女の目の前へと辿り着いたワタシはゆっくりと進む世界を段々と早めました。

 直後、連鎖的に爆発したのか火球……いえ、爆炎球は一斉に爆発して行きました。


「うっ、うそっ!? ウチの《火球》だけじゃなくて《爆炎球》も切り裂いた!?」

「マ、マジかよ!? 何だよ、このおばさん!!」

「ふふふ……だから、おばさんって言わないでくださいって言ってるじゃないですか? まだ25なんですからねー。ふふふ……」


 底冷えするような声でタイガ(?)くんにワタシはそう言いながら近づいてきます。

 そこでようやく、自分がかなりやばいことを言い続けていたということを理解したのか、顔を青くし始めました。

 大丈夫、大丈夫……少し、お仕置きするだけですからね? 痛くないですよー?

 微笑みながら近づいて行くと、タイガ(?)くんは脚をガクガクと振るわせ始めていました。これは、なんとも苛めがいがありs……いえ、なんでもないですなんでも。

 そんな風に近づいて行くと、不意に気配を感じたので本能に従うように後ろへと跳びました。

 直後、ワタシの直感は当たっていたらしく、ワタシとタイガ(?)くんの間に槍が突き立てられました。

 槍が投げられた方向を見ると、蛇の魚人だと思われる青年がそこには立っていました。そして、すたすたとこちらに近づき……地面に突き刺した槍を抜いて、こちらを見ます。


「っ!?」

「すまないが、これ以上はやめて貰おうか」

「「ロッ、ロンッ!!」」

「お前たち、トールを探しに行ったと思ったら、この有様は何だ?」

「こ、これは……その……そ、そう! あいつらがトールを攫おうとしていたからこうなったの!!」

「そ、そうだぜ! だから――」

「ちっ、違うの……っ! わた、し……攫われて、ない、のっ」


 青年も彼らの仲間なのか近づいた仏頂面の青年へと、2人がしどろもどろになりながら説明を行っていました。

 ですが、それを遮るかのようにトール(?)ちゃんが何時の間にか近づいて、少し大きめの声で攫われていないと言うことを言いました。

 その言葉に、青年がピクリと眉を動かすのが見えました。


「……なるほど、つまりはトールが攫われた。と勝手に勘違いをして、お前たちはこの人たちに喧嘩を売ったというわけだな?」

「え、えーっと……。タ、タイガがトールが攫われたって言うから、ウチも誤解したんよ!」

「うぇ!? ちょっ! フェ、フェニも乗り気だったじゃん! それに《火球》撃ち込んで駄目だったからって、《爆炎球》撃ってたじゃねーかよ!!」

「そ――それはっ!」


 ……えーっと、どういう状況なんでしょうか……これ。

 目の前の状況に苦笑しながら、ワタシは目の前の状況がひと段落するのを待つことにしました。

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