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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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夜遊び

 彼女が夜の農村を駆け抜け、山の入口に辿り着くとそこにはかがり火が焚かれていて、先走ろうとする者を抑えるためなのか自警団に所属していると思しき男性が2人寝ずの番をしていたわ。

 このまま普通にそこを通って行ったなら簡単に止められるだろうし、場合としては口論になりかねないだろうと考えた彼女はそこから少し移動して同じ山へと続くけれど、山から畑を荒らしに来る害獣対策として地面には高い丸太が突き刺されている場所の前に立ったの。

 普通、そこをよじ登って移動する人物は居ないだろうし、それをするくらいならちゃんと山道の入口に向かったほうが良い。村人はそう考えているからかその場所には見回りに来る人なんて誰も居なかったわ。そんな丸太で出来た外壁の前で彼女は足に力を込めると高々と跳び上がったわ。

 正直、跳び上がった先が崖とかだったら笑えなかったけどそう言うのは無いみたいで、丸太を少し越えるほどの高さまで跳んだ彼女は天辺の尖った部分を軽くトンと蹴るとそのまま山の中へと飛び込んで行ったわ。

 ちなみにもし見られていたとしても、酔っ払いの戯言とか子供の空想だと思われるに違いないことは確かでしょうね。だって、丸太の高さは獣人でもかなり厳しい高さだったもの。


「中央で分岐させている山って森で生い茂ってると思ってたけど、石ばかりで寂しい感じね」


 彼女は降り立った場所から山を見渡すと、偶に草が生えている以外は基本的には石や岩ばかりが多くある山だったわ。

 そこから少し下の辺りには農村から続くちゃんと均された山道が暗がりの中で薄っすらと見えていたわ。けれど、時間が時間だからか歩いている人は居なかったわ……まあ、魔物溜がある場所に好き好んで夜に行くわけが無いわね。

 けれど、明日になったら突貫工事として迂回路を造らないといけないだろうから、騒がしくなるかも知れなかったからやることは早くしたほうが良いと考えて、岩山を駆け抜けたわ。

 そこからしばらく歩くと下の山道に立て札が置かれているのに気がついて、彼女は下へと降りたの。


【この先、魔物溜発生地点。現在迂回路作成中】

「……なるほど、この先に魔物溜が出来てるのね。じゃあ行きますか」


 彼女はあっさりとそう呟くと、腰に差した剣をいつでも抜けるようにして山道を歩き始めたわ。

 しばらく進むと、突然周囲がぐにゃりと歪み始め……山の澄んだ空気が淀み始めたんだ。どんな感じかって? んー……真っ暗だけど星が綺麗だった山道だったのに、紫色の毒々しい霧が周囲を覆い隠して嫌な感じだね。

 そして、魔物溜の中に入ったことを察した彼女は周囲を見渡したんだけど、何も知らなかったときの彼女が初めて入った魔物溜と少し違っていたの。前に入ったときのは草原だったから変化が分からなかったのかも知れないけど……今は凄く良くわかっていたわ。

 だって、狭めだった山道が広がっていて相手が戦い易いように岩がごろごろと転がっているような少し斜面がある場所になっていたもの。

 瞬間、獣のグルルという唸り声や荒々しい吐息が周囲から響き渡ってきたわ。そしてひと際大きな遠吠えが鳴り響いた途端に……モンスターは霧を切り裂くようにして彼女へと一斉に襲い掛かってきたわ。


『GURYAUU!!』

『GYAROOOOOOO!!』

『VAOOOOO!』


 荒々しい鳴き声とともに、狼たちは彼女の華奢な首筋を食い千切らんと襲い掛かったり、武器を使わせないように細く柔らかそうな腕に噛み付こうとしたり、逃亡出来ないためにブーツ越しに太股を噛み千切らんとしていたの。けれど、それらは無駄に終わったわ。

 だって、獣臭い涎を撒き散らしながら牙を光らせ跳びかかろうとする狼たちと彼女の間に突然、地面から土で出来た壁が飛び出してきて飛び掛った狼たちは全員壁と衝突していたわ。かなりのスピードを出して飛び掛っていたのか、バシンと凄い音が響いてきていたわ。そしてそのまま作り出した≪土壁≫を外に向けて倒すと四方から何かが潰れるような声が聞こえたけど、気にせずにそのまま最初に遠吠えがしたほうに向かって≪鎌鼬≫を放ったわ。

 その方向に向かって風を切る音がしたと思ったら、その方向にあった岩がスパッと切れて……ズズッと倒れたわ。そして上のほうからも岩がごろごろと転がってきたから彼女は避けるために横に跳んだわ。


 ――瞬間、さっき倒した狼よりも大きなモンスターが大きな口を開けて彼女に突進を仕掛けてきたの。

 とっさに剣を構えて、彼女は突進するモンスターの大きな口が閉まらないように下顎を足で押さえながら、上に剣を振るったわ。剣の一閃でモンスターは口の中を傷つけて痛かったのか、身体をよじらせ……その隙に彼女はモンスターの口から離れて距離を取ったんだ。

 突然のことで少し驚いたけど、地面に着地して目の前のモンスターをじっと見ると、狼のような姿をしたモンスターだった。ただし、象……エレファンホースみたいに大きなでかさだったけどね。


「なるほど、あんたがこいつらのボスって所ね」


 不敵に笑いながら、彼女は剣を構え直したわ。

 夜はまだまだ明けることはないから、彼女は思う存分に楽しむ気満々だったわ。

危険な夜遊び続行中

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