ファーストコンタクト
自分と注文をしたワタシをその少年はいきなり睨みつけてきました。
一方でワタシは猫系の獣人なら何度も見たことがあるけれど、白い毛並みをした猫系の獣人は初めて見るのでついマジマジと見てしまっていました。
その視線に気づいたのか、あからさまに嫌そうな顔をしてきました。
「何ジロジロと見てんだよ? おばさん」
「お、おば――っ!? ね、ねえ……キミ? おばさん、じゃ無くて……お・ね・え・さ・んでしょう?」
「はあ? 何怒ってんだよ? おばさんにおばさんって言って何が悪いんだ?」
沸々と上がってくる怒りを必死に堪えながら、ワタシは笑みを浮かべますが……目の前の少年は、何の悪びれも無くそう言いました。
こ、この歳の子ははっきり物を言うと言いますかなんと言いますか……、そう思っていると注文を出していた屋台の店主が困った声を出してきました。
「あー、悪い。だいぶ売れてて、残り1個しかねぇや」
「じゃあ、オレが買ってくな! はい、お金。そんじゃなー!」
どうしようかと思った瞬間、素早い手付きで少年が店主の差し出した肉をもぎ取ると、お金を置いて素早くその場を去っていきました。
それを、ワタシと店主は唖然と見ていましたが、店主は良くあることなのかすぐに元に戻って、お金を取りました。
一方、ワタシは目の前で持って行かれた状況に固まっていました。
「え? え? えぇぇぇぇぇっ!?」
「姉ちゃん、五月蝿いよ」
「――あ、すみません。……とりあえず、別の店で食べ物を買わないといけませんね……」
しょんぼりしながら、近くの屋台で肉の煮込みとお茶を購入してワタシはフォードくんたちと分かれた場所へと戻ることにしました。
待ち合わせ場所に到着すると、すぐ近くのテーブルの前にヒカリが立っているのに気づき、近づくとワタシに気づいたらしく軽く手を挙げました。
それを見ながら、ワタシもテーブルに近づき買って来た食べ物を置きます。
「待ちましたか?」
「丁度ボクも来たところだから、気にしないで」
「そうですか。他の皆さんは?」
「まだ、みたいだよ。ボクが最初でサリーが2番目」
そう言いながら、ヒカリは待っている内に冷めたらいけないと考えているのか、買って来た食べ物を食べ始めていました。
と言うよりも、揚げポティトをヒカリは良く食べますね。
そんな風に思いながら、ヒカリが食べる揚げポティトを見ますが……彼女が買ったお店の物は、蒸したポティトを一度潰してからチーズや炒めたひき肉などを中に入れてから素揚げにするという作りをしているようでした。
食べているヒカリを見ているのも失礼だと感じ、ワタシも自身の食事を行うことにしました。
「……あ、美味しい」
きっと美味しかったと思われる肉を小生意気な少年に持って行かれましたが……、これはこれで美味しいですね。
豆を使った辛目のスープに入った余り物の筋が多い肉はトロトロに煮込まれていて、口に入れるとピリ辛の味わいと共に口の中で蕩けて行き……額から汗が零れますが、とても美味しく出来ていました。
二口目は……、今度はパンに乗せて食べてみますか。
そう思いながら、肉を買ったときに渡された薄く切られた固めのパンの上に肉を乗せて、口の中に入れると……軽いサクトロッとした食感と共に、再び肉の味わいが口に広がっていきます。
……今度は、浸してみますか。ワクワクしつつ、パンをスープに浸すとパンへとスープが染みこんで行き……色が侵食されていきます。
それを落ちないようにゆっくりと持ち上げて、パクリと口に入れると――ジュワァと軟らかくなったパンが口の中で解れて行きました。
「これは、良いですね……♪」
「……何か、本当に美味しそうに食べるね。サリーって」
「そ、そうですか?」
続けてもう一回と思っていたところで、不意にヒカリがそう言ってきたので……そちらを向くと、ジト目でワタシを見ていました。
そして、その言葉にワタシは照れながら答えます。
「まあ、別に良いけどさ……って、サリー。その子誰?」
「え?」
指を指すヒカリの方向を見ると……、何時の間にかワタシの隣にはお嬢様みたいな服装をした10歳児ぐらいの小さな女の子が立っていました。
その子は、光に透かすと銀髪に見えるような若草色の長い髪と頭に付けたリボンを揺らしながら……ワタシの腰をマジマジと見ていました。
「んー? 似てるけど、ちょっと違うかなー?」
「えっと、どうしたんですか?」
「どうもしないよー? ただ気になることがあったんだー♪ ……あ、分かったー!」
女の子はマイペースなのか、それともどうなのかは分かりませんが……悩んでいる風に腕を組んでいましたが、すぐに思い当たったことがあったらしく、ポンと手を鳴らしていました。
そんなとき、女の子の保護者なのか外套で全身を隠した人物が近づいて来るのが見えました。
「フィーン、や、やっと見つけた……。いきなり居なくなったから心配したんだよっ?」
「え? あーっ、ティアー! あれ?! フィン、迷子だったの!? ごめんね、心配掛けたよねー?」
「い、いや。無事ならそれで良かったよ。フィーンは可愛いんだから、人攫いに捕まらないか心配だったんだよ」
「えへへ、フィンは可愛いんだー♪ あ、それよりもティアー。ワンダーランドのおばあちゃんが居たよー♪」
その外套を纏った人物……声からして女性はだいぶ走り回っていたのか、ぜえぜえと息を吐いて女の子に話しかけるが女の子のほうは照れているだけだった。
何というか、緊張感が無いのかどうなのかわからない状況に苦笑していたワタシでしたが、突然ワタシを指差して女の子はおばあちゃんと言ってきたのです。
え? ワ、ワタシ、おばあ……ちゃん? というか、わんだーらんど??
「こっ、こら! 失礼じゃないかフィーン! 綺麗な毛並みをした獣人の女性をおばあちゃんだ何て言ったらっ! し、失礼した。えっと……それじゃあ、あたしたちはこれで失礼する……!」
「わっ、ティアー。フィン自分で歩けるから、抱えないでよー!」
白くなっているワタシを他所に、女性は謝って女の子を抱き上げると、すぐに逃げるようにしてその場を去っていきました。
そして、女性が離れてしばらくして……少しだけ気が楽になり始めたころに何時の間にかヒカリの隣にはルーナとシターが居ました。それから少しして、フォードくんが戻ってきましたが……。
彼のすぐ側には可愛らしい服装に身を包んだ、つい先程の女の子とシターの中間ぐらいの年頃の少女が居ました。
「え、えぇっと……?」
「フォード、アンタ、遂にそこまで……。しかも、魔法少女誘拐とか……」
「ち、違いますし、俺だけじゃないじゃないですか! 迷子ですよ迷子! 本人は泣いているだけだったから連れて来ただけですってば!! てか、魔法少女って何ですか!?」
「ひゃ、ひゃうぅぅぅっ!?」
「あ……、わ、悪い。怖がらせてしまったみたいだな」
フォードくんの大声に怯えてしまったのか、黒ずんだ緑色の髪をした少女が涙目になってしまい……フォードくんは謝っていました。
まあ、兎に角……この子を親御さんの下に届けないといけませんよね。
そう思いながら、ワタシはフォードくんに必死に謝られる少女を見ていました。
いったい、あの猫系少年とか、女の子とか、外套被った女性とか、迷子の少女は誰なんだ……(棒