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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
海の章
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拠点掃除・前編

「さてと、始めるとしますか!」

「は、はいっ!」

「できれば、ちゃんとしたベッドで眠りたいものね」

「埃っぽいのは嫌だもんね」


 腕まくりをしながら、ワタシは元気良くそう言って拠点の掃除を開始し始めました。

 シターは元気よく返事をし、ルーナも面倒臭そうな感じにしてはいるけれどやる気十分、ヒカリもワタシと同じように腕まくりをしていました。

 ……あのあと、話すべきことは話したので、シャーグさんも特に言うことは無かったようで、ワタシたちはタツオさんの店からお暇させてもらいました。

 その際に、シャーグさんからギルドのほうに掃除道具を用意していると言われたので、タツオさんの店から冒険者ギルドに向かい、シャッバさんから掃除道具を受け取りました。

 そして、今まさに拠点となる場所の大掃除が始まるのでした!


「えっと、まずは……シターとルーナで1階の窓を開けて、ワタシとヒカリで2階の窓を開けて家の換気をしましょう」

「ええ、分かったわ。それじゃあ、シターちゃん行きましょう」

「はいっ! 頑張りますっ」

「分かったよ」


 ワタシの指示に頷いて、ルーナはシターと共に1階の奥へと歩いていきました。

 そして、ヒカリはワタシが動くのを待っているのか、その場で立っていました。それを見てから、ワタシは残ったフォードくんに指示を与えました。


「それと、フォードくんは掃除道具の中にある2個のバケツに水を入れて来てください。一応、裏に井戸があるみたいですが枯れていないかの確認もお願いします」

「はい、分かりましたサリーさん。けど枯れていた場合はルーナさんに《飲水》をお願いしますよ」


 ワタシが頷くと、フォードくんは樹で作られたバケツを2つ持って裏へと歩いていきました。

 それを見届けてから、ワタシはヒカリと共に2階に向かって移動しました。

 ……しばらく使われていなかっただけだったのか、階段の床は腐ってはいなかったようで、抜ける心配は無いようでした。2階に……臭い、残っていないと良いのですが。

 そんなことを考えながら、ワタシとヒカリは階段の踊り場に設置されていた小さな小窓を開けて光を入れました。

 そして、2階に上がると……埃臭いにおいと、人間には分かり難いけれど獣人の嗅覚でなら嗅ぎ分けることが出来る残り香にワタシは顔を歪めました。


「えっと、サリー……大丈夫?」

「と、とりあえず、早く窓を開けて空気を入れ替えましょう」

「あー……うん」


 多分顔を赤くしているであろう自分はそう言って、近くにあった窓を開けました。

 ちなみに、この元逢引宿はだいぶお金を掛けていたのか……ガラス製の窓と、木製の鎧戸という二重窓となっているみたいでした。

 そして、開け放たれた窓から差し込んだ光によって、2階の廊下がどんな感じになっているのか明らかとなりましたが……逢引宿ではなく、普通の宿屋みたいな廊下でした。

 白い壁紙と等間隔にある窓、そして5つの部屋の扉。


「ふ、普通……でしたね。この廊下」

「うん、そだね。……で、サリーはどんな廊下を想像してたの?」

「え、えーっと……、こう、薔薇とかが描かれた悪趣味な壁紙で、色硝子が付けられた燭台が等間隔に並んでいて、こう……妖しい感じに……って、何を言わせるんですかっ!!」

「ボクは聞いただけだから、サリーは答えなかったら良かっただけじゃん」


 ヒカリの言葉に言い返せなかったので、ワタシは少しばかりイラッとしていました。

 それから、2人で分かれて窓を開けて行き、廊下へと外の光が差し込み……埃が待っているのが良く見えてしまいました。

 その様子にウンザリしつつ、ワタシは1つの部屋の前でヒカリさんと顔を合わせていました。


「……えっと、ヒカリさん。お先にどうぞ」

「いえいえ、サリーさんがお先にどうぞ」

「いえいえ、ヒカリさんこそお先に」

「サリーさんこそ……」


 ……ワタシとヒカリさんの間に静寂が生まれます……。

 瞬間、ワタシはヒカリさんの腕を掴もうとしました。しかし、それよりも先にヒカリさんが腕を後ろに引いてしまっていたので、それは出来ませんでした。


「何しようとしていたのかな、サリーさん?」

「何って、本当は開けたいって言ってるヒカリさんの後押しをしようとしていただけですよ」

「へー……、そっかー……そっかー……」

「はい、そうですよー?」


 ワタシとヒカリさんの間に今にも凍りつきそうなほどの微笑みが交差します。

 直後、その交差は微笑みだけではなく、手の取り合いに変わりました。


「自分が開けるのが嫌だからって、何でボクに開けさせようとするんだよ!」

「良いじゃないですか、減る物じゃないんですから!」

「減るよっ、開けたときに絶対に溜まった臭いが漂ってくると思うから、精神的余裕が減るよ!!」

「何ですってぇ? だったら、ヒカリもいやらしいことを考えていたってことじゃないですか!」

「何でそうなるんだよっ! サリーのほうがエッチなこと考えていたんじゃないか! このエロ犬ー!!」

「はああぁぁっ!? なんですかその言い草はぁー!!」


 気づけば口論が始まっていました。

 ……あー、しまった。こういう分担をするのは久しぶりだったからすっかり忘れていました。

 3年前の魔族の偵察のときはなんとも思っていなかったのですが、一緒に過ごすようになってから色々と互いに嫌なところを思うようになっていたんでした。

 で、何時もならワタシとルーナ、そしてシターとヒカリという分担だったのに……。そう思っていると、なんともいえない表情でワタシたちを見るフォードくんが居ました。


「えーっと、サリーさんたち……掃除するならするで、早くしてもらわないと日が暮れますよ? それに、見てて馬鹿らしいですから」

「「は、はい……」」


 何でしょう、フォードくんにそう言われるのが一番堪えます……。

 そう思いながら、ワタシはワタシで、ヒカリはヒカリで部屋の扉を開けました。

 中は廊下からの光を受けて薄暗く、素早く中に入ると扉を開けました。

 その際に臭いがしたか? と聞かれるならば……、運が良いのか悪いのか埃臭さのほうが上回っていました。

 とりあえず、それにホッとしながらワタシとヒカリは2階の部屋の扉と窓をすべて開けて行きました。

 そして、それを終えてから、本格的に掃除の始まりです。

皆さん、良いお年を。

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